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自らを信じて、夢中になって生まれたアルバム『FOOLs』

前作『Kameleon Lights』から1年半ぶりとなるアルバム『FOOLs』が遂に完成した。「ヒンキーディンキーパーティークルー」から「おはようカルチャー」「平成ペイン」と、シングル曲で多様な試みに着手してきた彼らだったが、今作ではその成果を遺憾なく発揮。これまでの経験をしっかりと昇華し、バンドとしてより強固なサウンドを描き出した。ここでは、GiGS9月号のインタビューに続いて、さらに一歩踏み込んで今作の制作背景に迫っていこう。また本誌では、進太郎の連載“FOOL on the Hill”の特別版として、プリティが『FOOLs』からの厳選ベース・フレーズを解説! そちらも併せてチェックして、この4人による会心作のサウンドを堪能してもらいたい!

Text/HIROMASA MURANO

“10年後に聴いてもこのアルバムはやっぱりいいなと思えるもの、
一過性で消費されるものじゃないものを作りたい”という気持ちが1番
──新作『FOOLs』はすごくバラエティーに富んでいるんだけど、それでいて単に多彩な楽曲がバラ撒かれているわけではない。1つひとつの楽曲がすごく濃密で、バンドとしてさらに新しいものを、しかもしっかりとした形で出して来たなという印象を受けました。今作を制作するにあたり、牧さんはどんなアルバムにしたいと考えていたんですか?
:今作には前作『Kameleon Lights』以降のシングル3作が収録されているんですけど、まずTHE BAWDIESとのスプリット・シングル「ヒンキーディンキーパーティークルー」では、“自分たちのルーツとなるものを今一度作ろう”といった気持ちがあったんです。それをきっかけに、STRAIGHTENERのホリエアツシさんにプロデュースしていただいた「おはようカルチャー」では新しい部分もありつつ、「ヒンキーディンキーパーティークルー」から地続きで繋がっている自分たちの柱みたいなところをさらに広げたイメージがあって。次の「平成ペイン」では、ホリエさんと一緒に作業して学んだことや刺激みたいなものを自分たちだけで完結させて良いものを作ろうというところで、3部作として何か1つの達成感というか、自分たちの軸ができたという思いがあったんです。それで、次はアルバムをと考えたとき、“バニラズって極論を言うと、自分たちの音楽をどんどんいろんな新しい形で出していって、お客さんをドキドキ、ワクワクさせていく。それをみんなに夢中になってもらうことだな”と思ったし、そういう思いがさらに強くなったんです。それは結局メイン・ストリームによるものではなくて、むしろ自然体に、自分たちが肌で感じるカッコいいものをいろんな形で試してみることだと思ったんです。言い換えれば、シングルで1つの軸ができた分、そこに追随するんじゃない形で、自分たちの音楽をやろうというのが、今作のテーマだったんです。実は前作の『Kameleon Lights』もそうだったんですけど、今回は前作以上の説得力と、あれを超える驚きだったり興奮みたいなものを作らなければならないとも思って。さらにいろんな音楽もインプットしつつ、なおかつすべての曲が映えるように、単なるバラエティーとかとは全然違うものを仕掛けとして落とし込んだり…例えばリズムもそうですし。そういうことを自分たち自身がすごく楽しみながら作り上げることができたアルバムが『FOOLs』なんです。タイトルは最後に付けたんですけど、ホントに“FOOL”という言葉がすごくしっくりきたというか、“この言葉にすべて現れているな”と思うんです。自然体で、肩の力を抜いて、余計なことも考えずに自分たちを信じて、僕も自分から出て来るものを信じて作り上げていったというところが、文字通り“音楽バカ”じゃないけど、それくらい夢中になって作れたアルバムだったんです。
──まさに良い意味での“音楽バカ”というか、やりたいことを楽しく、愚かなほど突き詰めようっていう手応えはすごく感じます。
:はい。ただ、自分的にはバンドのこれからの流れや将来とか、いろんなことも考えていて。これはずっと言ってきてることでもあるんですけど、“10年後に聴いてもこのアルバムはやっぱりいいなと思えるもの、一過性で消費されるものじゃないものを作りたい”という気持ちが1番だから、そのための統一感みたいなものは、今回もしっかりと考えて作りました。
──個々人のプレイで、今までやっていなかった新しい部分を見せた楽曲もありますか?
