2017年4月20日ヴィレッジヴァンガード下北沢店にて、Keishi Tanaka詩集『真夜中の魚』出版記念トークショーが行われた。この日は松田“CHABE”岳二をゲストに迎え、元々英語詞から歌詞を書き始めたという共通項のある二人に、歌詞の書き方や、日本語詞・英語詞の違いといったトピックについて語ってもらった。

これからは作詞の仕事もやりたいですね。詩集の発売は、本当にいいきっかけを貰ったなって思います

一行目からメロディが頭の中で鳴る楽しさ

Keishi:この「真夜中の魚」は去年の7月くらいから製作が始まってたんですけど、あんまり人には作ってることを言ってなくて。

CHABE:Keishiがなんとなく出したいと?

Keishi:いや、「出しませんか?」って言ってもらったんです。それが結構意味のある事だと思って。詩集をいつか出したいなっていう気持ちは昔からあったんですけど、20代ではまだ早いだろうと。40、50歳になったときに「出しませんか」って言ってもらえるように頑張ろうって思ってたら、結構早い段階でロックスエンタテインメントの編集部から声をかけていただいて。で、これは逃しちゃいけないと思って。

CHABE:50歳くらいになって出すと、フォントのサイズもっと上げると思うよ(笑)。じゃあ半年以上かけて作ったんだ。

Keishi:そうですね。最初、編集の方からも「詩集を出しませんか?」というより、「Keishiさんの言葉が面白いですよね、何かやりましょうよ」という感じの話をいただいて。でもいきなりエッセイとかを書くよりは、元々やりたかった詩集を出すのがいいかなと。

CHABE:10年くらい前に書いた歌詞も入ってるでしょ。手直しとかしたの?

Keishi:一個もしてないです、全部そのまま。直したりするものですかね?

CHABE:やったことないけど、もし俺が25歳くらいの頃に書いた歌詞を出すんだったら、直したい所があるかもしれないなって思って。

Keishi:もちろん全部見直しましたけど、そのままの方が面白いかなと思ってましたね。特に「これはないな」ってところもなかったので。

CHABE:曲を知っていてこの本を読むとさ、歌詞を見たらメロディが頭の中に鳴るよね。それって面白くない? 僕がそのことを一番最初に経験したのが、今日持ってきたんだけど、この『秘密の花園』っていう詩集で。これは松本隆さんが書いた松田聖子さんの曲の歌詞だけを一冊にまとめたものなんだけど、やっぱり一行目からメロディが鳴るの。これって結構楽しいなと思って。

Keishi:そうですね。最初はもちろん、僕の音楽を知らない人にも読んで欲しいなと思って作り始めたんですけど、よく考えたらそういうことってあまりないじゃないですか。やっぱり音楽ありきだなというのは、作っているときも思っていましたね。


「夜の終わり」でやっと納得のいく日本語詞が書けた(Keishi)

CHABE:本ってさ、20代の頃からずっと読んでた?

Keishi:いや、28歳くらいまで本を読んでなくて。「学生時代とかに読んどきゃよかったな」ってその頃すげえ思ったんですけど。

CHABE:いいんじゃない。歌詞を書き始めて、言葉に興味を持って本を読み始めたってことだよね。俺もそうだもん。ネタというか、本を読まないと語彙力が上がっていかない感じがするからね。

Keishi:本を読んでる人かそうでないかって、結構歌詞から分かりますよね。それはどっちが優れているってことではないですけど。

CHABE: でも、Keishiの歌詞は大人っぽいよね。自分でも日本語詞をたまに書くんだけど、こうはならないから、やっぱり歌詞ってひととなりなんだなって。

Keishi:そうですね。今回、僕は誰が書く歌詞が好きかなって考えたんですけど、ヒロシ(※佐藤 寛。元Riddim Saunterメンバー、現在はKONCOSとして活動中)の歌詞はかなりいいなと思いますね。Riddim Saunterの頃から何曲か書いてたんですけど、KONCOSの「月待つ島まで」って曲の≪遊覧船 カモメ飛んだ 僕ら また会いたいなって思った≫っていう、あのパンチラインは結構びっくりしました。

