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go!go!vanillas

より緻密なアンサンブルの構築に成功したバンド内改革

「ヒンキーディンキーパーティークルー」、「おはようカルチャー」と、シングル2枚でバニラズらしさを打ち出しながら新たなことに挑戦してきた4人が、最新曲「平成ペイン」では楽曲の制作方法でもこれまでと異なる手法を採用したという。その結果、バンド・アンサンブルに多大な効果をもたらしたのだ。そんなニュー・シングルについて、「平成ペイン」の歌&ギター・サウンドを語ってもらったGiGS6月号本誌のインタビューに続き、こちらではリズム隊の変化、さらにはカップリング曲たちの完成背景を聞いていこう。さらに本誌では、進太郎による「平成ペイン」ギター・プレイ1曲丸ごと解説も展開! 併せてチェックして、最新型バニラズ・サウンドの深層部に思いっ切り浸ってもらいたい!!

Text/HIROMASA MURANO

学んできたものを全部融合させて しっかりと自分たちだけで作り上げたのがこの曲なんです
──新曲「平成ペイン」は、STRAIGHTENERのホリエアツシさんプロデュースによる前作「おはようカルチャー」に続くシングルとして、当初どんなものを出していこうと考えていたんですか?
:「おはようカルチャー」では曲の中にシンセなど、バンドのサウンドをさらにキラキラするものを初めて採り入れたんです。それは表現方法として、ライブでもみんながハッピーに、自然と笑顔になれるような空間を作るのにすごく必要なものだなと思ったからで。だから、次のシングルもそういう方向性で出していくのも1つの形としてアリだなと思ったんです。ただ思い返してみると、去年の夏に「ヒンキーディンキーパーティークルー」を出して、1月に「おはようカルチャー」を出して、いわゆるバニラズらしさみたいなところを出している期間がそれ以前よりも長かったことに気が付いたんですね。「おはようカルチャー」もホリエさんという新たな要素が入りましたが、僕たちは逆に“ザ・俺ら!”というところを表現したことがちょうど良くミックスされて、バニラズというカラーをちゃんと残しつつやれましたし。そうやってずっと一貫性があったから、シングル3部作じゃないですけど、その“結”という部分の答えみたいなものをこの曲で出せたらなと思ったんです。
──現在形としての1つの答え。
:はい。そこは結構意識しました。だからこの3曲はサウンドもカントリー・ビートみたいなものや、4ビートというものの疾走感みたいなところで統一されてる部分があるんです。だけど、その中での音楽の見せ方みたいな部分は全部違っていて。いわば、学んできたものを全部融合させて、しっかりと自分たちだけで作り上げたのがこの曲なんです。
──曲作りの方法がこれまでと違って、DTMで作ったデモをやり取りしたそうですが、そうすることでドラムやベースにも何か変化はありましたか?
進太郎:DTMを使うことで曲作りの瞬発力が上がったんですけど、それってその後のアレンジにもかなり関わってくるんですよね。良いスタンスの状態のままバーッといけるというのは、かなりデカい。アレンジも、よりシンプルなんですけど複雑に聴こえたり、シンプルなんですけど深みのあるフレーズに行けるようになったり。特にベースは大きいと思います。ベースってどうしてもリハだと聴こえなかったりするんですよね。ドラムもそうなんですけど、音が大きすぎて分からないみたいな。でもベース・ラインって歌にも関わりますけど、むしろ曲に大きく関わってくるものだから、よりシビアに精査されるようになったのは、やっぱり曲が良く聴こえるようになったことに繋がっていると思うんです。プラス、ドラムはキックのパターンまで話し合うとか、リズム隊全体のアレンジを牧さんもしっかり見ながらやれるようになったというのが大きいなと思います。
──「平成ペイン」ではドラムとベースもとても存在感が増したなと思ったのですが、お2人は今回の(長谷川)プリティ(敬祐)さんのベースと(ジェット)セイヤさんのドラム・プレイに対してどんな手応えを感じていますか?
