ブラックモアの真実3

ハード・ロック復帰を宣言、新メンバーも発表したリッチー・ブラックモア。彼の真実を解き明かすファン必携の書『ブラックモアの真実 3』の出版記念トーク&サイン会が、11月12日渋谷タワーレコードに於いて、BURRN!編集長 広瀬和生をホストに、今年デビュー30周年となる日本を代表する正統派ヘヴィ・メタル・バンドANTHEMのリーダー柴田直人を迎え行われた。

リッチーがやりたくないことは、誰にもやらせることはできない

広瀬:ANTHEMは今、30周年のツアー中が始まったばかり。お忙しい最中ありがとうございます。
柴田:大丈夫です(笑)。この後福岡、広島、大阪、名古屋と廻って最後が28日川崎CLUB CITTA’になります。
広瀬:セットリストを見せてもらったんですけど、すごいですねあの内容。二部構成で前半が再結成後の曲、後半はそれ以前の曲ということで、全30曲以上すべて代表曲!
柴田:お客さんを目の前にするとして興奮するのもあって、終わるまでは疲れは感じないんですが、終わって楽屋に戻ってからの抜け殻感は通常のツアーの4倍くらい。長い間リハーサルしてきたので、ある程度のことは予想してたんですが…。ま、これから徐々に色々なものが変わっていったりして、また別の顔を見せられると思います。
広瀬:楽しみにしてます。僕もCLUB CITTA’行きますので。

ついに発表になった新ヴォーカル、ロニー・ロメロ

柴田:では、レインボーの話を。
広瀬:つい最近ですが、ついに来年のリッチー・ブラックモアズ・レインボーのメンバーが発表になりました。率直に言って、リッチーって…、まぁ…、なんでしょうね(笑)。
柴田:広瀬さんから最終的なリストに残っていたミュージシャンの名前を聞いていたんですけど…、僕が、是非この人を…と思っていたのがグレン・ヒューズ。彼がもしリッチーと一緒のステージに立つのなら、ANTHEMのスケジュールさえぶつからなければヨーロッパに行こうかな…というつもりだったんです。どうなんでしょう今回のメンバー…。僕は本当に、リッチー・ブラックモアズ・レインボーをやるということについては泣きそうなほど感激してるんです。リッチーはヴォーカルに関しては“ロニー・ジェイムス・ディオとフレディ・マーキュリーを足した感じ”みたいなことを言ってましたけど。
広瀬:名前はロニーが同じのロニー・ロメロ。髭をはやして短髪だからフレディ・マーキュリー(笑)。
柴田:なにしろリッチーはグラハム・ボネットの声が細いって言った男ですからね。(笑) いや、本気なんだろうとは思うんですけど、こだわりがないっていうか…。ロニー・ロメロの音源聞きましたけど、歌は上手いし、若いし、多分おかしな人ではないと思うんですけど…広瀬さんはどういう感想なんですか?
広瀬:かつて、イアン・ギランの後任にテリー・ブロックが入るってニュースがあって、あの時はすぐに消えたんですけど、それが本当に入ってしまった、という感じですね、この肩すかし感は。確かに下手なヴォーカリストではない。上手いメタル・シンガーですよねロニー・ロメロは。でも…リッチーは実際、どこまで彼を買ってるんでしょうか…ねえ。(笑)
柴田:ロニー・ロメロはチャンスですし、リッチーと一緒にやったヴォーカリストはそれ以降も素晴らしいキャリアを歩んでいると思うんです。でも、うーん、そういうところも含めて、やっぱりさすがリッチー・ブラックモア的な感じですね。