CHABE:ヒロシはちょっと谷川俊太郎さんみたいな感じがあるよね、言葉のセンスとか。俺はすごい谷川俊太郎さんが好きだから、いつか会いたいと思ってるんだけど、ヒロシは谷川俊太郎チルドレンのような気がする。Keishiよりももうちょっと詩人寄りだよね。

Keishi:あんまりヒロシとそういう話はしたことないんですけど、谷川さん好きなんですかね。それと、僕が『夜の終わり」(※2014年にリリースしたKeishi TanakaのCD付きソングブック)を出した時に、CHABEさんにあとがきを書いてもらったじゃないですか。そのときに「言葉の人と語呂の人」っていうようなことを書かれていて、それも腑に落ちるところがあって。詞を書くときに音像でいくのか、もうちょっと言葉に寄るのかっていうのも、さっき話したような本を読んできたかどうかって経験も関係しているのかなと思うんです。CHABEさんはどっちもありますよね。

CHABE:いやあ、俺なんかあんまり歌詞書けないから(笑)。よくこんなに日本語詞を書けるなって思うもの。

Keishi:いやいや。でも、日本語詞は正直やっぱり難しいですね。今はだいぶ馴れましたけど、特に書き始めた時は結構しんどかった。本当はRiddim Saunterの時からやりたかったんですよ。最後のアルバムの『Days Lead』でもやろうとしたんですけど、納得のいくものが書けなくて諦めたんです。だからソロの最初の曲、「夜の終わり」でやっと書けたなって感じでした。

CHABE:「夜の終わり」もそうだけど、Keishiの歌詞って「夜」が多いよね。

Keishi:多いですね(笑)。僕もまとめてて気付いたんですけど。夜に歌詞を書くことが多いからっていうのは絶対ありますね。

CHABE:それは分かるな。朝起きて歌詞を書く人なんてあんまりないよね。

Keishi:でも、僕そういう人ひとり知ってます。

CHABE:誰?!

Keishi:カジ(ヒデキ)さん。

CHABE:ああ~、カジくんは確かに、朝6時くらいに起きてそう。

Keishi:やっぱり歌詞の感じが朝っぽいですよね。酒というよりミルクティー、みたいな。

CHABE:歌詞にランチとか出てくるもんね。僕らはどちらかというと、朝を待ってる感じだよね。

Keishi:そうですね。あとは夜遊びとか、どっちにしろ夜が多い。

CHABE:夜にしか真実がないって感じだもん、俺は。昼間の俺は全然違う人(笑)。歌詞を書く時ってやっぱり、必要に迫られて書く?

Keishi:実際そうですね。

CHABE:まあ、この内容の歌詞を何にもないのに日頃から書いてたら、ちょっとね(笑)。

Keishi:(笑)。たまにそういうタイプの人もいるじゃないですか。お風呂に入りながらとか、散歩しながらとか。そういう人はやっぱり“降ってくる”タイプで、天才肌なのかなと思いますけど、僕は全然降ってこない(笑)。引っ張って引っ張って呼び込まないと。

CHABE:タイトルは先に決める派?

Keishi:どちらかというと後ですね。元々は一番最後だったんですけど、日本語詞になってからはちょっと早めて、完成しきる前にタイトルを決めることが多くなってきましたけど。

CHABE:俺は英詞のときは、タイトルフォルダを作って、とにかくタイトルのアイデアだけ思いついたらメモってたのね。で、歌詞書くぞっていう時に、どのタイトルにしようかな、これがいいやって感じで、そこから歌詞を書いたり曲を作ったりしてたんだけど。

Keishi:へえ、曲もですか。

CHABE:だからCUBISMO GRAFICOって変なタイトルの曲が多いんだよね。でも、LEARNERSの時は紗羅(マリー)ちゃんに歌わせるみたいな感覚があるから、今度はなかなかタイトルが決められなくなっちゃって。

Keishi:そういう作り方に近い曲だと、Riddim Saunterの「Sweet & Still」はサビのパンチラインが最初に浮かんで、そこから歌詞のイメージを膨らませていった曲ですね。

CHABE:ちなみに「Sweet & Still」の邦題はなんですか?

