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go!go!vanillas

新たな視点から、よりカラフルな音像を描き出した『Kameleon Lights』

4人のプレイヤーとしての個性がより明確に打ち出されたことによって、バンドとしての強度が増したメジャー2ndフル・
アルバム『Kameleon Lights』。本作は彼らにとってターニング・ポイントになるだろう。そして、この1枚をきっかけにバンドは
次なるステップへ踏み出すはず…そう思わせるのに十分完成度を誇っている。ここでは、そんなアルバムの完成舞台裏を
聞いていこう。さらに、GiGS3月号では本作に収録された「スーパーワーカー」のギター・プレイを牧と進太郎が1曲丸ごと
解説&このインタビューの続編を掲載しているので、ギター片手にそちらもチェックしてもらいたい!!

Text/HIROMASA MURANO

もっと純度が高いまま表現しても大丈夫だっていう確信があったんです
言い換えれば、それくらい自分たちの音楽性が増してるっていう手応えがあったんです
──『Kameleon Lights』は柳沢さんが加入して初のアルバムですが、制作に入る前はどんな青写真を描いていたんですか?
:ギターが変わったからといって、そんなに気負ってやった気はなくて。たぶんこのメンバーになっての自然な流れというか、そういう意味でいうと、みんなそれぞれのグルーヴというか、考えていることがハマったというのが1番なのかもしれないです。僕としては次のステップというのはずっと考えていましたし、次に自分が何をやりたいのかっていうのをより明確にメンバーに伝えたりしていて、そこは以前とあまり代わってないんですけどね。ただ、僕らはあんまりDTMとかは使わないで、スタジオに入って、そこで原曲を聴いたときの反応で曲を作っていくんですけど、そういうことで言えば(柳沢)進太郎が入ったことで、僕が要望することとか、いろいろアレンジの実験をする上で、解釈するのが早いというのが良かったのかなと思います。僕が思い描いているものをちゃんと音で具現化してくれてるというのが。速さってすごく重要だなと思いました。アイディアが色褪せてしまうくらい時間が掛かっちゃうと、それが良いものじゃなく感じちゃうから、そのときにバンッとやってバチっとハマる感覚っていうのが重要なんですよね。だから、それをちゃんと体現してくれて、そこに他のメンバーもちゃんと付いてきてくれてたっていうのが大きかったですね。
──今作はタイトル通り、カメレオンのようにやっていることも曲調も多彩ですよね。しかもバンドの強度がすごく増していて、単に引き出しの多さという以上の懐の深さを感じました。
:今回はすべての曲調をバラバラにしたかったんですよね。アルバムを作るってなると期間も限られてくるから、同じような曲が生まれたり、コード・ワークも何かちょっと派生しただけっていうものが前は結構多かったんですけど、今回はそれもなく、トライしてみたかったことを全部やりたかったんです。このメンバーになったのは昨年の7月からですが、なんかもう次のステップに行くことができるんじゃないかなって思って。結果、ある意味前作の『Magic Number』とは全然違うというか、音楽的な部分で見て完成度が高いというか。ロック・バンド的に見れば『Magic Number』も1つの完成形として良かったなと思いますけど、そこを音楽で考えたときに、たぶん完成度は今回の方が断然高いのかなと思ってます。
──アルバムの前にはシングル「カウンターアクション」のリリースがあり、その後にツアーもありましたが。バンドとしての手応えはいつ頃から掴んでいたんですか?
