『AORライトメロウ プレミアム 02 ゴールデン・エラ 1976-1983』発刊記念 『金澤寿和×福田直木 トークイベント「ライトメロウなプレミアムAORの夜」』が2月22日下北沢B&Bにて開催された。同書は2022年発売当時に同様のトークイベントで監修・著者の金澤さんが本の性格を下記のように語られていた。

ライトメロウなプレミアムAORを様々な角度から楽しんだ一夜


金澤寿和(以下金澤):この「AORライトメロウプレミアム02」はAORのガイド本というよりは〈AOR&アラウンド〉のガイド本です。ライトメロウというのはAORの形容でもあり、〈AOR&アラウンド〉というダブル・ミーニング的に使って、AORの隣辺りのものまで掲載しています。AOR的な感覚で聴いてもらうと面白いと思います。

福田直木(以下福田):特にリアルタイムではない若い人たちは、当時どういう雰囲気でどういったものが流行っていたのか──という流れを知ることができるのはすごく助かると思います。一枚一枚のクォリティなどの審美眼はだんだん養われてくるんですけど、どこから生まれてきて80年代にはどこへ行ったのか──という流れはあまり文章になっているものがないので。

金澤:ド真ん中のAORを柱として、そこから派生するところを広く俯瞰してみようというのが今回の試みです、この後も出す計画があります、これで幅広いものになると思いますので、それが2年後とかにならないように作っていくつもりです(笑)。

 

こういったことを踏まえたライトメロウ感満載の今回のトークイベント、前半は『この曲にそっくりな曲集めてみました』ということで、まずはドゥービー・ブラザーズの来日も近いマイケル・マクドナルドの「What A Fool Believes」から。

 

♫「Love Will Keep Us Together(愛ある限り)」キャプテン&テニール

福田:これはニール・セダカの曲で、「What A Fool Believes」(1978年)はこの曲が元なんじゃないかな──と言われてたりもしています。

金澤:キャプテン&テニールの出世作で大ヒットしました(ビルボード1975年度年間1位)。

福田:前半のオマージュ・パートは僕担当なので今回10枚くらい持ってきました。次はジョン・バレンティのセカンド・アルバム。ファーストはスティーヴィー・ワンダーそっくりだったのが2枚目になってちょっと垢抜けて。

金澤:スティーヴィー的な曲は減ってマイケル・マクドナルド的な曲をやってる(笑)。

♫「Stephanie」ジョン・バレンティ 

金澤:このマルバム『I Won’t Change / 女はドラマティック』(1981年)はアメリカではプロモ盤だけでお蔵入り、日本だけで出たということです。

福田:次はカントリー系のシンガー、ロニー・ミルサップ『Milsap Magic』(1980年)。彼はこの後の作品を3冊目のAOR本に載せようと思っているので、今回の「AORライトメロウプレミアム02」には載っていません。

金澤:「AORライトメロウプレミアム02」は83年までで区切っています。

♫「If You Don’t Want Me To」ロニー・ミルサップ 

福田:(イントロをかけただけで場内各所から笑いがこぼれる)この曲はこのリフの展開以外何もない。終始これでサンプリングみたいな感じ(笑)。次は意外なところでアイズレー・ブラザーズ。こういった大物になればなるほど、このリフを下敷きにしたちゃんとオリジナリティのある曲になるところを。

♫「Baby Hold On」アイズレー・ブラザーズ

福田:これくらいだったら笑わなくて済みますね。このアルバム『INSIDE YOU』(1981年)には他にもいい曲があります。ちゃんと今回の本にも載っています。次は、これも本に載っているブルックリン・ドリームスのアルバム『Won’t Let Go』から。

金澤:このアルバムだけはCDになってないのかな。曲はベスト盤に入ってます。

♫「I Won’t Let Go」ブルックリン・ドリームス

金澤:(この曲もイントロが始まるとで場内各所から笑いが)これは歌い方も意識してる。ブルックリン・ドリームスはアルバムを4枚出していて、このアルバムが一番AORらしい。売れたのは『Sleepless Nights』だけど、ブルー・アイド・ソウル的にはこっちかな。メンバーのブルース・スダーノはドナ・サマーの夫で、ブルックリン・ドリームス自体もドナ・サマーのバック・コーラスみたいことをやってました。