Keishi:「無口な美女」です。邦題を付けるって作業から、僕の日本語詞は始まった感じはありますね。


震災を経て、「なんで今まで英語で歌詞を書いてたんだろう」って思った(CHABE)

CHABE:でも、Keishiはいいタイミングで日本語詞になったよね。新曲にはほとんど英語詞はないでしょ。

Keishi:そうですね。全部日本語でもいいんですけど、英語詞の作り方も忘れたくないんで、毎回アルバムに1曲くらいは入れようと思ってます。

CHABE:日本語詞の方がいいよ、Keishiは。

Keishi:そう言ってもらえるのは相当嬉しいですね。英語詞を長くやってると、だいたい英語詞の方が良かったって言われますから。

CHABE:多分ライヴの時って、英語詞だとお客さんも歌詞に気持ちがあまり入らないと思うんだよね。日本語詞だと一瞬でメロディと言葉で持っていけるじゃん。俺もKeishiのライヴの後ろで叩いてる時に、「めっちゃいい!」ってぐっと来る時があるもん。

Keishi:やっぱりそれは言葉にグッと来る?

CHABE:言葉とメロディじゃない? あと声かな。お客さんと同じだと思うよ。

Keishi:嬉しいですね。20代の頃はそこまで言葉を意識してなくて、歌詞は家へ帰って読んでくれっていうスタンスだったんですよ。でも、年齢のせいもあるかもしれないけど、一言で伝わるのはやっぱり日本語詞だなって。

CHABE:あのね、これは俺だけかもしれないんだけど、世の中すべてのタイミングとして、震災以降、英語でやるのがバカバカしく感じたんだよ。そういうタイミングで弾き語りのライヴをやったときに、英語詞の曲をやっても全然ピンとこなくて。その時初めて、あ、これ全然伝わってないって思って。瞬発力がね、日本語の方が圧倒的に高い。

Keishi:弾き語りは特にそうですね。

CHABE:震災を経て弾き語りを始めて、「なんで俺、今まで英語で歌詞を書いてたんだろう」ってくらい思ったもんね。無自覚過ぎたんだなって。もちろんHi-STANDARDとか、FRONTIER BACKYARDはそうする必要もないじゃない? でも俺はもう全然英語で歌いたくない。BRAHMANもどんどん日本語になっていったけど、それはTOSHI-LOWって人間としての説得力を伝えるために、日本語にならざるを得なかったからだと思う。

Keishi:確かに震災のことは、日本語にした理由としては自覚がなかったので今ハッとしました。自分では意識してなくても、それがひとつのきっかけで、色んなものがリンクしたというか、元々やりたかったことを始めるタイミングの後押しになったのかもしれないですね。

 

バンド時代とソロ時代、リンクしている歌詞を発見する楽しみ

CHABE:(場内に)何か質問とかありますか?
質問:CDで既に歌詞を読んでる人もいると思うんですが、そういう人に改めてどんな風にこの詩集を楽しんで欲しいですか?