:「カウンターアクション」が順番としては今回のアルバム収録曲で1番早くこの4人でレコーディングしたので、そこでまず“音になる”ってことを体験して、その後のツアーに出たんです。そのときみんなの気持ちは、もう次に進んでましたね。で、曲もアッパー・チューンじゃないですか、「カウンターアクション」は。それをみんなで1つ作り上げたがゆえに、例えばもっとスローな曲だったり、音と音の余韻とか間隔を楽しむみたいなこともちゃんとやれたと思うんです。それに、ライブでもあの曲のパワーみたいなものをお客さんの反応を見てすごく感じたんですね。だから、僕的に今回は“お客さん”がテーマといえばテーマなんです。今までやってきて、いろんな音楽シーンが…僕らの世代の音楽シーンもたくさんある中で、どこかで“本当に伝わるのかな?”とか、音楽をノレるかノレないだけで考えられたら嫌だなとか、そういうのを考えてて、いろいろ頭を使いながら曲を作ってきたけど、なんかもうここ最近の、特にワンマンとかだと、僕たちのライブに来てくれるお客さんはそういう感覚で音楽を見ていないなと。純粋な意味でいろんな音楽を楽しみたいから教えてくださいっていう感じというか、そういう柔軟な姿勢がすごく見えるんですよね。だったら、もうホントにそういう僕たちのお客さんに向けて曲を作ろうと思ったんです。ただ、単に広い窓口を考えすぎるだけだと大衆性が強くなるだけで、ともすると自分たちの個性がどんどん潰れていっちゃったりもするんですけど。今回はあえてそういうバランスを考えずに、というか、ホントに自分が好きないろんなジャンルの、例えば歌謡曲もそうだし、海外のインディー・ロックみたいなものもそうだし、昔からあるロックンロールとかフォークとかっていうものもそうだけど、それをもうちょい…昔はすごく分かりやすくしてたんだけど、そこまでしなくても、もっと純度が高いまま表現しても大丈夫だっていう確信があったんです。言い換えれば、それくらい自分たちの音楽性が増してるっていう手応えがあったんです。
──自分たちの芯をなくさずに、それを収拾つけながら届けられる、かつ受け取ってもらえるようになってきてたんですね。
:そうですね。いつのまにか、気付けばっていう感じです。
──アルバムのラストを締める「ギフト」という曲は、まさにそんなファンに向けての想いを込めた楽曲ですね。
:あれは初めて、分かりやすく、ライブに来てくれるファンだけに焦点を当てました。そういう曲を書けるようになったのも、たぶんそういうことなんですよね。もう安心できるというか、自分の表現するものを100%でちゃんと見てくれる人たちがたくさんいるっていう。だからそこに対して、恩返しというか、何かしてあげたい気持ちになったんです、自然に。そうなったときに、その心というか気持ちを曲にして、このアルバムの締めとして置きたいなというのがあって作りました。
──楽曲作りやアレンジに関しては牧さんが叩き台を持っていくんですか? それともすべてメンバーにお任せですか?
:お任せというか、まずベーシックなものを持って行って、大体のパターンやコードとかを教えて、そこから…僕は基本的にドラムなんです。自分のイメージするドラムがあるので、それをまず叩いてもらって。それがある程度しっかり固まってきたら、あえて、そうじゃないものを試してみたりしながら、固めていって。そこから連動してくるリズムに沿って、ギターやベースが乗ってくるっていう感じです。で、そこからはもう、結構メンバーに「ハイどうぞ」っていう感じにして、僕が聴いてて「いや、ここはこうでしょっ」ていうときは言う、みたいなことが多いですね。
──リズム隊の重さとグルーヴ感が増している気がしました。なおかつ、それが軽快に届いてくる。だからグルーヴが太くなって、すごく気持ち良いんですよね。ドラムは今回、どんなサウンドを目指したんですか?
セイヤ:音作りに関しては、今までは響きのある音が好きだったんですね。スネアとかもサステインがあるもの。でも今回はタイトにというか、すごくリズムを出すっていう部分に気を付けたなっていうのはあります。それが重さみたいなものにも関係してくるのかな…。あと、確かに結構低いですね、音の帯域が。
──それは、意識して?
セイヤ:はい。単純に体が動くような、ディスコ的なというか。ダンス・ミュージックとか、そういう感じの分かりやすさっていうのは意識しました。
──上半身だけじゃなくて、低いところから体を持ち上げてくれる深さがありますよね。
セイヤ:ズシズシくるような感じですよね。レコーディングのときも今回はエンジニアさんにそういう音作りを伝えて、意図的にやりました。
──なぜ、そういう音作りに?
