6月16日、翌々18日に82回目の誕生日を迎えるポール・マッカートニーを祝う“For Paul McCartney & Wings Lovers“が、MUSIC LIFE CLUB、LEGEND OF ROCK、六本木BAUHAUSによるスペシャル・トリビュート・イベント“M.L.B. THE GREATEST ROCKS”により開催された。当日はポール・マッカートニー&ウイングスをイギリスで撮影したことで知られる浅沼ワタル、ラジオ番組「全米トップ40 The 80’s」でお馴染みのラジオDJの矢口清治、そして、ビートルズ研究家の藤本国彦が登壇。ライヴ・パートはビートルズ・トリビュート・バンドとしても知られるThe River Birds がアルバム『ウイングス・オーヴァー・アメリカ』を再現した。
ビートルズに間に合わなかった世代にとって、ポールとウイングスはビートルズの熱狂を疑似体験させてくれたバンドなんです──藤本国彦
ウイングスによる全米ツアーを元に制作されたライヴ・アルバム『ウイングス・オーヴァー・アメリカ』(1976年)は、ウイングスがバンドとしてのピークを示した記録であり、ロックバンド、ウイングスの完成型として記憶される作品。これを再現するライヴ・パートを前後に挟みトーク・パートが行われた。
〈トーク・パート〉
矢口清治(以下矢口):藤本さんはリヴァプール、ロンドンから帰ってこられたばかり。
藤本国彦(以下藤本):一昨日帰国したので、いきなり寝ないように気をつけます(笑)
矢口:『オーヴァー・アメリカ』に関して藤本さんの率直な気持ちを。
藤本:ビートルズは1966年8月のシェイ・スタジアムがライヴの頂点、ウイングスもポールが一から作ったバンドとして、1976年の『オーヴァー・アメリカ』はビートルズにとってのシェイ・スタジアムと同じような意味合いのライヴの頂点という位置付けかなと思います。
矢口:その絶頂期に近い時に彼らを撮影されていたのが浅沼さん。
浅沼ワタル(以下浅沼):僕は、この『オーヴァー・アメリカ』ツアーのオフィシャル・カメラマンにノミネートされてたんです。ツアー同行一日幾ら、オフは幾らというギャランティでイギリス人カメラマンと僕がノミネートされ、広報の人は僕を推してくれてたんですけど最終的にポールの決定でイギリス人に決まったんです。
矢口:オフィシャルカメラマンは一人だけだったんですか?
浅沼:一人です、チャーター機に同乗して。
矢口:そのツアー以外ではプレスとしてポールたちの写真は撮ってらした。
藤本:前年1975年9月に撮ってらっしゃるんですよね。
矢口:それで、これがプレス・パス(パスの現物を紹介)。カメラマンとして撮影が許可された証ですけど、これはもらえるものですか?
浅沼:終わったら返さなきゃいけないんですけど──(笑)。
矢口:では、他にも浅沼さんだからこそお持ちのアイテムをご紹介しましょう。
ここで、ポール&リンダ、デニー・レインのサインが入ったアルバム『ヴィーナス・アンド・マース』のジャケットが登場、デニーに至っては二箇所にサインが入っている。75年9月13日バーミンガムでのライヴの後にバックステージでサインを貰ったとのこと。さらにプレス・キットや目玉焼きを模したバッジや記者会見のインヴィテイション・カードが入ったアルバム『バック・トゥ・ジ・エッグ』のプロモーション・ボックス。そして藤本さんも初めて見たという、謎の1979年製「胸にウイングス・ロゴが入ったペンギンのポスター」が紹介された。(謎のポスターについては、各所で調査中です)
藤本:このポスターってLPの折り込みサイズですよね──『バック・トゥ・ジ・エッグ』のオマケじゃないとは思うんですけど…。
矢口:ポール・マッカートニー関連なので、歴史的アイテムとして検証されるべきものなので情報お待ちしております。浅沼さんはこうやって色々なアイテムを保管されているんですか?
浅沼:一番多いのはクイーン、次いでポリス/スティング、あとはツェッペリン、ストーンズ…。
矢口:「なんでも鑑定団」じゃないですけど、お宝関係の切り口でのトーク・イベントとかもできますね。
浅沼:僕がロンドンでお世話になったのがカメラマンのデゾ・ホフマン(初期のビートルズを撮影したカメラマン)、彼のオフィスに居候してました。そこでビートルズの写真やグッズを見せてもらって、4人のサインが入ったポストカードも、僕、持ってます。
藤本:中華街の入り口のスタジオですか?