Keishi:そうですね。まず、元々英語で歌っていたものを改めて日本語で読んでもらえるのは良かったなと。それからこの本を作っている中で思ったのは、Riddim Saunterで歌っていた歌詞が、ソロになってからの曲の歌詞と結構リンクしたりしてるんですよ。例えば「New Song / はじまりのうた」に出てくる〈双子姉妹〉は、Riddim Saunterの「WALTZ OF THE TWINS」のことを言ってる…とか。

CHABE:Riddim Saunterのファンだったら思い出すところだよね。

Keishi:敢えて言うようなことでもないんですけど、それが同じ本の中にあることで発見できるというか。最近はRiddim Saunterを知らない人も増えてきて、ライヴしていても半々くらいになってきてる感覚があるんで、そういう人が前の曲にさかのぼっていって、今はこう歌ってる人が、あの時こう書いてた…とかって気付きがあるのが、一番この本を出した意味があるかなって思います。

CHABE:今度は随筆とかも書いてみてほしいな。

Keishi:そうですね。今回の詩集でも、英語詞を和訳したものはリズムを気にしてない分、随筆や物語みたいになっているんですよ。それも自分としては面白いなと思いました。

CHABE:自分の英語詞の和訳を書くのって超楽しいよね。全然言ってないような単語も付け加えちゃったりとかして。

Keishi:それこそ僕の邦題もそうですしね。ちなみに、CHABEさんは詞先で書くことってありますか?

CHABE:まずないねえ。CMの仕事とかやっていると詞が先に来るけど。

Keishi:僕は普段は曲先なんですけど、1曲だけ詞先の曲があって。「FOGGY MOUNTAIN」って曲なんですけど。これは僕が『ランドネ』って雑誌の企画に参加した時に、写真に詩を付けてほしいって頼まれたんですよ。それで書いたもので、評判は良かったんですけど、純粋にポエムを書いたってことがすげぇ恥ずかしくて(笑)。自分を納得させるために曲をつけたという経緯があります。でも、そういう書き方ができたっていうのは自分としては新しかったし、嬉しかったですね。

CHABE:制約があったほうが書けることもあるよね。CMの曲とか、誰かに歌ってもらうとか。Keishiも今回詩集を出したことで、作詞の仕事とか来たらいいよね。

Keishi:やりたいですねえ。プロフィールに書こうかな、作詞家って。

CHABE:詩集を出したんだから、名乗りを上げたってことだよ。

Keishi:そうですね。言ったからにはちゃんとやっていかないと(笑)。詩集の発売は、本当にいいきっかけを貰ったなって思います。今日はありがとうございました。

 

『真夜中の魚』 のご案内

  • 真夜中の魚
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  • 真夜中の魚

    四六判 / 112ページ / ¥ 2,000

    《真夜中に紡ぎ出される「日常」と「フェアリーテール」。「仲間たちの笑い声」と「静寂」。

    ケイシくんから生み出される身近でいて壮大なストーリーは、どれもランプの灯りのような優しさと希望に溢れている!》カジヒデキ

    Keishi Tanaka、Riddim Saunter、カジヒデキとリディムサウンター、THE DEKITSなど様々な名義で発表されてきた作品の中から選ばれた言葉たち。彼が鳴らしてきた声を読む。

    【CONTENTS】

    夜の終わり
    明け方の月
    無垢な響きとシルエット
    真夜中の魚

    光と影
    あかり
    片隅で書いた僕の日記
    素敵な影の結末

    物語
    すぐに出て行ってくれ
    序章
    ティーンズ
    パレードのあとに

    素顔
    フォギー・マウンテン
    彼女にはメロディーがない
    幾つかの表情

    季節
    更新される日々
    冬の青
    クリスマスの訪問者
    素敵な季節たち


    秘密の森今は雨の音を聞く
    傘を持たない君と音楽を


    君は星と嘘を並べていた
    双星のワルツ
    クリスマスの願い

    孤独
    偶然を待っているだなんて
    彼女が電話をかける理由

    日常
    また別の日
    彼女のように
    僕らの住む街に
    ハミング

    未来
    無口な美女
    知らない島
    あこがれ
    僕をつかまえて
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    アワー・トーク

    うた
    はじまりのうた
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    傍らで奏でよう
    1枚の絵画

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