「革新の天才ドラマー リンゴ・スター研究」発売記念イベントが、著者の小宮勝昭さんと、リンゴ役になりきる“あんちゃん・☆(THE BEAT★RUSHほか)のトーク&実演解説、さらにトリビュート・バンド・ライヴの2部構成で、10月6日銀座ラウンジゼロにて行われた。司会はMUSIC LIFE CLUBの吉田が担当。

「リンゴの凄いところは、一聴してリンゴと分かる、この曲にはこのドラムしかありえない──という所まで行っているところ

第一部

吉田:「革新の天才ドラマー リンゴ・スター研究」はどれくらい前からの構想ですか?

小宮勝昭(以下小宮):僕はドラマーとして演奏活動をしてきていますが、30年くらい前から執筆・編集の仕事もするようになって、その頃から、いつかリンゴの本を作りたいな──と思っていました。

吉田:構想30年(笑)

小宮:そして昨今のビートルズの<50周年記念リイシュー>の音源を聴いて、僕の中でまた新しい音が聴こえたんですね。それを自分なりに検証してみたくなったというのもあります。

吉田:そこであんちゃん・☆が色々と協力してくれているということですが。

小宮:この本の要でもある<リンゴの音色>にフォーカスした記事の中で<リンゴが使っていた楽器>を検証してみよう──となった時、リンゴの楽器をフルでコンプリートしているあんちゃん・☆を紹介してもらったんです。

吉田:びっくりしました?

小宮:これがあって本が成立しました。貴重な写真が撮れて、新事実の数々も。

あんちゃん・☆(以下あんちゃん):僕は今年41年目で、ビートルズ・トリビュート・バンドをやってますけど、まさか自分の楽器が本になるなんて。

小宮:あんちゃんは、リンゴのドラム全部を持っていることに加えて、使ってる、というのが大きいですね。

あんちゃん:自分だけで楽しむんじゃなくて、観に来てくれたお客さんに<本物の音ってこういう音なんだよね>というのを届けたくて。リンゴはドラムだけじゃなくシンバルも年代によって違うのを使っていますし。

 

 

客席にはかなりの数のドラマーの方がいらしている中、あんちゃん・☆はドラム・セットに移動。リンゴ・スターが1964年に使用していたものと製造年、月もほぼ同じで、リンゴのスタッフや、ロンドンで実際リンゴに楽器を提供していた店から情報を得た上で組み上げたセット。サイズは初期から比べると一回り大きくなって、バスドラが22インチ、タムが13インチ、フロア・タムが16インチ。

 

あんちゃん:スネアは一番最初にビートルズで使った63年のラデイックのブラックオイスターのままです。これは解散するまでずっと使い続けてました。

小宮:ではまず、バスドラ、タム、フロア・タム、スネアと音を聴かせてください。

あんちゃん:(一連の流れ実演の後)スネアは普通に叩くのと、リム(縁の金属部分)も一緒に叩く(オープン)リム・ショットがあります。これは「ヘルプ」頃の音です。

小宮:中期くらいからはリム・ショットを多用しますね。詳しくは本にありますが、リムがスティールではなくブラス製。

あんちゃん:リンゴはそこにもの凄くこだわりをもっていて、全部のドラム・セットのリムをブラスにしています。

小宮:さらにスネアだけヘッドが特殊で。

あんちゃん:今はプラステイックとか加工されたヘッドなんですが、リンゴは本皮を使っていました。このスネアも貴重な60年代のデッドストック物を張っています。ただ皮なので天候によってチューニングがどんどん変わって大変なんです。シンバルもリンゴが使っていたものと全く同じで、602という番号は変わらずですが、パイステという会社になる以前のもの。

小宮: OEM(受託製造)ですね。

あんちゃん:リンゴはこういうのを貰っていて、買ってはいなかったみたいです。そしてリンゴは普通のドラマーとは大小のシンバルの位置(左右)が反対、多分重い音じゃない方でリズムを刻みたかったんじゃないかと思います。

 

まず、このセットを使って通常の8ビートの演奏が披露され、さらに<振りを加えて、シンバルを開いて叩くとさらにリンゴらしくなる>演奏も。常に右肩を上げ、リズムに乗りながらポールの方を見ながら叩く姿はフィルム映像で観るリンゴそのもの!