ブラックモアの真実3

リッチーがやりたくないことは、誰もやらせることはできない

広瀬:古い人とはやりたくなかったっていうのは確かなんでしょうね。ただ、僕が会う度にリッチーはデイヴィッド・カヴァデールの声は褒めていて、先日デイヴィッドが来日した時の取材でそのことを伝えたんです。彼はいまだに“ブラックモア=カヴァデールみたいなことをやれるんだったらやりたい”ってことは言うんですよ。僕が今回この「ブラックモアの真実3」に加えた書き下ろしの原稿でも書いたんですけど、当時の再結成が上手くいかなかった根本的な理由の1つは、キャロル・スティーヴンス(リッチーの妻&相方のキャンディス・ナイトの母)っていうブラックモアズ・ナイトのマネージャーがリッチーがどれだけ凄い人かってことを知らなかったから、っていうのも大きかったんですよね。
柴田:本当にそうなんですよね。
広瀬:以前レストランで、MTVの「史上最高のロックバンド・ランキング」みたいな番組を一緒に見ていたんですけど、ディープ・パープルが70~80位くらいに入ったのを、彼女が“凄い!ディープ・パープルってこんなに有名なんだ!”って驚いていて。当時、彼女は“レインボーなんかやるよりはブラックモアズ・ナイトの方が3倍儲かる”って豪語していたって、これはロニー・ジェイムズ・ディオとマネージャーのウェンディ・ディオから聞いたんですけど、でも今はキャロルもレインボーが儲かることをよく知ってるし、デイープ・パープルの売り上げ枚数とかも知って、リッチーのビッグさが分かってると思うんです。
柴田:マネージャーとしては無茶苦茶遅いですけどね(笑)。
広瀬:キャロルが今やりたいのは娘(キャンディス・ナイト)をソロでデビューさせること。そこでレインボーのスタジオ・アルバムの発売を条件にとてつもない高い金額で交渉したりしてる。今ならその金額を取れると踏んでるんですね。ま、言ったことがコロコロ変わる人なんですけど、レインボーをやることについては以前と違ってマネージャーはむしろ前向きだと思う。結局リッチーがやりたくないことは、誰もやらせることはできない──という当たり前の事実に戻ってくるんです。逆に言うと、リッチーがやりたいと思えばできる。

近寄るヴォーカルは嫌い?

柴田:ちなみにこんなことを聞いていいですか?ブラックモア=カヴァデールみたいなものか、ディープ・パープルかわからないんですけど、そういうことが起こる可能性がゼロになったわけではない?
広瀬:そうですね。
柴田:デイヴィッド・カヴァデールやグレン・ヒューズ、イアン・ペイスといった名前を皆が期待したと思うんですけど、そういうことではなくなった決定的な理由とかが世間に明らかになることってあるんでしょうか?
広瀬:なくなった理由……、う~んそれは難しいですね…。リッチーが誰かに対し、“あ、これじゃないな”って思う瞬間ってあると思うんです。グレン・ヒューズに関しては多分フッと、“リズム隊はブラックモアズ・ナイトのドラムとベースでいいかな”って思ったんじゃないかと。そうなったらグレンに拘る理由もないし。
柴田:リッチーってすぐ忘れて一緒にやるんだけど、やるとすぐ思い出すんですよね。
広瀬:そう、“ああ、こいつのこと嫌いだった”って。(笑)
柴田:イアン・ギランは何回も思い出されてますもんね。
広瀬:グレン・ヒューズがもし今一緒にやったら、ステージで真ん中を超えてリッチーの方へ行ってまた殴られそうになるわけですよ(笑)。
柴田:来るな!って言ったのに(笑)。
広瀬:74年に言ったのに、そういえばこいつは来たヤツだって思い出す。
柴田:そういう人ですよね。
広瀬:ジョー・リン・ターナーもちょくちょく寄ってくるのを怒ってて。今回、彼じゃないのも、それを思い出したからかも。(笑)
柴田:来てもいいじゃないですか。(笑)
広瀬:嫌なんでしょうね、あの人は。でもデイヴィッドはね~ひょっとすると…う~ん分からないですけどね。