セイヤ:理由としては、最近聴く音楽がなんかタイトな感じが多いので、そういうモードになってたんだと思います。
:僕がリズム隊も含めて、参考音源をエンジニアさんに渡すんです。そこで、やっぱりリズム隊が最新の音じゃないと嫌なんですよね。意図してビンテージにするのはいいけど、中途半端な音になるのが結構日本のバンドは多いと思うんですよ。分かりやすくというか。そういう意味で、やっぱりそういう重いビートというか、ちゃんとゲート掛かってたりとか、ちょっとゲインが強めな感じだったりとかっていう部分で、ちゃんと今の時代と合わせるみたいなことは意識してました。
プリティ:アルバムを通して、そういうビートにおいてのテーマみたいなのは、かなり早い段階で牧からありました。
──ベースの音作りは?
プリティ:基本的に以前と比べて、やっぱベースもすごく重心が低くなった感じがします。ミックス段階で「ベースの重心を下げてください」って、毎回言ってた気もするし。それと、ドラムの重心の低さと、ギターとの間のホントに良いところでバランスが取れるようにっていうのは考えました。あと、バスドラとどこまで仲良く近づけるか。それはテックの人もいつも言ってくれてたことなんですけど、「バスドラともうちょっと仲良くなるといいよ」って。それってライブにおいてもテーマになるな、自分の1つの課題だなと思ってたんです。まあ今回のアルバムでそれが完璧にできてるとは思ってなくて、まだまだいろいろ考える余地もあるし、近づく方法としても、自分のイコライジングとかいろんなものがたぶん増えてくるだろうし。でも、それはやってて楽しい探り方でした。今までは僕、ドラム録音のときは基本的にスネアと金物を聴くことが多かったんですけど、バスドラと合ったときの気持ち良さっていうのを…それは牧も以前から言ってたんだけど、改めて聴いて感じました。
──バスドラと仲良くしつつ、かつドラムとギターの間をちゃんと繋げていく意識。
プリティ:はい。だから音色もそうだし、アレンジにおいても、例えばドラムとギターのゴーストの隙間だったり、そこを埋めるのがベースだなっていうのをすごく意識してました。
──ギターはかなりメロディアスですが、その辺について牧さんと柳沢さんはかなり綿密にやりとりをされていたんですか?
:結構2人で話しながらですね。進太郎もかなり柔軟なんで、これでなきゃ嫌だみたいなことは、そこまでないというか。2人で話合いながら、「ここはこうやって」みたいな感じで1番ベストなものを選んでいく。どっちがアイディアを出したとかは関係なくね。そうすると、自然と僕のメロディー感とかにマッチしていくんです。
──ギター同士の音の絡みに関しては?
:進太郎が単音フレーズが多い分、僕のバッキングに厚みがないといけない。かといって、それでコードが聴こえなくなっちゃうのは嫌なんです。だからコード感がちゃんと出るようにっていうのは意識してました。あと、結構ギターのボトムが低いので、ベースとの兼ね合いも考えました。“ベースがもうちょいミドルあった方がいいよ”とか、“ギターが上でシャキシャキするから、下で厚い層で欲しいね”とか。そういう意味では、自分のギターが基準になってたかもしれませんね。他の音を聴くときも。
──これだけ多彩な楽曲だと、音作りも大変だったのでは?