福田:ブルース・スダーノにソロ・アルバムがあるんですけど、本に載せるか載せないかの当落線上で。

金澤:載っていないですね。

福田:最後は変わり種で、リタ・リーというブラジルのシンガー。シティ・ポップをかなり聴く方だったら分かると思いますが、このマクドナルドの方法論ってシティ・ポップにもすごく多いじゃないですか。これは世界中、例えば北欧やイタリア、フランスにも多い。それがブラジルにもあって、この曲はすごく好きなので最後にかけます。

♫「Lança Perfumee」リタ・リー

福田:(静かなイントロが終わり、馴染みのあるピアノのリフで再び場内各所から笑いが)わざわざイントロをつけておいて(笑)。

金澤:シティ・ポップ系のマクドナルド・ネタもキリがなくなるので、これでやめます(笑)。

福田:ブラジルとか北欧のレコードも3冊目で取り上げられたらいいなと思ってます。

金澤:デヴィッド・フォスター系の、TOTOやエアプレイ引用ネタは、世界中でこの時期が多いと思いますが、それに次いで多いのが「What A Fool Believes」。曲単位だったらこれが一番でおかしくない。ドゥービー・ブラザーズ自体はそれほどパクられてはいないけれど、この曲のマイケル・マクドナルドのピアノ・リフだけは。

福田:使いやすいんですよね。あのリフはそのままでコードを変えても成立するし、いろんな使い方ができるから。

金澤:リズムが軽いポップだから使いやすい。TOTOはそれなりにロック系になっていくから、この曲なら軽さを出せる。

福田:演奏のテクニックもあんまりいらない(笑)。

 

続いて『影響力の大きい曲』ということでボズ・スキャッグス「Lowdown」(1976年)関連のオマージュ作品を聴き比べ。

 

福田:これはご存知でしょうか、本にも載せているファンキー・コミュニケーション・コミッティー(FCC)の『Do You Believe In Magic? 』(1980年) 。

金澤:「Lowdown」はジェフ・ポーカロが叩いてる〈グルーヴ一発!〉みたいなところ。曲としては、よく売れたなぁというか注目されたなぁ──と。逆に言えばグルーヴは完璧だった。

福田:だからパクる方もモロにやるしかない。

♫「Let The Love On Trough」FCC

福田:(イントロの間)まだギリギリセーフですね。(馴染みのリフが始まると場内大爆笑)ブレイクも、なんか付けないとヤバイからやって──みたいな(笑)。

金澤:ボソボソと歌っているのも完全に。

福田:途中にギター・ソロがあるんですけど、それがめっちゃ面白くて、レコーディングしている間どういう気持ちだったんだろう?って思いました。この後も全部本に載っているアルバムから紹介していきます。次はトム・ヤンス3枚目のアルバム、76年の『Dark Blonde』.

金澤:トム・ヤンスは75年に『Eyes Of An Only Child(子供の目)』というのを出していて、それはシンガー・ソングライターっぽいアルバムなんですけど、1曲だけハネ系の曲があって、それは逆にボズが参考にしたんじゃないかな。それで「Lowdown」が出て、トムもこうなった。

♫「Why Don’t You Love Me」トム・ヤンス

金澤:曲そのものが似てるというよりもリズム感が、アレンジのパーツを全部持ってきてるみたい。

福田:スラップで笑いがきましたね。では、次も名盤です『Photoglo』(1980年)。

金澤:名義は最初はただのフォトグロで、2枚目でジム・フォトグロ。

福田:実は2人組。で、マイケル・マクドナルドほどにモロにいただいてるのは最初の曲くらいで、あとは上手くファンキーなグルーヴだけを活かしながらやってる。

金澤:結構レア・グルーヴ的にも再評価されています。

♫「Steal Away」フォトグロ

福田:本人が「Lowdown」を参考にしたってインタビューで言ってますね。言われなくても分かるけど(笑)。DJでこういう縛りで曲をかけてると、“もういいよ”って飽きられそう。