 

吉田:この後のライヴでその辺りはお楽しみいただくとして、リンゴ独特の音の解説を小宮さんにお願いします。

小宮:まずお気づきの通り、椅子が凄く高い。でもこれは必要不可欠なんですね。

あんちゃん:プロのドラマーの方にも<リンゴと同じことをやらないと、あの音は出ない>と言われました。バスドラとか踏みにくいですけど(笑)。

小宮:さらにリンゴといえばハイハット・シンバルの叩き方が特徴的。

あんちゃん:他の人はやらないですけど、リンゴは左右に扇ぐように叩きます。

小宮:初期のビートルズで多用されていて、あんちゃんが一番特徴的だと思う曲は?

あんちゃん:「オール・マイ・ラヴィング」ですね(実演)。音の粒が出てないのが特徴。

小宮:リンゴって常に音(リズム)が跳ねていて、そこがカッコいいですよね。続いてライド・シンバル(主にリズムを刻む)ですが。

あんちゃん:普通に叩くとチンチンチンと粒が出るんですけど、リンゴはシンバルの縁をスティックの腹で叩いてザァ〜っと流れる音にしています。曲でいうと「ロング・トール・サリー」(リンゴと同じように首を振って実演)。

小宮:後はスネアとタムの音も、リンゴは時代によって工夫をしていますね。

あんちゃん:中期から後期にかけてはドラムがミュートされた音になっていくんです。リンゴが何を使っているのか色々調べた結果、「ヘイ・ジュード」録音時に、スネアにシャモア(スイスカモシカの皮)をかけて叩いている映像があったんです。

小宮:いわゆるデッド・サウンド。

吉田:映画『ゲット・バック』でもバスドラに色々詰め物をしていました。

小宮:そうですね、あれは、ジェフ・エメリックというエンジニアがセーターとか色々詰めた──という逸話がありますが、ああいう音を創ったのはリンゴが初めてですよね。

あんちゃん:そう思います。多分誰もやってなかったと。

小宮:今だと一般的な録音の方法なんですけど、昔はバスドラの中にマイクを突っ込むのは割とタブーだった。色々とリンゴの革新的な部分が見えてきます。

あんちゃん:では皮の掛け方の調整が難しいんですけど、デッドな伸びがない音を(実演)。

小宮:さらに本の中ではティータオルの話が。

あんちゃん:イギリスではティータオルと呼ばれている食器を拭いたりするキッチン・タオルを掛けて「レット・イット・ビー」辺りでは使っています。

小宮:同じものをあんちゃんはお持ちなので(笑)。

あんちゃん:成分表もちゃんと調べて同じものを手に入れました。それも本に書いてあります。

小宮:だから、今回、<こうじゃないかなぁ──?>と思っていたことが、あんちゃんの取材を通して確信に変わったことが多々あります。

小宮:ではデッド・サウンドの曲をお願いします。

あんちゃん:「サムシング」がそうですが、ミュートしない音とミュートした音の聴き比べを(実演)。

小宮:音色で曲の印象が変わります。ドラムって音色について無頓着に扱われることがありますけど、音楽の中ではもの凄く重要で、その辺りもこの本で書くことができてよかったと思います。

吉田:そういった記事満載の「リンゴ・スター研究」ですが、最後にお二人にリンゴのどこが凄いのか、どこが魅力なのか、ビートルズの曲でいうと何が個人的にお好きか伺いたいと思います。

小宮:リンゴ・スターが一番凄いところは、常に音楽的なアプローチをして、曲にマッチしつつ、さらにリンゴしかやらないような特徴的なドラミングをしているところですね。一聴してリンゴと分かる、この曲にはこのドラムしかありえない──という所まで行っているところ。独特のグルーヴ感や間があって、それを本書では<リンゴ訛り>と書いています。あとは<叩かない凄さ>もありますね。個人的にお薦めの曲は、全曲と言いたいところですが、さっきあんちゃんが叩いた「サムシング」。一曲の中の物語の展開が劇的で本当に素晴らしいと思います。

吉田:あんちゃんはいかがですか?

あんちゃん:僕は小宮さんとはちょっと視点を変えるのですが、リンゴは解散後も、ジョン、ポール、ジョージのソロ作品にそれぞれ参加しています、仲がいいんです。<PEACE&LOVE>の人ですから。楽器ってその人の性格/心が出る──、それがリンゴの一番の魅力だと思います。曲でお薦めとなると、ハードルは上がりますけど(笑)「レイン」かな。

吉田:「ペイパーバック・ライター」のB面ですが、隠れた名曲ですよね

小宮:本人も「レイン」を一番だと言っています。

吉田:今度『リボルバー』のボックスも出ますが、どんな音になっているのか楽しみですね。ではお時間ですのでトーク・タイムここまでにして、休憩後トリビュート・バンドのライヴをお楽しみいただきたいと思います。小宮さん、あんちゃんありがとうございました!