セイヤ:「ナイトピクニック」かな。この音作りはこだわりました。と言いますか、自分の中でなんか楽曲毎に系統というか、キャラがあるんですよね。例えば「サクラサク」「FUZZ LOVE」「パペット」という曲は、ビートに関してちょっと近いものを感じますし。「ナイトピクニック」と「バイバイカラー」「サウンドエスケープ」は、牧がガッツリDTMで作り込んだ曲なんで、なんか近いなと思いますし。でも、個人的に1番好きなのは、やっぱり「ラッキースター」。これはすごく人間味のあるビートというか、ベースもちょっと古いモータウンチックというか、ソウルフルな感じがあるんですけど、こういうハネる感じができるバンドって、意外と今は少ないと思うんですよ。それだけにビートの面では1番個性が光ってる曲だと思います。
──ギターが細かい16ビートのカッティングで、ちょっと昔のシティー・ポップっぽい感覚もありますよね。
セイヤ:そうそう。ノリが小気味いいというか、そういうビート感があるんです。
──「グッドドギー」っていう曲のライト・ファンクっぽいノリも面白いなと思いました。
セイヤ:そうですね。これも結構音数が少ない分、リズム隊がグッと前に出て来ていて、(長谷川)プリティとも「音もいいしね」という話をしてました。
──プリティさんは?
プリティ:僕も「ナイトピクニック」ですね。単純に音がいいし、ドラムとの絡みもいいし。これは昔から思ってることではあるんですけど、音や絡みが良いと、弾いてるフレーズは特に動かなくてもそれだけで十分カッコいいんですよ。それができたということが、たぶん自分の中では今回1番新しいことです。
──「ナイトピクニック」は曲調自体そんなに派手じゃない。淡々とも違うんだけど、すごくがっしりとしたものがずっと続いていく感じ。だからこそ余計な動きはいらなくて、芯だけあればOKっていう手応えを感じます。
プリティ:そうですね。しかも自分で本当に良いと思える音で、ちゃんとベースを鳴らしてる。その状態のベースが自分でもカッコいいなと思うんです。それと「ストレンジャー」という曲も自分的には新しいかな。
──これは(柳沢)進太郎さんの詞曲で、ボーカルも進太郎さん。引き締まった強さと勢いを持った、ハード・ポップっていう感じの熱い曲ですね。
プリティ:これは進太郎が最初にDTMで作った音を渡してくれたときに、Aメロのアクセントがスネアと完全に同じところに付いていたんです。自分だったらたぶん、“普通に8ビートで弾いた方が、スネアがもっと際立つんじゃないかな”と思ってプレイすると思うんです。そういう、自分にないアクセントの付け方がすごく新鮮でした。
セイヤ:今回は結構手癖を封印した楽曲と、手癖を出した曲がありますね。「ナイトピクニック」「バイバイカラー」は、手癖を封印したというか…あえてフィルを入れないとか、どれだけタイトにというか、リズムだけでいけるのかみたいな曲。レコーディングの前半戦は結構、もともとの8ビートとかを重視したロックな感じを出して、「ラッキースター」「グッドドギー」はファンクじゃないけど、そういう感じのちょっと古めかしい要素、ハネる感じとかを入れたりしていました。
──手癖の封印と、手癖を生かすの両立。
セイヤ:だからなんか人間が変わったくらいの感じがあって、面白いなと思いました(笑)。音もみんな違うし。
──進太郎さんは?
進太郎:1番大きい変化としては、前作と比べてディレイの使い方を見直しました。今までディレイはあまり使ったことなかったんですけど、今回僕には空間の奥行きみたいなものがすごくあるように聴こえて。その要因がディレイかなと思ったんです。なので、エンジニアさんに掛けてもらったディレイがほとんどなんですけど、そのディレイのタイムをスタジオでしっかりとやると、本当に牧さんがDTMで作ってきた音と同じような音がするというか、ちゃんとその奥行き感で音を出せたんですよね。リバーブの音は結構環境によって変わるじゃないですか、そのスタジオだったり、ライブハウスの大きさだったりで。でもディレイは結局タイム的な問題だったりして、もちろん会場の大きさとかも関わってくるんですけど、基本的にライブでもそのタイムは変わらない。そこを統一できるというのが、結構自分でも安心できるというか、“あ、同じ音がする”という感じがあって…。そういうのがすごくいいなと思いましたし、大きく変わったところです。
──空間と広がりを今まで以上に意識している音質作りですね。
進太郎:まさにそうです。リバーブじゃなくて、ディレイで縦の奥行き感を出してる。しかも、ディレイだと耳に届いてくるまでの時間を操れるので、それって結構デカいなと思いました。
──他にも今まで使っていなかったエフェクターってありますか?