金澤:酔っ払って踊ってると気持ちいいかも(笑)。

福田:曲が変わったのが分からない。

金澤:フォトグロはこのあと、ダン・フォーゲルバーグのバックをやって、カントリー系の曲を書いたりしてます。ラリー・リーと一緒にヴィニール・キングスでビートルズのカヴァーとかも。

福田:では最後にもう一曲だけ、ジャッキー・ロマックス。ビートルズ系のイギリスのアーティスト。

金澤:この『Did You Ever Have That Feeling?』(1977年)はジャケットもビートルズ系で、『リボルバー』のジャケットを担当したクラウス・フォアマンが描いてます。

♫「Part Of My Life」ジャッキー・ロマックス

福田:ベースの開放弦でスラップをやりたいから、キーが皆同じになっちゃいますね。

金澤:上ずった感じで、あんまり歌は上手い人じゃないんだけど、結構ソウルフル。これの前のアルバム『Livin’ For Lovin’(愛ある世界)』はネッド・ドヒニーっぽくてまとまりもいいんだけど、曲によって差があるもののカッコいい曲はこっちの方が多い。

 

オマージュ系に続いてはスティーリー・ダン系の話題で、様々なアーティストがスティーリー・ダンをカヴァーしたものや、リスペクトした曲の聴き比べを。

 

金澤:最近は北欧系の若いバンドや、アメリカなどでも新しく出てきたバンドがスティーリー・ダンをカヴァーしたり、オマージュを捧げたりリスペクトしたりした作品やフォロワーがたくさん出てきています。カナダのモンキー・ハウスとか、リーダーのドン・ブラウトハウプは『Aja』の研究本「スティーリー・ダン Aja 作曲術と作詞法」も出していて、バンドの音はモロにスティーリー・ダン。今、世界中のスティーリー・ダン・オマージュとしては一番面白いし、実際評価も高い。ドナルド・フェイゲンのお墨付きみたいな感じでやってます。 で、それは今の話で、スティーリー・ダンが活動していた70年代半ばから後半当時は意外とオマージュ作がない……というか、これから最初にかけるのも所謂カヴァーです。

福田:「Lowdown」みたいに、いただいちゃおうってできるレベルじゃないんですね。

金澤:リスペクトが強いのかハードルが高いのか。スティーリー・ダン初期の曲のカヴァーが多い。最初はローレン・ウッドの「Dirty Work」(『Lauren Wood 恋のトライアングル』1979年収録)。

♫「Dirty Work」/ローレン・ウッド

福田:初期の「Do It Again」とかのカヴァーが多いのは、スティーリー・ダンの初期音源集がすごく出ていて、音楽出版社界隈で広く流通していたという背景があるからだと思うんですけど。

金澤:スティーリー・ダンとしてデビューする前から作品は映画で使われたり、バーブラ・ストライサンドに歌われたり、結構あちこちに出廻っていて。でも、思ったほど使われないので、じゃあ自分たちでやろうとバンドにしてデビューしたのがスティーリー・ダン。だから「Dirty Work」はデビュー直後の「Do It Again」より時期的には早い曲なんだよね。

福田:出版社に曲の譜面があったからやりやすかったのかな、「Do It Again」と「Dirty Work」はカヴァーが多い。

金澤:「Do It Again」は実際売れたからカヴァーされたっていうこともあるけど。「Dirty Work」とかは譜面で結構あちこちに売り込んだんじゃないかな。

福田:中期以降は譜面がないと耳コピするのは大変だし、譜面作るのも大変ですよね。

金澤:それでは、今、話に出た「Do It Again」のカヴァーで、かなり意外な人がやってます。

♫「Do It Again」リッチー・へヴンス(『End Of The Beginning』1976年)