浅沼:そうです。
藤本:あそこは「ビートルズ・ツアー」で毎回廻ってます。
浅沼:そのビルはオーナーが中国人で、ずっと“出てくれ”って言われてたけど、(デゾは)亡くなるまで居たんじゃないですかね。僕のイギリスでの保証人はデゾ・ホフマンなんですよ。
藤本:それは素晴らしい。
矢口:ウイングスを撮影されていて、メンバーそれぞれはどんな方でした?
浅沼:ポールは一番忙しくていつも報道陣に囲まれていて、一対一で話す機会ってないんですよ。だからリンダが色々と気をつかってポールを呼んでくれたり(“ちょっと待ってうちの旦那呼んでくるから──”って)、デニー・レインは報道陣とも話をするけど結構暇な時もあるので、僕は一緒に過ごす時間も多かった。
藤本:ウイングスは二度来日公演(1975年、1980年)が無くなったので、僕は生のウイングスのステージを見てないんです、だからご覧になった方がどう見られたかはすごく興味があるんです。
浅沼:今だと、〈アタマ3曲〉(コンサートの1〜3曲撮影OK)って言いますけど、当時は全曲OK。ステージ前のカメラマン・エリアで、テレビカメラが入ってなければ自由に動いて撮れました。僕の場合はポールがメインで80%ポールを撮って、残りをリンダ、デニー・レイン、ジミー・マカロックを撮る。
藤本:撮った写真はポールからOKをもらう?
浅沼:ないです、全然ない。
藤本:そのまま全部ミュージック・ライフへ送って。
浅沼:そうです。写真チェックがあったのはブライアン・フェリーとベイ・シティ・ローラーズくらいかな。ベイ・シティは使えないようにポジの目のところに針の穴が開けてある。
矢口:徹底してますね。
浅沼:ブライアン・フェリーは使用NGのカットに×がつけてある。100カットでOKが30あったかな──、うるさかったですね。
藤本:ナルシストですもんね。ポールは全然何もなく。
浅沼:全然大丈夫でした。クイーンもたくさん撮ったんですけど、イギリスのカメラマンは結構チェックを受けてるんです、僕だけ受けてない。イギリス人の友達カメラマンはOK出たのが2点、もう一人はゼロといったことも。
藤本:ゼロ! ポールは写真は撮りやすいですか?
浅沼:撮りやすいです──っていうか、リンダが年中撮ってポーズも色々つけてるから、こちらが言わなくても勝手にやってくれますよ。僕が撮った中ではスティングがこだわりがあって、こちらがポーズとかの指図をすると “ワタル、俺はモデルじゃないんだから”って言って、自然体で撮って欲しいんですね。
矢口:藤本さんは先日のリヴァプール、ロンドンはいかがでした?
藤本:10日間のツアーでハンブルグにも行きました、ロンドンは都会だし、リヴァプールもビートルズ観光地としてかなり確立した感じで、ハンブルグもリヴァプールに近い印象。コロナ明けでかなり活気が戻ってきてますね。
お二人にとってのポール・マッカートニーとは?
矢口:では、最後に敢えてお二人に伺いたいのですが、あなたにとってのポール・マッカートニーとは?
浅沼:僕の場合は被写体です。被写体からもらった音楽を聴いて、〈あぁこういうミュージシャンなんだな──〉という立場なんです。音楽から入って写真を撮るんじゃなくて、被写体から音楽を耳にする。どんなアーティストもそうなんですよ。
矢口:でもそんなお仕事の中で巡り合って時間を共有した、歴史的な大きな存在。
浅沼:結果ですね、今考えてみると。
藤本:ひとことで言うと、僕はビートルズに間に合わなかったので、ポールとウイングスはビートルズの熱狂を疑似体験させてくれたバンドであるのは間違いないです。ビートルズは『アビイ・ロード』で、ウイングスは『バック・トゥ・ジ・エッグ』で終わりますけど、ライヴを中心としたビートルズの60年代の活動と、ウイングスとしてバンド形態でずっとやってきてUSAライヴで頂点を迎える70年代は、同じような10年を辿ってるんですね。その熱狂を体験させてくれたのは本当にありがたい。しかもポールはまだ現役でライヴ活動を続けているっていうのは本当に凄いです。
矢口:ポールの来日は?
