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TOTALFAT

原点に立ち返って、バンドの本質が詰まったニュー・アルバム『FAT』

これまで以上にストレートな言葉とサウンドが聴く者を刺激する、約2年ぶりに届けられたニュー・アルバム『FAT』。バンド名を冠したこのタイトルからも分かるだろうが、彼らが繰り出したアンサンブルは自信に満ち溢れており、これまで以上の勢いと力強さを持っている。まさに彼らの代表作となる1枚だろう。その完成背景には、結成当時の気持ちにも通じる4人の思いも詰まっているという。今回は、そんなアルバムについて、ShunとKubotyに直撃。GiGS7月号のインタビューと併せて読むことで、本作に込められた彼らの強い意志をより深く知ることができるはずだ。さらに、GiGS本誌ではKubotyによる本作のギター・フレーズの解説も大展開中! そちらもギターを片手に挑戦して欲しい!

Text/YUKINOBU HASEGAWA

メッセージが伝わるんなら、極端な話“演奏はコピー&ペーストの 繰り返しでもいいじゃん”
と思うぐらいです。もちろんやらないですけど(笑)
──8作目のアルバム『FAT』が4月26日に発売になりました。制作過程を綴ったShunのブログも読んだけど、曲作りそのものよりも、音楽に向かうのに時間が掛かったところがあったそうですね。
Shun:コアなところに届くのに時間が掛かったかなという。
──自分たちでももどかしさを感じていたんですか?
Shun:感じてたよね?
Kuboty:うん…。
Shun:いいツアーだったけど、果たして自分たちが『COME TOGETHER, SING WITH US』でやろうとしていたことが、“これは100%届いているのかな?”みたいなもどかしさとしてすごくあって。今みたいにマインドもクリアじゃなかったから、なんでだろうと考えれば考えるほど出口が見えなくなっていったんです。
──そんな精神状況の突破口を開いてくれたのがBLINK-182のアルバム『CALIFORNIA』であり、アメリカ西海岸まで全員で観に行ったライブ。バンドや音楽への向き合い方も変わったんですか?
Shun:そうです、すげーシンプルになって日本に帰って来ました。答えが出たというよりは、ただシンプルになっただけ。バンドやりたい、音楽が好き、よしやろう、みたいな(笑)。いろいろな雑念が消えたんですよ。わりと良い気分で音楽をやれるようになったなって。考え方がシンプルになると、モノを見る角度もそれまでと変わるところもあったんですよ。マイナスだと思っていたものが実は伸び代だったりして。
──その時期はメンバー内でも深く話し合いをしてたんですか?
Shun:話しかしてなかったよね?
Kuboty:どういう風にしたいかっていう話し合いは常日頃からあることで、もう無駄なぐらいに(笑)。いや、無駄ってことはないんだけど、ホントに話をする時間をたくさん作りましたね。
Shun:でもモヤモヤしているときは時間の使い方も上手くいかないものなんですよ(苦笑)。
Shun:堂々巡りになっちゃうからね。結局はやるしかないんですけど、毎日ライブやレコーディングができるわけでもないし。次の大きな起点となるもの、例えばライブやレコーディングだったり、時間と共に経験しなきゃ出てこない答えもある。そういうところと闘っていたというか、ホントに真摯に向き合った1〜2年だったと思います。
──ミュージシャンは音で会話すると言うじゃないですか。Shunから最初に出てきた「晴天」のメロディーをスタジオで聴いて、どんなフィーリングが伝わってきました?