金澤:リッチー・へヴンスはウッドストックの映画にも出てましたけど、これはどちらかと言うとフォーキー・ソウルなAOR。その中でこういう曲をやってます。この辺りまではカヴァーが多いんですけど、この後は逆にドナルド・フェイゲンなり、ウォルター・ベッカーなりゲイリー・カッツなり、ジェフ・バクスターなりを使ってスティーリー・ダンっぽいことをやる、という人がいきなり増える。

福田:本家からちょっと人を連れてくれば公認というか、怒られないだろうみたいな(笑)。

金澤:今日はかけませんけどスニーカーとかは初期のスティーリー・ダンの曲をカヴァーして、プロデューサーはジェフ・バクスター。ブリス・バンドのデビュー作もプロデューサーがジェフ・バクスター。『Aja』の頃になると、スティーリー・ダンのプライオリティも上がって、カヴァーのハードルも高くなってるから。

♫「Don’t Do Me Any Favors」ブリス・バンド(『Dinner With Raoul』1978年)

福田:こっちは『嘘つきケイティ』くらいの音で後から付いて来てる。

金澤:キーボードのポール・ブリスはエイミー・ホーランド(マイケル・マクドナルドの元妻)の「How Do I Survive(愛に賭けて)」の作曲者。ブリス・バンドも2枚目ではもっと産業ロック寄りになるんですけど、ここではちょっとひねったアレンジをやってます。ま、ご本家の誰かがいるのはパクリの免罪符(笑)。で、スティーリー・ダンの影響力はアメリカだと近過ぎるのかイギリスの方に大きくて、このブリス・バンドもイギリスのバンド。次にかけるラブ・ノークスもシンガー・ソングライター系の人で、この曲は割と緩い感じですが、アルバムによってはブリティッシュ・スワンプ系のマニアックな雰囲気です。

♫「Feeling Your Way」ラブ・ノークス(『Rab Noakes』1980年)

金澤:スティーリー・ダンの影響力って80年代終わりから90年代になるとチャイナ・クライシス、ディーコン・ブルーとかが出てきて、あの頃は〈スティーリー・ダン・シンドローム〉なんて言われ方をしてましたけど、それはイギリス・北欧系のミュージシャンばかり。スティーリー・ダンは元々ニューヨークで結成されてLAでレコーディング、その後『ガウチョ』辺りからニューヨークに戻ってくるので、ニューヨーク人脈があって。このフランク・ウェーバーの2枚目『Frank Weber(ニューヨークのストレンジャー)』(1980年)は直接その人脈のミュージシャンは入ってませんが、1枚目ではスティーヴ・ガッドが叩いたりしてます。

♫「The Old Man」フランク・ウェーバー

金澤:これは間奏がすごい。この曲は後半になるに従ってスティーリー・ダン度が上がっていくんです、“それがやりたかったのね”と言う感じで。

福田:後半のリフすごく好きなんです。ビリー・ジョエルにもこういう雰囲気の曲ありますね「ザンジバル」とか。

金澤:『ニューヨーク52番街』は「マイ・ライフ」とかポップな曲はすごいポップですけど、結構凝った曲が入っているのでそういう耳で聴いても面白いと思います。では前半最後はロバート・クラフトの割とレアな『Ready To Bounce (カーネギー・ウギー)』(1981年)で、これはお蔵入りしたアルバム。

福田:この次のアルバム『レトロ・アクティヴ』はドナルド・フェイゲンにプロデュースを頼んだけど断られて、代わりにラリー・カールトンがプロデュースしてます。

金澤:『カーネギー・ウギー』は本当は2枚目になるはずだったアルバム。ここから3曲が再録音されて『レトロ・アクティヴ』ができた。

♫「Groove Speed」ロバート・クラフト

福田:スティーリー・ダンが好き──という以前にジャズが好き、という感じ。

金澤:後半のギター・ソロがジョン・ヘリントン。この人は再結成スティーリー・ダンでギターを弾いていたから自ずとスティーリー・ダンに(笑)。では、ここで休憩を入れます。

 

第二部は『AORライトメロウ プレミアム 02 ゴールデン・エラ 1976-1983』に掲載されている中から、アットランダムに小ネタや未CD化や手に入りにくいアルバムなどを選盤。福田さん、金澤さんが交互に5曲ずつ紹介する構成となった。

