20160618queen



9月の武道館公演が発表され注目を集めているクイーン。彼らの側近が綴ったインサイド・ストーリー「クイーンの真実」(ピーター・ヒンス著 迫田はつみ訳)の先行販売&トークイベントが、6月18日シンコーミュージックのイベントスペースで行われた。当日は本書をいち早く入手した満席のファンを前に、元ミュージック・ライフ編集長の東郷かおる子氏と「クイーンの真実」の翻訳者、迫田はつみ氏により、本書の著者ピーター・ヒンスの思い出なども交え、日本に於けるクイーンの様々なエピソードが紹介された。

セクシャリティをソフトランディングクイーンが生んだ日本の“ロック少女”たち

迫田はつみ:著者のピーター・ヒンスは長年に渡って主にフレディ・マーキュリーとジョン・ディーコン担当のローディをやって、後年はローディのトップとして仕切っていた人。後にカメラマンになったんですけど、この本では主にローディ時代の話が書かれています。
東郷かおる子:何度も取材では会っていたと思うんですけど、ローディって裏方作業が中心なので、彼自身と仕事の話をしたことはなかったですね。でもいろんな形の取材をして、ネタがなくなってきて『これがブライアン・メイのギターだ』とギターの写真だけ撮らせてもらったときにはお世話になったんじゃないかな。
迫田:本の中にも当時の彼の写真が載ってますが。
東郷:日本でも女の子に人気があったみたいですよ。
迫田:サインちょうだいって言われたって(笑)。東郷さんはこの本をご覧になっていかがですか?
東郷:全体的な印象としては、70年代の話がすごく多いですね。その頃私はミュージック・ライフでそのまっただ中にいました。当時来日する海外ミュージシャンの日本に関する知識といえば「ゲイシャ・フジヤマ」くらい。音楽マーケットとしての日本には誰も注目してなかった時代です。この本でもそういった感じのエピソードは出てきますね。ま、だから“日本でどう取り上げても勝手でしょ”ということで、いろんなバンドの中からこちらの意志でピックアップして紹介できたんです。現在のようにプロモーションでもレコード会社本部の意図が世界の隅々まで行き渡るなんて状況からは考えられないことですけど。
迫田:この本はいわゆるバックステージ物。ファンはコンサートの時間しかバンドを見ていませんが、ローディたちはそのコンサートのできるまでと、終わった後のことといった一般の人たちの目には入らないところにすべて関わっていて、その辺りのことはかなり詳しく書いてあります。著者は労働階級出身なので原著にはいろんなスラングや当時人気があったテレビ番組とかの記述が多いのですが、逆にそういった中でクイーンというのが70年代の英国社会でどれだけ違った存在だったのかというのが浮かび上がってくるように思います。

「クイーンの真実」2

クイーンが生んだ“ロック少女”

迫田:彼らが出てくる前、70年代初頭の日本に於ける洋楽ロックはどんな状況だったんですか?
東郷:ファンは9割が男性。ミュージック・ライフでも人気があったのはレッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、エマーソン・レイク&パーマー、イエスとか。60年代のビートルズの頃はアイドル的な写真とかが受けてたんですけど、70年代になって英国のハードロックの時代になると、いきなりギター少年が増えて小難しい理論が出てくる、ほかにもピンク・フロイドみたいなプログレッシヴ・ロックとかが流行って皆が評論家みたいに理論武装するようになっていったんです。新しくニューミュージック・マガジンやロッキング・オンといった音楽雑誌が出てくると、ミュージック・ライフはミーハーだと目の敵にされて。コンサートに来るファン層も高校生以上でしたね。溜まったエネルギーを発散する場ということで大人も怖がっていました。で、そういう風潮にドカーンと風穴を開けたのがT.レックスやデヴィッド・ボウイのグラムロック。男とか女とか関係ないじゃんって、価値観がものすごく大きく変わった時代でした。そういった状況の中、奇しくも出てきたのがクイーンだったわけです。
迫田:私がクイーンを知ったのは、76年の二度目の来日の直後。初めて自分のお小遣いで買ったシングルが「ボヘミアン・ラプソディ」でした。
東郷:当時、少女漫画の萩尾望都さん、竹宮惠子さん、木原敏江さんとかの作品にデヴィッド・ボウイとかのキャラクターがちょっと出たりして、クイーンも出て来始めたんです。日本の少女漫画の文化って外国の人には説明しにくいし、日本人の男の人に説明しても分かってくれない。だけどもそういう下地がある中に出てきたクイーンというのは、何か運命的なものがありますよね。
迫田:そういった「花の24年組」の漫画家の人たちの描こうとしていた世界と、当時のクイーンの音楽性の親和性があったのかも。
東郷:だから迫田さんもそうかもしれないけど、まっとうな少女がフレディを見た瞬間に“エッ!!”って思う世界、親やPTAが見てはいけないっていう世界が、そこに具現化されていたわけですよ。そういうセクシャリティをオブラートに包んだ形で、クイーンはソフトランディングしてくれたんです。彼らはそんな意識はなかったかもしれないけれど、当時編集者として現場にいた私はそう感じていました。それまではロック少年しかいなかった世の中に、グラムロックを経てクイーンによってロック少女が出てきた。ロック少女を生んだのはクイーンだと私は思いますよ。

この後トークは、最初にクイーンを取材した時の数奇なエピソードや、クイーン初来日時の大混乱やメンバーの困惑、ハード・スケジュールの中の取材、フレディの親日家ぶり、この秋のアダム・ランバートとの来日公演等、多岐に渡った。最後に場内からのいくつかの質問に答えることで1時間半に及ぶイベントは終了。

東郷:私が人間として一番成長する年代に、一番近くにいたバンドがクイーンだったんです。一番取材もしました。私が仕事をしたクイーンは本当に素晴らしかった。
迫田:その成長期に、東郷さんがクイーンから影響を受けたことは?
東郷:ちょっとそれとは違うかもしれないですけど、最初の頃は英会話が全然できなかった私が、通訳を介さずインタビューをしたいと勉強して、最後の取材の頃は冗談を言えるくらいになった。そうやって成長させてくれた一番のバンドはクイーンだと思います。そうやって編集者としても育ててもらったと思っています。

動画レポートはこちらから
https://youtu.be/GK-4Ci3vc3w

「クイーンの真実 」のご案内

クイーンの真実

A5判/344ページ/本体 2,700+税

「出来ない! とにかくやれないんだ! 駄目だよ──ライヴはキャンセルにしてもらおう!」
ロック・バンド、クイーンのシンガーであるフレディ・マーキュリーは愛する観客にしばしばこう思いのたけを述べた──観客みんなとセックスしたいと。今の彼の様子を見るに、どうやら昨夜の彼は数人の友人達と共にそれを実行したらしい。全員と酒も酌み交わしたようだ。(本書より)

フレディ・マーキュリー(ヴォーカル)とジョン・ディーコン(ベース)のローディを務め、後にカメラマンとして活躍した著者ピーター・ヒンスによる回想録。他人や文献から見聞きした話ではなく、現場にいた人間が直接目撃・体験したことを赤裸々に綴っているので、そのリアルな説得力は圧倒的!! メンバーとの感動的な信頼関係やスリリングなステージ上のトラブル、世界を回って長く続くツアーの苦労、プロの仕事振りから乱痴気騒ぎまで、ロック黄金時代の光と陰がリアルに描かれています。クイーンのファンはもちろん、ロック世代なら必ず楽しめる一冊です。

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