Kuboty:自分的には、ハズむようなフレッシュさと力強さを感じたんですよ。だからギター・プレイにも躍動感が欲しくて、16分音符のカッティングだったり、跳ねを意識したバッキング・フレーズやギター・ソロだったりにしていったんですよね。でも最初の段階から完成形が見えたわけじゃなくて、曲も歌詞も、もっと細かく言えばビートの1つも、何度も何度も蒸留を繰り返して、この完成形になったんです。ギター・プレイも何度も見直したし、どういうフレーズが合うか試したし。『FAT』の中でも「晴天」はフレーズを決めるまでに結構時間を掛けてますね。この曲がきっかけでアルバム制作は始まったから、やっぱり力も入ったんですよ。
Shun:でも去年の10月ですからね。“オマエら、取り掛かるのが遅ぇ”という感じでしょ(笑)?去年9月にアメリカへ行って、10月に『FAT』の核となる曲ができて、それでレコーディングは今年の1月です。
──そのタイミングなんですか。去年10月と言えば、静岡の清水で行われた“マグロック 2016”に出ていましたね。ところがBunta(Dr&Cho)は、その前に遭った交通事故で左腕を骨折していたから、ライブでは右腕でビートを刻み、ライブ自体もアンプラグドでした。
Kuboty:あのときはアコースティック・セットでしたね。
──しかしバンド・サウンドはアコースティックとは思えないほどエネルギーの塊だったし、
お客さんは通常のライブと変わらないぐらい大盛り上がりで。
Kuboty:そうでしたね!
──バンドが変わったというか、また一皮むけたようなところがあったと感じたんですよ。実際、ライブはすごかったし、感動したし。
Shun:そうですね、だからタイミングも良かったと今では思います。実は“マグロック 2016”に出るのも迷ったんですけどね。サンフランシスコのモーテルで結構重めのミーティングをして、みんなで出ることに決めたんです。やるなら何を目指すってことも話をして。Buntaが右腕だけで叩いて、アコースティック・セットでやろうってことになったんですけど、Buntaが右腕だけで刻む2ビートでモッシュを起こすのを目標にしようって。どんな形でも自分たちのパンクを突き通していいものを観せるっていう、その純粋なところに照準が定まったんです。だから、ライブがやれたんだと思う。
──勝負している感がすごかったですよ。
Shun:お客さんにもたぶんそれが伝わりましたよね?
──もちろん! だからモッシュもクラウドサーフも起こり続けていたんですよ。
Kuboty:うん。あの出来事で思い知らされたのは、アクシデントがあったおかげで生まれた良い緊張感。通常モードのときも、あのぐらいの緊張感とドキドキ感をライブで作り上げなきゃいけないんだってことも、“マグロック 2016”のステージで思い知らされましたね。変な話、あのアクシデントで助けられたってところもあったと思います。ビハインドを負った状況下で僕たちが精一杯やったことを評価してもらえて、ライブも成功したのは嬉しかったけど、ビハインドを追い風にできたところもあったんですよ。追い風がなくても盛り上がりを出すためにどうしたらいいのかって、ライブ・バンドとして常に考えなきゃいけないと思います。
──去年の10月でいろいろと自分たちのふんどしを締め直した感じがあったんですか?
Kuboty:ありましたね。しかも“マグロック 2016”はアコギだったじゃないですか。アコギでライブ1本やるというのも、自分にとってはすごく緊張感のあることだったんで。
──いや、Jose(Vo&G)と2人でソロのハモリをアコギで決めるのはカッコ良かった。1音に込める気迫が伝わってきましたよ。
Kuboty:そう言ってもらえると(笑)。
Shun:その“マグロック 2016”の直後だったんですよ、「晴天」を作ったのは。
──1曲目「R.E.P」のイントロから活きているバンド・サウンドが轟きますね。
Shun:うん、そうですよね。かなりの衝撃を受けてアメリカまで行くきっかけになったBLINK-182の『CALIFORNIA』ってアルバムに近づけたいって気持ちがあって。BLINK-182は成熟したバンドじゃないですか? 年齢も40代だし、大人ですよね。それなのにあんなシンプルでカッコいいアルバム作って、初のビルボード・チャート1位も獲って、グラミー賞にノミネートされて。もう輝かしすぎちゃって、やっていることも出している音も(笑)。俺は『CALIFORNIA』だけを聴いていた去年の下半期だったんで。実際にアメリカでライブを観たら、“バンドたるや”とか“バンドとは”みたいな答えもあったから。久しぶりに純粋に憧れちゃったなって感じなんですよ。The Offspringを観て、“オフスプみたいなバンドやりたい”って気持ちで、18年前にTOTALFATを結成したじゃないですか。去年、“BLINK-182みたいなバンドになりたい”“BLINK-182みたいなアルバム作りたい”って思っちゃっただけっていう(笑)。
──受けた衝動の強さに、単純に突き動かされてしまった? まさにキッズですよね(笑)。
Shun:そうなんですよ。でも、そのシンプルさがこの数年間はなかったんですよね。
──曲アレンジはシンプルに削ぎ落としていったんですか?