 

♫「More Than Ever Now」マッスル・ショールズ・ホーンズ(『Shine On』1983年)

金澤:独立したシンガーがいるわけじゃなくホーンの人が歌ってる。このアルバムはちょっと垢抜けてきています。

♫「This Is It」ジャック・ジョーンズ(『Don’t Stop Now』(1980年)

福田:モーリン・マクガヴァンが一緒に歌ってるけど、それがなかったらちょっと。

金澤:ちょっとしんどいですね。60年代から活躍している完璧なMOR(middle of the road)の大ベテランだけど。この時代はAORっぽいことも。

♫「Last Girl」ジム・クリューガー

福田:この『Sweet Salvation』(1978年)はCDになってないですね。日本のAOR系のガイド本に載るのは今回が初めて。

金澤:デイヴ・メイソン・バンドのギタリストなので、洗練されたスワンプっていう感じもある。

♫「God Give Me The Strength」アイシス

金澤:基本的には女性だけのファンク・バンドの3枚目『BREAKING THROUGH』(1977年)で、これはかなりメロウな感じです、後半はだんだんノリが良くなってきます。一度紙ジャケCDになっていて、そんなにレアなものではないです。

♫「Keep Reaching Out For Love」ライナー

福田:ライナーというイギリスのバンドで、当時国内盤も出ていたデビュー作『Liner(夢のライナー号)』(1979年)だけでいなくなっちゃって、CD化もされてません。

金澤:プロデュースはアリフ・マーディンで、クォリティはちゃんとしっかりしてます。

♫「Groovy Times」アラン・プライス(英米盤聴き比べ)

金澤:アラン・プライスはイギリスのシンガー・ソングライターで、アニマルズの初代キーボード・プレイヤーです。基本的にはAORの人ではないけれど、この『England My England』(1978年)ではAOR的な音。実はイギリス盤とアメリカ盤ではジャケットもタイトルも違い(米盤『Lucky Day』は)中身も2〜3曲差し替えになって、この曲はアレンジが変わって収録されています。

福田:(米盤は)緩いけどグルーヴは強くなって、僕はこっちが好き。

金澤:ここは意見が違って(笑)、俺はさっきの方(英盤)が好き。

♫「Into My Heart, Out Of My Mind」ゲイリー・オーガン

金澤:元々はレオン・ラッセルが洗練されたことをやり始めた頃のドラマー。

福田:自主レーベルに近いマイナーな作品『Let Go The Heart』(1982年)で、この前のアルバムはレオンのパラダイス・レコーズから出てます。

♫「In Your Eyes」ランディ・ビショップ&マーティ・グウィン

金澤:男女のデュオで、これ『This Is Our Night』(1979年)1作しか出てません。マーティ・グウィンは後々ラス・カンケルの奥さんリア・カンケルとコヨーテ・シスターズを組んでます。

福田:ミュージシャンが豪華で、ベースはリーランド・スカラー、ギターはスティーヴ・ルカサー。契約の問題か日本では出てないんですね。

♫「You’re A Dream」ミック・ジャクソン

福田:ジャクソンズの「今夜はブギーナイト」の作者なんですけど、盤面を見るとM. Jacksonとクレジットされているので、マイケル・ジャクソン作と思っている人がほとんど。国内盤シングルが2種類あって(1979年)、アルバムは出てない。

♫「Not Gonna Stop」シャーリー・ウルリッヒ

金澤:ホームタウン・バンドっていうカナダのイーグルスみたいなバンドから独立した女性シンガーで、アルバムを3枚出している中の2枚目『One Step Ahead』(1981年)。CD化はされてないんですけどお求め易いと思います。

 

最後にこのシリーズの次作として出版が予定されている『AORライトメロウ プレミアム 03』の話題から。

 

福田:『AORライトメロウ プレミアム 02』が1983年までだったので、03は1984年以降の王道から最近2020年代くらいまでの内容の良いアルバムをかいつまんで紹介しよう──というのが大枠で、そこに〈ハワイのレア・グルーヴもの〉と、〈CCM(コンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック)のホワイト・ゴスペルを体系的に取り上げたもの〉を加えて。

