YOUNG GUITAR 2017年8月号:表紙・巻頭特集『怪美巧妙プログレ箱』
YOUNG GUITAR:表紙・巻頭特集『怪美巧妙プログレ箱』より
度重なる革新と変化、増加し続ける新たな方法論…世界のロック・シーンに文字通りの進歩をもたらしたプログレッシヴ・ロックの長い歴史を、今ここに振り返る!!
文●奥村裕司 Yuzi Okumura
果たして、プログレッシヴ・ロックと呼ばれる音楽はいつ誕生したのか? それについては諸説ある。何をもって“プログレッシヴ・ロック”とするのか──その解釈によって、当然ながら起点が変わってくるからだ。それでは、日本では“プログレ”、欧米では“Prog”とよく略されるプログレッシヴ・ロックとは、一体どんな音楽なのだろうか…?
“progressive”には“進歩的”“先進的”といった意味がある。よってプログレッシヴ・ロックとは、進歩的なロック、進化したロック、革新的なロック、前衛的なロック…などと解釈することができるだろう。つまり、それまでになかったアイデアや方法論、コンセプトやテーマ、演法や技巧などを様々に取り入れた、かつてない“新しいロック”ということだ。とすればそれは、そのままロックの歴史そのものだとも言えるかもしれない。’50年代にアメリカの黒人音楽から派生して、白人音楽としてのロックンロールが生まれたその瞬間から、ロック・ミュージックは常に前進を続け、進化を遂げてきたからだ。
だが実際には、ロック・ミュージックがある程度の成熟を遂げるには、’60年代に入るまで待たねばならなかった。というのも、それ以前はプロデューサーやマネージャー、作曲家が力を持ち、ミュージシャンの多くは与えられた曲を演奏するだけで、ほとんどのバンドが人気歌手やソロ・アーティストのバックを務める“伴奏者”でしかなかったのだ。そんな中、独自の解釈でリズム&ブルースやフォーク/トラッドをプレイするミュージシャン、オリジナル曲を書いて自らのレパートリーとするバンドが、’60年代半ばから現れ始める。そしてそうしたロックのパイオニアたちは、既存の単純な楽曲構成やアレンジに満足できず、より先進的かつ革新的な領域へと飛び込んでいくのである。
その代表格が、英国の“レジェンド”:ザ・ビートルズだ。デビュー当初こそアイドル・バンドと見なされることも多かったが、様々な影響を吸収しながらあらゆるアイデアを駆使し、実験的手法を次々と実践していった彼らは、やがてロック史を次々と塗り替えていく。アルバム全体にまたがるコンセプトの導入、クラシック楽器の使用、他ジャンルとのミクスチャー、サブカルチャーとのリンク、マルチトラック・レコーディングやサウンド・コラージュなど、ザ・ビートルズが行なった“実験”の数々は、まさにプログレッシヴ・ロックの黎明そのものであった。
その後、ザ・ビートルズの先鋭性に触発され、知性と感性を強く刺激された革新的ミュージシャンが次々と登場。サイケデリック・カルチャーとヒッピー・ムーヴメントが新風をもたらし、ニュー・ロックやアート・ロックと呼ばれるバンドがシーンを席捲するようになると、いよいよジャンルとしてのプログレッシヴ・ロックが徐々に姿を見せ始める。時は’67年──1枚の画期的作品が英国から世に送り出された。ムーディー・ブルースの2nd『DAYS OF FUTURE PASSED』だ。ロック史上におけるバンドとオーケストラの初共演作であり、ある男の1日を描いたトータル・コンセプト作でもあったこのアルバムは、それ以前にも実行されていた“ロック+クラシック”という手法を、より高い完成度で提示してみせた、まさに歴史的重要作である。これに衝撃を受け、また背中を押されたミュージシャン/バンドはそれこそ数え切れないだろう。
・・・続きはヤング・ギター2017年8月号でお楽しみ下さい。