:いや、楽しかったですよ(笑)。逆にずっと同じだったら、飽きちゃってたかもしれない。自分たちそれぞれが、次の曲はまた違うのにしようっていう感覚でずっといたんで。だからペダルの歪み1個とっても、ずっとこれだっていうのはなかったですね。さすがにどこかでは被ってるけど。
進太郎:個人的には「ツインズ」っていう曲の12弦っぽいギターの音も面白かったです。
:あれはオクターバーで下と上を出してるんですよね。12弦は使ってないんです。
進太郎:あと、僕は「セレモニー」っていう曲を作ってるときがめちゃ面白くて。2人でスタジオに入って、すごくカッコいい言い方すると、曲に呼ばれたっていうか、その場でコードもどんどん変わっていって、フレーズも出てきて、当初はなかったはずのイントロが今入ってるイントロなんです。そういう、その場で「これ、カッコ良くない?」みたいなノリで決まっていく感じに、バンドを始めた頃の喜びみたいなものを再認識したところがありました。自分らが好きなことをやって、それがカッコいいって思えてることってすごく大切だなって思います。それをめちゃくちゃ感じたのが「セレモニー」のイントロだったんです。
──『Kameleon Lights』は本当に多彩なアルバムですけど、これを聴いていると次はもっと別の何かが出てきそうだなっていう気がしてしまいます。
:やりたいことは、もちろんあります。あるけど、やっぱり次はそれやるための準備かなと。例えば技術という意味で、ここまでの段階はイメージしたものを自分たちの手でちゃんと表現できていたけど、こっからまたやっていく上で、その延長上というよりは、たぶん新しいことのための修行というか…。やっぱりやるからにはプロじゃないとダメだし、ただなんちゃってがすぎたら、ホントに浅はかになっちゃうんでね。だから次の講想とかはあるけど、それにちゃんと技術が付いてくるように、今はいろいろ考えています。
──『Kameleon Lights』ができたことで、go!go!vanillasにとって見えた次っていうものもあるんじゃないですか?
:そうですね。たぶん際限がなくなったと思いますね…リミットというか。なんか、無意識のうちにやらないって思ってたこととか、タブーがなくなったんじゃないかなっていう気がしてます。
──ツアーはどんなものにしたいと考えていますか?
:スタジオで合わせていても今、雰囲気がすごくできてるというか、「やべー、すげー大変だったから、こっから猛練習しないと」っていうのはなくて。結構僕はラフな感じでいける気がしてるんです。だから、あとはライブにおける見せ方やライブならではのアレンジというか、そういうのを見せていきたいなと思ってます。やっぱライブでの感動って、音源とはまた違うものだと思うから。そういう意味で、歌もそうですけど、いろいろ試したりしたいなと思ってます。
プリティ:僕はこのアルバムでプレイ・スタイルが大きく変わったので、ステージの上での新しい長谷川プリティ敬祐っていう人間をしっかり表現できるようにしたい。…頑張ります!(笑)。
進太郎:音源に引けをとらないくらいカラフルにステージを彩れるように音を出せたらいいなと思ってます。やっぱ、レコーディングとライブでは音作りが違ってくるので。会場の大きさだったり、反響の仕方だったり。だからそれにも柔軟に対応できるくらい、もっと自分の音に敏感になっていけたらいいなって思ってます。
セイヤ:CDって2次元な感じがするんだけど、ライブは3Dっていうか、立体的な感じがするんですよね。奥行きもあるので。なので、そういう感じを出したいなと思っています。CDでは分からない、なんていうか…。レコーディングとは違って、ライブはそのリズムに合わせて一緒に歌も歌って演奏もするわけじゃないですか。そうするとたぶん、そこにCDとは違う新たなグルーヴというか、色が出てくると思うんです。で、それが1回ごとのライブでかなり変わっていくと思うので、ツアーではそこを楽しみながらやっていきたいなと思ってます。
──CDとはまた違う、go!go!vanillasというバンドの生のグルーヴが味わえる。
セイヤ:はい。で、そこからまた、新たなステップに行くのかなっていう気がしています。
──ちなみに、「チルタイム」のピアノはどなたが弾いているんですか?
:僕です。初めて弾いたので、すごく神経を使いました。鍵盤の重さを初めて知ったというか、シンセでずっと練習してたので、力が入らなくて。シンセは鍵盤が軽いじゃないですか。でも、本番はグランドピアノだったので、そこでもうテンパっちゃて。“やばい! 弾けない!”って思っちゃった(笑)。テンポに合わせられないっていうか。だから、すごく神経を使って大変でした。でも、ライブでもやらないとなって思っているので…練習します(笑)。