進太郎:「グッドドギー」でワウを初めて使いました。前からワウへの憧れはあったんですけど、難しくて苦労しましたね。踏み具合を固定するために、割り箸を挟んだりしました(笑)。
──この曲の頭の音はギターですか?
進太郎:いや、トランズレイターで俺が歌った声をハイ・ピッチみたいにしてるんです。あと、「サウンドエスケープ」でフルートのエフェクトを使っています。イーブンタイドのH9というやつ。そこにスティール・パンが乗るという感じが斬新で、この曲のリフがかなり際立って、いいアレンジだと思います。
──音質もすごくクリーンに抜けて来るものもあれば、結構太いサウンドで攻めて行く部分もある。今まで以上に音質の選び方が多彩になっている気がしました。
進太郎:それもやっぱりDTMが大きいですね。最初からしっかりイメージを擦り合わせられるので、音質的な部分も本番でちゃんと結果になる。事前に絵が具体的に見えて来る、音が聴こえて来るというのはやっぱりデカいです。
──歌メロやコード展開にも、今までにないものがどんどん出てきている気がしました。
:そうですね。やっぱり試すことがたくさんできたというのが良かったんだと思います。全曲とは言わないけどフックになるセクションを入れたりして、1本調子で終わる曲がないんです。それは“同じような曲は作らない”という昔からの自分の挑戦ではあるんですけど、ただ、それに対して以前だったら、どうすればいいかなみたいなことをすごく感じていたんですよね。でも今回はメロディーにコード乗せていくときも、例えばシンプルにルート音に対するメジャー・コードじゃなくてとか、ここの響き方、コードを変えたらどうなるんだろうかとかというのをすごくいろいろ試してできたので、そこはかなり進化したんじゃないかなと思います。あと、メロディー自体もそうですね。今回ファルセットで歌う部分がすごく多いんですけど、それもメロディーに関して今までにないものを探していく中で、必然的に多用したかなというのはあります。
──「バイバイカラー」は、そんなにパシッとした音は聴かせていないんだけど、すごく重層的に音が重なって、広がっていく感じがします。しかも歌メロも、そんなに派手じゃないんだけど、今までにないものを出してきている。「サウンドエスケープ」も、今までにない空間の作り方をしていますね。どの曲もそうなんですけど、個人的にはこの2曲に新しさを顕著に感じました。
:歌メロに関してもそうだし、この2曲がたぶん、今まで反映されてこなかったんですけど、実は自分が好きな音楽だという部分が強いからだと思います。これが例えば、新しいことをしたいなと思って、その辺の洋楽をちょっと聴いて”あっこんな感じでやってみよう”というものだったら、たぶんすごく薄かったと思うんです。ただ、ずっと好きで、“やっとやろう!”という感じもあったし、やっぱり“初めてやるんだから、とことん細かくやろう”という思いもあって。「サウンドエスケープ」は結構肩の力抜いてやったんですけど、「バイバイカラー」はすごくこだわりました。シンプルなビートに他の音だったり、それこそ歌だったりをどこで絡ませていくかというところも、すごく綿密に考えていったんです。2Aの後の2Bの前とか、あとサビの前のフィルというか、ジャンプするところはすごく考えました。だから1番達成感があった曲ですね。
──どれもこれも聴き応えがあるんですけど、1曲目が子供の声も入ったアイリッシュ・パンクとカントリーを合わせたようなインスト・ナンバー「We are go!」というのも意外でした。
:これは、ライブのオープニングSEを作ろうと思って最後に録ったんです。みんながクラップだったり掛け声だったりでワーッと盛り上がってもらえるような。僕、チャイルド・ミュージックというか、子供たちが歌ってるロックンロール・ナンバーのレコードがすごく好きなんですよ。あと、EDMじゃないけど、ダンス・ミュージックとかで子供の声をサンプリングで入れている曲があるじゃないですか。ああいうのも好き。ほら、子供ってバカじゃないですか、良い意味で(笑)。そこに結構、グッときてたんですよね。心の底から全力の声というか、カッコつけてない。それが頭の中にあったんです。あと1つこだわったのは、ライブではやっぱりSEよりもその後のバンドの第1音の方が“くる!!”となるようにしたかったんです。なので、極力電子音を入れないアコースティックなサウンドで、でもお客さんのテンションを上げさせて、バンドのオープニング第1音で一気に最高潮になるという、そんな作りを考えました。
──バンジョーとハーモニカは誰ですか?