(場内大拍手)

 

休憩後トリビュート・バンドのライヴが行われた。
ライヴ後には、書籍購入者にはサイン、さらに特典として貴重なドラム・セットに座っての記念写真撮影が行われた。

 

 

第二部

トリビュート・トゥ・リンゴ・スター・ライヴ/The Beatles Special Band

1.抱きしめたい
2.プリーズ・プリーズ・ミー
3.アクト・ナチュラリー
4.ロール・オーバー・ベートーベン
5.アイ・ウォナ・ビー・ユア・マン
6.アイ・フィール・ファイン
7.アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア
8.サージェント・ぺパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド
9.ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンド
10.レイン
11.サムシング
12.オー・ダーリン
13.オクトパス・ガーデン
14.ゴールデン・スランバー
15.キャリー・ザット・ウェイト
16.ジ・エンド

EN1.グッド・ナイト
EN2.ロング・トール・サリー

The Beatles Special Band  
山口大志(john:The River Birds)、手島正揮(paul:THE BEAT★RUSH)、伊藤 和宏(George:Ex. THE BEAT★RUSH) 、あんちゃん•☆(ringo:THE BEAT★RUSH)、 ナカノサキ(The River Birds)

書籍のご案内

  • 革新の天才ドラマー リンゴ・スター研究
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  • 革新の天才ドラマー リンゴ・スター研究

    B5判 / 256ページ / ¥ 3,300

    ザ・ビートルズから現在まで
    “歌うドラム”の音色、スウィング/グルーヴの魅力を検証!

    リンゴ・スターほど現代のポピュラー音楽に影響を与えているドラマーはいない。その音色、リズム・パターン、フィルイン、彼でしか表現できないグルーヴ/ニュアンス……すべてが斬新で革新的。特にビートルズ時代のリンゴのドラミングの進化・深化は半世紀以上経った今でも輝きを失わないどころか、新たな光を放ち、フォロワーも増え続けている。リンゴの何が凄いのか? どこに魅力があるのか? よくわからない人は何を知るべきなのか? それが明確にわかってしまう初の書籍です。世界で最も有名なドラマー、リンゴ・スター、“究極の研究本”。

    【CONTENTS】
    Part 1 RINGO's Amazing Sounds
    リンゴ歴代の愛器たち、貴重な写真から絶品なる音色を考察

    Part 2 Gear
    リンゴが愛した楽器とドンズバ!
    貴重なヴィンテージ・ドラムを検証

    Part 3 Talk About RINGO!
    名手が語る、リンゴの魅力とその影響力
    河村“カースケ”智康
    屋敷豪太
    大儀見元
    三浦晃嗣

    Part 4 History
    リンゴ・スター、音楽家としての歩み

    Part 5 Discography
    ザ・ビートルズから現在まで、参加アルバムを厳選して紹介

    Part 6 Playing Analysis
    リンゴが叩いたザ・ビートルズ時代の“ドラム”全曲徹底分析

    ●1962〜63年
    『PAST MASTERS(Disc 1 / VOLUME ONE)』
    『PLEASE PLEASE ME』
    『PAST MASTERS(Disc 1 / VOLUME ONE)』
    『WITH THE BEATLES』
    『PAST MASTERS(Disc 1 / VOLUME ONE)』

    ●1964年
    『A HARD DAY'S NIGHT(ビートルズがやってくる ヤァ!ヤァ!ヤァ!)』
    『PAST MASTERS(Disc 1 / VOLUME ONE)』
    『BEATLES FOR SALE』

    ●1965年
    『HELP!(4人はアイドル)』
    『PAST MASTERS(Disc 1 / VOLUME ONE)』
    『RUBBER SOUL』
    『PAST MASTERS(Disc 2 / VOLUME TWO)』

    ●1966年
    『REVOLVER』
    『PAST MASTERS(Disc 2 / VOLUME TWO)』

    ●1967年
    『SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND』
    『MAGICAL MYSTERY TOUR』
    『YELLOW SUBMARINE』

    ●1968年
    『THE BEATLES(THE WHITE ALBUM)』
    『YELLOW SUBMARINE』
    『PAST MASTERS(Disc 2 / VOLUME TWO)』

    ●1969〜70年
    『LET IT BE』
    『PAST MASTERS(Disc 2 / VOLUME TWO)』
    『ABBEY ROAD』

    Part 7 This makes you RINGO!
    “これ”を使ってリンゴになる!

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