Shun:削ぎ落としたというより、こういうプレイをやりたいってことにフォーカスしていった結果、余計なことはやらなくなったのはあるかもしれない。
Kuboty:個人的に思っているのは、アレンジは展開も含めてシンプルにしていった方がいいなって。自分たちの発するメッセージを伝えていくとき、複雑なアレンジや構成が来ちゃうと、ただ邪魔になるっていう。メッセージが伝わるんなら、極端な話“演奏はコピー&ペーストの繰り返しでもいいじゃん”と思うぐらいです。もちろんやらないですけど(笑)。ギタリストとして音もフレーズもすごく細かいところまでこだわりますけど、曲を聴く人の9割はまず歌を聴くと思うんで。
Shun:そうかもね。歌と歌詞のための演奏だから。それは作曲からアレンジ、レコーディングのテイクもすべては歌のためにやってきた実感はあるかもしれない。特にBuntaとKubotyはその思いが今までで一番強いと思うし、そのパワーも強いと思うんですよね。あっ…すいません、取材中に携帯が鳴っちゃって。誰だ、SPYAIRのIKEからだ。
──いいですよ、出て!
Shun:もしもし…。あっ、届いた?
Kuboty:電話の内容は『FAT』に関して、ですね。ShunがIKEくんにアルバムを送ったから(直後、Shunがスピーカー・フォンのモードに切り替える)。
Shun:それでどうよ。聴いてくれた?
IKE:聴いたよ、スゲーよ。行き切ったよね、今回。ジャンルがそっちなんだと思うよ、気持ちを燃やせよっていう。これはさ、いいよ、いいアルバム作ったよ。
──IKE、今GiGSの取材中で、この会話も全部使うから。
IKE:エーッ、恥ずかしいって(笑)。でも今回のアルバム『FAT』は、折れそうになった心を元気に蘇らせてくれる作品。もし辛いことがあったときは、俺たぶん『FAT』を聴いちゃうんだろうなって。
Shun:IKE、100点!
IKE:ありがとう! みんなにも伝えて、ホントにいいサウンドだよ。ごめん、取材を邪魔して悪いからまた電話する。じゃあね!
Shun:みんなによろしく。じゃあね! しかしIKE、ホントにすごいタイミングで電話してくるよな(笑)。
──でも最高のタイミング。仲間のミュージシャンからも大絶賛。それが『FAT』ですよ。
Shun:俺らのメッセージが、ミュージシャン仲間に刺さるってのもすごく嬉しいことで。
Kuboty:どうですか、GiGS読者のみなさん! 力強いIKEくんの後押しもありましたから、アルバムを聴いてください。ファンのみんなからの一番のリアクションをもらえるのは、ツアーが始まる6月からだと思うんで、すごく楽しみにしてますよ。
──去年後半から気分は晴れやかになっていたようだけど、こうして作品にしたことで、これからのライブで発するものもすごく変わりそうな予感しますが?
Shun:そうですね。まずは練習をして(笑)。それと気の早い話なんですけど、次作のことも考えているんです。この『FAT』を超えなきゃいけないってことはもちろん、英詞の曲もまた書きたいし。日本語でこれだけやれるんなら、英語でもっとスゲーところまで行けるって。倍々ゲームじゃないけど、その勢いで次々に自分たちを更新していきたいんです。
Kuboty:そうだね、それは意識したいところだね。
Shun:それにね、今となっては出し切った感が0なんで。TOTALFATはもっといろんなことができる。この『FAT』は、そういう次の進化への良い1歩になったなと思う。まずは6月からのツアーです。ライブもどんどん良くなりますよ。期待していてください。