:FIRE HORNSという3人組にお願いしました。著名なアーティストのバック・バンドとしても活躍している有名な方たちです。
──他にもシンセやホンキートンクなピアノが入った曲もあるし、これだけ多彩なアルバムだとツアーでもいろんなことが試せるというか、いろんな自分たちを見せられそうですね。
セイヤ:今からどうしようかなと思ってます(笑)。でも、きっとツアーの日を追うごとに変わっていくでしょうね。初日と最後では全然違うだろうなというイメージはあるので、来れるところは全部来てください。
──その都度、違う自分たちが見せられる。
セイヤ:はい。どう変わっていくのかを、ぜひ生で観て欲しいです。
進太郎:今回、曲としてのリズム隊の大きさが増したと思うので、そこに乗ってギターを弾くのはきっとすごく楽しいだろうなと思ってます。だから、それを観て欲しい。バンドとしてもきっと、今までより一回り大きくなった姿が見せられると思います。
プリティ:このアルバム・ツアーは、フェスとかの30〜40分程度のセトリとギャップのあるライブになると思うんです。フェスでは観られない、すごく濃いツアーになると思う。しかもアルバム自体がものすごく細かいところまで考えて作ったので、ライブに遊びに来る前に『FOOLs』をぜひ聴き込んで欲しいですね。細かいところまで聴けば聴くほど楽しめるライブにしようと思ってます。
セイヤ:隠しキャラを見つける感じでね(笑)。CDを聴いてどうなってるか分からないところをライブで観られると思います。
:ツアーだけじゃなくて、ここからはいろんな普通とか、当たり前をぶっ壊していきたくて。ライブの見せ方とか在り方もそうなんですけど、ただ演奏して歌を歌うだけでは、もう楽曲の進化をカバーし切れないんですよ。そうなったときに、これだけ文明も進化して、いろんな面白いこともたくさんある状況なんだから、やっぱりそういうものも含めてライブに採り入れていく感性が必要になってくるんじゃないかなと思うんです。それに、自分たち自身も同じことをずっとやってるとどうしても飽きると思うんですよね。だったら、やっぱり新たな感動みたいなものがライブにはないといけないと思うんです。そういう意味では、1曲1曲での世界とか空気を作れるようになることが大事。セクションごとに“ここはこう”という常套手段はありつつも、それを超えていく何かみたいなものを新たにバンドの形としてやっていった方が、これまでとは違う、唯一無二みたいなものも生まれてくると思うし。今回はそういうことを試せるツアーになるんじゃないかなと思います。
──確かに『FOOLs』はgo!go!vanillasっていうロックンロール・バンドの器が大きくなったアルバムだという気がしました。いろんなことをバラけず、しっかりそこに収めている。で、自分たちのものとして表現できている。その器の大きさをライブという場でどうやって生で表現してくれるのか、すごく楽しみです。
:はい。しかもそれを平然と、心持ちとしてバカになってやれないとダメなんだと思うんです。それを器としてギリギリの状態でやっちゃうと、どうしてもそっちに引っ張られちゃってライブ感がなくなっちゃたり、ちゃんとお客さんに向いているかというと、そうじゃなかったりするんで。あくまでもそこを余裕で超えて、楽しんでることを見せきることができれば、さらに面白いライブになるんじゃないかな。なんか新しい雰囲気とか、化学反応みたいのが起きると思うし、だからそうしていきたい。それがまた次に繋がっていくんだと思います。