進太郎:以前の楽曲って、どうしても弾きすぎてしまう、叩きすぎてしまうというところがあったんですよね。もちろんそれが無駄だったわけではないんですけど、今は何て言うか…“ここは叩かなくても、俺が支えられる”みたいなニュアンスになったんじゃないかなという感じがしています。だからギターも練習していて弾きやすいんですよね。リズムがふくよかになったというか、今まではもっと細かくて、例えば16ビートがしっかり16ビートという感じだったんです。でも今は16ビートを叩いていても、点から点までの距離がどんどん大きくなってきて、4ビートくらいの感覚で乗れる感じになっているんです。その点と点をどれだけロング・タイムで感じられるかがリズムには大事なところだなと思うんですけど、それがすごく気持ち良くなってきてるんですよね。だから、それを今制作してる他の曲にも落とし込めたらいいなという話もしていますし、今までの曲にも反映させられたらいいなと思ってます。それくらい気持ち良くなれるビートになってきていて。しかも、その方が聴いた人もリズムを探れるんですよね。“あ、ドラムってこうなってたんだ”というのが。聴くときってたぶん、まず歌を聴いて“わぁ、この歌いいな!”と思うわけでしょうけど、全部の楽器が同じ感覚で“この曲、メッチャ良かったー!”という風にも聴けるようになってるんです。それってやっぱりバランスとしてちゃんとピラミッド的というか、しっかり詰まってる感じがして、すごく良くなってると思うんですよ。
──軸になった4曲以外に、これだけ多彩な楽曲を表現できた要因は何だったんでしょう?
JIM:なんでしょうね(笑)。何せ2年間もルーティーンとしてみんなで作曲活動やレコーディングをしてたので、自分としては変な意味ではなく、特別感がないんですよね。というか、ごくごく自然体というか、リラックスしてたんじゃないかなという気はします。
──よりソリッドなバンド感を手にできたと同時に、表現されるグルーヴも大きくなってきているわけですね
:僕は昔から、リズム隊で大事なのはあくまでリズムがカッコいいかどうかのセンスだと思うんです。どれだけいろんなテクニックを持っていようが、グルーヴがなければ“ふ〜ん、別に…”という感じになってしまう。そうならないためには裏拍の取り方。例えばドラムのフィルも、その裏拍の感じをしっかり捉えられるようじゃなきゃダメだと思いますし、ベースも弾いてない部分の裏をちゃんと持つということが大事だと思うんです。実は、DTMでクリックに合わせて録ると、そういう余白を作るのって難しいんです。ただ、2人には人間だからこそできる、自分のグルーヴ・センスをしっかり出して欲しい。以前はそれが少し足りないかもしれないと感じてたんです、ベース、ドラムに関しては。例えばフィルでもなんでも、昔はギターのようにちょっとでも隙間があれば音を突っ込んでいたり(笑)。それによって、ギターはどこでどうすればいいんだろう…みたいなのがあったし、レコーディングで実は音がぶつかっていたり、ベースのルートが違うところに行っていたことに気がついたりしたこともあったんですよね。それはやっぱり良くないんじゃないかと。でも、今はセイヤもプリティもそういうのが分かってきてると思うんです。例えば、ドラムが純粋に8ビートを叩くとすると、それをどう聴かせればただの8ビートじゃなくて、ライブでもお客さんのノリと一緒の瞬間を作れるか。縛られたルールの中で、いかに個性を出すか。そこに自分の思考が行くことによって、グルーヴはさらなる高みに行けると思うんですよね。で、その1つひとつの基礎みたいなものも、言ってしまえばその人の捉え方次第で誰にも真似のできないものになるし、僕はそれが1番カッコいいなと思うんです。なので、2人には極力その曲の包括的な部分を支えていくというところに集中して欲しいと思ってたんです。それで、この曲では2人ともそれをちゃんと理解して意識できているし、今作っている曲も、これまでとは安心感が違うというか、説得力が全然違うんですよね。
──プリティさんもセイヤさんも、きっと何かを掴んだんですね。
:はい。実際に、ベースとかもフレージング的には昔の方がいろんなこと超やってるんですよ。でも、今の方が聴こえてくるんですよね。“ベース”というものが。もちろんそれはドラムも含めてなんですけど、逆に存在感が増してるんです。
──そういう意味でも「平成ペイン」は次に繋がる、3部作の良い締めになったわけですね。
:はい、そう思います。
──ちなみに、スティール・パンの音は生ですか? 部分的にだけど、とてもリズミックで効果的な味付けだなと思ったんですが。
:あれはシンセで作った音で、僕が弾いてます。結構重要な役割を果たしてますよね。
進太郎:この曲、よく聴くと実はシンセのフレーズがいっぱい入ってて、うまく混ぜているんですよ。
──心も体も躍らされてしまうようなポップなロック・ナンバー「平成ペイン」から一転、2曲目の「Ready Steady go!go!」はパンキッシュなロックンロール。これはセイヤさんが詞曲を書き、歌も歌っているんですね。
:歌に関してはプリティ、進太郎とやってきたので。単純にライブという部分で、さらに僕たちならではの面白さを追求しようと思ったんです。セイヤ自身そういうのが大好きだから、“やっときたか! よっしゃ、やってやるか!”という感じでしたけど(笑)。ただ、いかんせん彼はバニラズの曲を作ったことがないし、持ってきた曲もまだまだ断片的な部分が強くて。じゃあこれはみんなで考えようってことになったんです。で、セイヤがベーシックで作ったものから「ここは、こうした方が…」みたいなことを4人で考えながら作っていって。ただ、あくまでセイヤが中心になっているので、基本的に僕はギターに徹するというか、セイヤのやりたいことに合わせていきました。
──どんなギターを弾こうと考えていたんですか?