金澤:そこはちゃんとヴォリュームをとってやりたい。それと敢えてど・マイナーなクラブ世代以降に初めて発掘された〈90年代以降の発掘もの〉を、これまでの『01』『02』には載せてなかったものを入れたいと思います。例えばアーチー・ジェイムス・キャバナーや。

福田:ジェイ・P・モーガンとか。

金澤:そういったものをまとめて『AORライトメロウ プレミアム 03』を作りたいと思っています。

福田:その中から予告編という感じで何曲かかけたいと思います。CCMは金澤さんにお任せして、僕は英語圏以外の北欧とかのAORも取り上げたいので、その個人的な代表選手のジル・リワードを。カナダのケベック州でフランス語を話す人たち界隈にもいいAORがたくさんあります。

♫「Je Reviens」 ジル・リヴァール(1981年)

金澤:こういった非英語圏のものをどこまで掘るか──というのはキリがなく、基本的に皆さんに聴いていただくものなので、ちょっと頑張れば手に入るというところで留めておきたいなと思っています。

福田:というところで、スウェーデンのイングマール・ヨハンソンを。ギターがジョージ・ベンソンみたいでカッコいい。

♫「Anna」イングマール・ヨハンソン(1979年『Bildspråk』収録)

福田:さっきのカナダ/ケベック州とかスウェーデンで当時からこういうのをやっている人がいます。そして、どこまで紹介するのか悩ましいのがブラジルもの。

金澤:ブラジルものはもういくつもディスク・ガイドが出ているので、あくまでAOR目線で。

福田:ではセザル・カマルゴ・マリアーノをお聴きください。

♫「A Todas As Amizades」セザル・カマルゴ・マリアーノ (1983年)

福田:めっちゃボビー・コールドウェルっぽくないですか(笑)、といった感じで各国のこういうものをスペースが許す限り載せたいですね。

金澤:載せます、許す限り(笑)。で、次に意外と注目されてないんですけどCCMからウィル・マクファレーンの1枚目。

福田:ジョー・イングリッシュも出しているレーベル、レフュージ・レコーズから出ています。

♫「Faith Is Not A Formula」ウィル・マクファレーン(1982年『Right From The Start』収録)

福田:自主制作とかではない、お求め易いものを紹介しています(笑)。

金澤:次はミシェル・ピラー。ラリー・カールトンの2人目の奥さんでソロ3枚目の『Look Who Loves You Now』はラリー・カールトンがプロデュース。カールトンの『The Gift』ではヴォーカルで共演しています。

♫「Walk Across Heaven」ミシェル・ピラー(1982年『Michele Pillar』収録)

金澤:『Look Who〜』よりもこちらのアルバムの方がメロウなAORサウンドで、サラッと聴けると思います。で、現状『03』はいつ出せるとは言えないんですが、『02』の時みたいに2年かけないように、年内くらいには出さないと怒られちゃう(笑)。

福田:って言うと、年内には出ない──と皆さんから思われる(笑)

金澤:今、まさに選盤をして、どこまで載せられるかというところです。程よいところでまとめないと分厚くなり過ぎて皆さんのご負担になるので。ともかく全体像が見えないとどこまで盛り込んでいいのか分からないから、日々CCMを聴きまくっています。AOR王道の人たちよりもCCMは狭い世界で商売をするので、地味にいっぱいアルバムを出してるんです。10枚くらいまとめて聴いてみると半分くらいは合唱曲や賛美歌みたいなもので、それがどこまでAOR的な感覚で聴けるかという選択があります。黒人系だとどうしてもゴスペル・コーラス系になって、洗練されたブラコンAORとして聴けるものも限られてくる、それも織り交ぜてなるべく早く皆さんのお手元に届けられるよう頑張ります。今日はどうもありがとうございました。

福田:ありがとうございました。

 

この後、金澤さん、福田さんのサイン会が行われた。

 

 

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