リッチーとデイヴィッド・カヴァデール

柴田:そうやって考えたらディープ・パープルのメンバーの人たちってやっぱり普通じゃないですね。
広瀬:普通に見えてジョン・ロードとかも普通じゃなかったし。一番金にうるさいのはイアン・ペイスだって言いますけど。(笑)
柴田:まぁ、でも、いろんな意味でリッチー・ブラックモアって人はダントツで凄い人の筆頭ですよ。
広瀬:ただ僕はデイヴィッド・カヴァデールは本当に可能性があると思ってます。デイヴィッドにしてみれば、コージー・パウエルもジョン・ロードも亡くなって、自分も晩年なので、いろんな人と悔いのない関係を築きたい、リッチーとも一緒にやりたいという思いはあると思うんです。で、リッチーは“デイヴィッドでなくてもいいんじゃないの”と思ってるんだけど、例えば一曲だけとかって、何か突破口を色々話してみたいんですけどね…。多分、今回のロニー・ロメロと1回2回やった時に、彼はひょっとすると一線を超えてリッチーに近寄って来るんじゃないかなって思うんですよ。(笑)
柴田:どんどん近寄ればいいんじゃないですか。
広瀬:肩なんて組まれたら“こういうメタル・シンガーは好きじゃない”って思うかも。で、まだコンサート日程は残っている、その時デイヴィッド・カヴァデールが偶然スケジュールが空いていて、“金の問題じゃ無い、俺はリッチーとやりたいんだ”っていうことを言ったら、マネージャーは“喜んで”って言うと思うんです。
柴田:現状、スケジュールが全て発表されてないんですよね。回数も5回から減ることはない。
広瀬:減ることはないと思います。なかなか楽しいなって思ったらリッチーはやってくれると思うので。
柴田:ロメロには頑張っていただきたい…。やっぱりブラックモアズ・レインボーを見ることができるのを喜んでいる人は世界中に多勢いるので。
広瀬:ドゥギー・ホワイトの時も、無名シンガーながら、我々はレインボーが観られて凄くエキサイトしたわけで。
柴田:だからこれから起こることに期待してはいるんですが、やっぱりこの「ブラックモアの真実」が4、5と続くためにはリッチーはもちろん、デイヴィッド・カヴァデールや周りの方に頑張っていただかないといけない。
広瀬:だからリッチーに直接そのことに関してインタビューをして、どういう経緯や事情でこの再結成のラインナップになったのかを聞きつつ、それに関わったメンバーや人たちにインタビューをして…となるんですけどね。でもまぁ今のメンバーだとちょっと違うかなと思うので、例えばロニー・ロメロとやった上で、次にジョー・リン・ターナーをワン・ポイントにして、その後デイヴィッドとアルバムを作るという流れになってくれたら嬉しいなと。
柴田:素晴らしいですね。で、基本的にアジア圏に来るっていう話はまったく伝え聞かない。
広瀬:そうなんですよ。飛行機に長い時間乗りたくないって。
柴田:僕はとてもよく分かります(笑)。
広瀬:リッチーは昔、飛行機で肝炎をうつされた経験があって。ニューヨークからヨーロッパへ行くのは近いけど、日本は遠いからって途中ハワイに寄ってから来たりする。
柴田:ハワイに何泊してもいいから是非日本に来ていただきたいですね。
広瀬:ブラックモアズ・ナイトでも来日のオファーはしてたんですけど、リッチーは“日本は遠すぎる”って。でも、僕は今回、日本に来ると信じてるので、ヨーロッパのチケットを手に入れることは考えてないです。
柴田:何としてでも観たいですよね。
広瀬:日本で観たいですね。

ブラックモアの真実3

レインボーのベスト・メンバーは?

広瀬:例えば、柴田さんの選ぶレインボーのベスト・メンバーは誰になります?
柴田:ベースの技術だけでいうと、ちゃんとしてて上手なボブ・デイズリーだと思いますが、あのバンドにとってのベストとなるとジミー・ベインなんですよ。僕は高校時代『レインボー・ライジング』のベースを聴きたくて、EQやスピーカー改造やいろんなことをしました。あのアルバムのグルーヴはジミー・ベインとコージー・パウエルのコンビネーションなんですよ。でも歴代ベーシストの中でピック弾きで一番上手かったのはボブ・デイズリー。バンドに雰囲気を植え付けていたのはロックっぽいジミー・ベイン。で、曲に貢献するベースラインをよく知っているのはロジャー・グローヴァー。
広瀬:ロジャー・グローヴァーのことは評価してないでしょうねリッチーは(笑)。テクニック的に上手かったのはコージーが連れてきたクライヴ・チャーマンだけど、指弾きでしたからね。マーク・クラークはチューニングができなかった(笑)。
柴田:彼の音はレインボーには合わない、特にコージーとはまったく合わなかった。
広瀬:そのコージーのこともリッチーは評価してないし。
柴田:手放しでミュージシャンの資質として評価してるのは、ひょっとしてデイヴィッド・カヴァデールだけなんじゃないかと。
広瀬:そうそう。昔、レインボーvsホワイトスネイクで仲が悪くて、殴り合ったっていう噂があったじゃないですか。リッチーにしてみれば“自分が引き上げてやったんだ”って気持ちがきっとあるんだと思うんです。ヴォーカリストとして声を評価してたのはデイヴィッド・カヴァデール、でも才能を評価したのはロニー・ジェイムス・ディオ。曲作りで一番適応力があったのがロニーだと。で、グラハム・ボネットのことは少しも評価してない。(笑)
柴田:あと、リッチーが自分に関わっていたメンバーで褒めたのはデイヴ・ローゼンサル。
広瀬:いまだに、彼にブラックモアズ・ナイトのプロデュースを頼もうかと思ったくらいだって褒めてますね。彼はまた本当に謙虚な人で見た目もいいですから。