:僕は、セイヤの好きなものを知っていましたし、なおかつアメリカの西海岸から出てきたような、2010年代のバンドがすごく好きなんです。でも、そういうアプローチというのは自分の曲ではなかなか出せなかったので、この曲はそういう気持ちでやろうと。だから歪みの質もちょっとローファイなところを意識したんです。それと、この曲は1番と2番でリード・ギターが変わってるんですよ。1番は僕がリードとソロを弾いて、2番は進太郎がリードとソロ弾いていて、それぞれお互いがやりたいことをやるっていうか、お互いに目配せすることもなく、ホントに好きに弾きました。
──逆に言うと、それだけセイヤさんに楽しませてもらった?
:そうですね(笑)。
進太郎:僕もローファイというのは1つテーマでした。と言いますか、みんななんとなくローファイ臭みたいなのがあったんですよ(笑)。セイヤさんも「俺、そういう音好きやし!」と、レコーディング中ずっと言ってましたしね。で、ギターもいろいろ弾いて試したんですけど、セイヤさんが「ファイヤーバードがいい!」と言って。かなり気に入ってくれたみたいです。
──ベースもかなり歪んでいますよね。。
進太郎:ファズとかメッチャ掛けてますからね。
──その辺の音作りはセイヤさんの指示だったのかなと思ったんですが。
:メッチャ言ってましたよ。だから最初は過多になりすぎちゃって、これはちょっと1回リセットしようとことになったんです。抜き差しがないというか、全部プラス。全盛りだったので(笑)。
──セイヤさん、力が入っていたんですね(笑)。
:だからホントにもう、パンク・キッズがレコーディングしたみたいな感じですよ。バンドマンじゃなくて、パンク・キッズがイメージで(笑)。ミックスとかも細かいところはセイヤは分からないから、ホントに少年のときに聴いたパンクの好きな部分を感覚で全部言ってましたね。だけど、それがすごい面白かったです。僕には絶対できないことだから。
──単なる広がりではなく、go!go!vanillasがもともと持っていた引き出しをまた1つ開けたという感じで、すごく面白かったです。
:そうなんですよね。僕がいろんなものを振り切って行っちゃうと、バニラズというもののイメージが変わっていってしまう部分があるんですけど、メンバーがやる分には、それもバニラズじゃないですか。だからこういう曲を作っても、セイヤだから成立するというか、1つできることだなと思うんですよね。ライブでもすごく楽しみな曲です。
──ライブの絵が浮かんできます。
進太郎:セイヤさん、メッチャ練習してるらしいですよ(笑)。レコーディングではハンドマイクで録ったから、叩きながら歌うのも楽しみです。
──3曲目はgo!go!vanillasのシングルでは恒例になっているカバー・シリーズ。今回はアニメ映画『耳をすませば』の主題歌として知られる「カントリー・ロード」の日本語詞バージョンですね。
:ずっと好きな曲だったということもあって、昨年のTHE BAWDIESとのスプリット・ツアー“Rockin’ Zombies Tour 2016”のアンコールでも僕が提案して一緒にやったんですけど、僕はこの日本語の歌詞が大好きで。この歌詞で全部通してバニラズでもカバーしたいという思いがあったんです。それに、この曲にはバニラズというバンドの色みたいのものをより色濃く見せられる部分もあったので。アプローチの方法も例えばバンジョーを使ったりして、よりルーツに近い手法で見せるってことを試してみたかったんです。
──バンジョーは進太郎さんが弾いているんですか?
進太郎:はい。
:いつもだったら、普通にアコギなのかエレキなのかという感じですけど、今回は普通のアコギだけじゃなく、12弦のアコギと、バンジョーと、ギターのフレーズをクリーンのエレキでも録って…みたいな感じで。ホントに隙間をすごく作ったアレンジにしたんです。
──もともとカントリーチックな楽曲ですが、このサウンドにはそれだけじゃない、どこかアイリッシュな匂いもありますね。
:そうですね。そっちに近い方向で作りました。
──歌詞も原曲とは真逆な意味なんですよね。
:そう。より日本人の感じる心という感じですね。オリジナルのジョン・デンバーが持ってるアメリカン・ハートじゃない感じが日本人として響く。そこをちゃんと歌ってるというところが、すごくいい歌詞だなと思うんです。