藤本:わからないですね──でも、もう一回くらいは。
矢口:わからない…ということで。本日はどうもありがとうございました。浅沼ワタルさん、藤本国彦さんでした。
(場内大拍手)
このトークを挟んでライヴ・パートを担当したのが5人編成のThe River Birds。女性キーボード&コーラスのメンバーが加わっているのはウイングスと同じ。幅広いコーラス・ワークと、様々な楽器を演奏するギタリストが多彩なサウンドに対応、さらにロックテイスト溢れるリード・ギタリストとドラマーが強靭なサウンドを生み出し、シャウター、ポール・マッカートニーを彷彿させる強力なヴォーカリストが全体を引っ張っていく。LP三枚組で発売されていた『ウイングス・オーヴァー・アメリカ』から8割強を越す全23曲を〈1st stage〉〈2nd stage〉に振り分けて演奏、実に熱い熱いライヴだった。
The River Birds
〈1st stage〉
Venus & mars
Rock show
Jet
Let me roll it
Spirit of ancient Egypt(山口Vo.)
Medicine jar(石橋Vo.)
May be I’m amazed
Lady Madonna
The long & winding Road
Live & let die
Blue bird
Black bird
Yesterday
〈2nd stage〉
My love
Listen to what the man said
Go now(山口Vo.)
Magneto and Titanium man
Silly Love songs
Beware my love
Letting go
Band on the run
Hi Hi Hi
アンコール
Soily
The River Birds
山口大志/Daishi Yamaguchi(Vocal, Rhythm Guitar)
手島正揮/Masaki Teshima(Vocal, Bass, Piano)
バッシー/Kosuke Ishibashi(Lead Guitar, Vocal)
杉山安曇/Azumi Sugiyama(Drums, Vocal)
ナカノサキ/Saki Nakano(Keyboards, Vocal)
書籍のご案内
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WINGS OVER THE PLANET ポール・マッカートニー&ウイングスの軌跡
A4判 / 272ページ / ¥ 3,520
祝!ビートルズ最後のレコードが完成
名盤『バンド・オン・ザ・ラン』発表から半世紀!英米のアルバム・チャートで1位を記録した代表作『バンド・オン・ザ・ラン』のリリースから、今年で50周年を迎えるポール・マッカートニー&ウイングス。'70年代のロンドン、バーミンガム、リヴァプール、パース、アデレード、シドニー、ブリスベン、メルボルン、ニューヨークの各都市でバンドが活躍する様子を『MUSIC LIFE』が撮影した、総数約4,000点から選りすぐりの「秘蔵ピンナップ集(120頁超)」を筆頭に、「全アルバム&全シングル詳解」「レコード&メモラビリア・コレクション」「ポールの愛機変遷」「復刻インタビュー集」他の充実したコンテンツで、ウイングス10年の活動を集大成します。
ウイングスをこよなく愛し続けるファンと、ウイングス世代のビートルズ愛好家に捧げます。【CONTENTS】
■ウイングス 飛翔のハイライト〜初公開ショットを多数含む秘蔵ピンナップ集
■レコーディング・ストーリー 1971-1980
■ウイングス期に制作されたシングル曲の全て
■ソロ〜ウイングス期の未発表音源集『COLD CUTS』の紆余曲折
■歴代メンバーのプロフィール(リンダ・マッカートニー/デニー・レイン/デニー・シーウェル/ヘンリー・マッカロー/ジミー・マカロック/ジェフ・ブリトン/ジョー・イングリッシュ/ローレンス・ジュバー/スティーヴ・ホリー)
■ウイングスのサウンドとステージを彩った 忘れ得ぬポールの愛器たち
■日本盤シングル・ジャケット集
■日本盤[帯]ギャラリー
■12インチ・レコード・コレクション
■7インチ・レコード・コレクション
■レコードの封入品/付属品
■記念品/販促品/関連品 等
■ファン・クラブ関連品
■復刻インタビュー&ルポルタージュ(計10本)
■全コンサートの履歴とセット・リスト
■ML読者投票の結果で振り返る日本での人気変遷 他