リッチー・ブッラクモアと柴田直人の類似点?

広瀬:今回この「ブラックモアの真実3」を読まれて一番心に残ったのは誰でした?
柴田:あえて言うと、コリン・ハートですね。彼はミュージシャンでもメンバーでもないんですけど、彼の喋った話で、やっぱりリッチー・ブラックモアっていろんな意味でハンパないなって思います。彼が言ってることがすべてだと思いますよ、決して善人ではないかもしれないけど、決定的に悪人でもないし、リッチーがやったり言った悪いことの尻拭いを全部コリン・ハートがやってきたわけですよね。
広瀬:お前やっとけって。
柴田:だからそういう彼の言葉を聞きつつ、やっぱり僕の感想としてはリッチー・ブラックモアみたいな人は、たぶん世の中には彼しかいないんだろなと思うし、僕にとってはあの音楽を作ってくれるだけで充分なんです。例えば真似しようと思っても追いつこうと思ってもリッチーのパーソナリティには到底追いつけないですし、凄いと思いますね。こだわりのなさ具合も何もかも。
広瀬:僕はちょっとね、ある一面、一部で柴田さんもリッチーに似てるなって思ったことがあるんです。
柴田:そうですか(笑)。
広瀬:やっぱりアーティストってそういうものなんだなと。自分の作るものとか、環境とかに関しては客観的になれないんだなって思うんですよ。僕が“この曲最高ですね”って言っても、“いやぁ~”って言うでしょ。それって『ストームブリンガー』を嫌いなリッチーと同じ(笑)。
柴田:『ストームブリンガー』はいいアルバムですよね。
広瀬:リッチーが一好きなアルバムって『スレイヴス・アンド・マスターズ』ですからね。
柴田:僕は違います(きっぱり)。
広瀬:僕も違いますね(笑)。リッチーも年齢的に60代の後半、あとどれくらいやってくれるか分からないんで、本当に日本に来て欲しいですよ。
柴田:是非来て欲しいです。
広瀬:柴田さんも、あの歳になってもヘヴィメタをやっていて欲しいですね。もうちょっと楽なセットリストにしてもいいですから(笑)。
柴田:そうですね、60代後半で今のセットだと一部で死にますね(笑)。
広瀬:本当に(笑)。ということで今日はお忙しい中ありがとうございました。
柴田:ありがとうございました。

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リッチー・ブラックモアを中心に、DEEP PURPLE/RAINBOWの歴代在籍者に対してBURRN!誌が行なってきた「歴史検証インタビュー」シリーズを書籍化した『ブラックモアの真実』の第3弾。今回も貴重なリッチー・ブラックモアの独占インタビューを収録している他、『ブラックモアの真実』『ブラックモアの真実2』に収められなかったトニー・カレイ、ボブ・デイズリー、ボビー・ロンディネリらも登場、デイヴィッド・カヴァデールがこれまで明かさなかったDEEP PURPLE秘話を赤裸々に語った貴重なロング・インタビューも収録。他にロニー・ジェイムズ・ディオ、グラハム・ボネット、ジョー・リン・ターナー等々。来年リッチー・ブラックモアが19年ぶりにハード・ロックに復帰してライヴを行なうことをBURRN!の独占インタビュー(2015年11月号)で明言したことを記念して、今回はアーカイヴ意外に、一連の「検証シリーズ」インタビューを行なってきた広瀬和生による書き下ろし原稿も掲載。圧倒的な情報量を誇る『ブラックモアの真実』シリーズの区切りとなる、ファン必携の一冊!

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