『あの時も「こうあるべき」がしんどかった ~ジェンダー・家族・恋愛~』発刊記念トーク・イベント「世間の決めつけにモヤモヤしている人へ」が、著者パレットークの皆さんと長田杏奈さん出席でオンラインにより行われた。

パレットーク編集部からは、運営会社である株式会社TIEWA代表取締役の合田文(以下AYA)さん、ライティングや編集を担当する伊藤まり(以下まり)さん、エピソードをほぼひとりでマンガに仕立てるケイカさんが出席。そこに長年美容フィールドでライターとして活躍されている長田杏奈(以下長田)さん(近著は「美容は自尊心の筋トレ」)を加えた4人により、パレットーク、本イベントに寄せられた数々の「世間の決めつけに対するモヤモヤ」についてトークが繰り広げられた。全体の流れはジェンダー・家族・恋愛、とテーマを分け、出席者それぞれから様々なエピソードや見解を披露。

「私だけじゃないんだ」というのが実感できる場所が一つでも増えたらいいなと思っています── 

ジェンダーの問題

長田:海外のフェミニズムの記事を翻訳して掲載している本でも、「母として」「妻として」という“として”の紋切り型の見出しが並ぶこと、多いですよね。まだまだ、“役割”という“らしさ”を求められてしまっている。その人ががんばっていることを差しおいて「母として」「妻として」という見出しをつけるのはちょっと失礼じゃないかなと思うんですが…。これをメイクに当てはめてみると、「彼のお母さんに挨拶に行くときは大人しめなリップで、できる先輩と思われたいときはカラーレスにして」みたいな、TPPOメイクがあります。でも、どんなときでも、本来の自分のままでいいんじゃないかって思うんですよ。

AYA:中学生の頃ティーン向けの雑誌の読者モデルの男の子たちが、「このファッションは✕、これはナイ」と決めつけをしていて、それを読んで「私じゃこのファッションは似合わないんだ」と、結構傷つきましたね。“モテ”を意識させられてしまって…。

長田:それって「不特定多数に性的対象として見られるべき」ってことですよね。

AYA:あらためて言語化するとスゴいですね。

長田:世代によっても違いますけど、50代辺りでメディアを作っていた人は「恋愛しなきゃダメだよ」と言っていることも多いです。

まり:フェミニズム界隈でも「ラヴを主体的に楽しむことが女性の解放につながる」というムーブメントがありましたけど、今は少しずつ「楽しんでもいいし、楽しまなくてもいい」という感じになってきた、と感じますね。

AYA:「女性が恋愛を主体的に楽しめなかったころからの1歩、また1歩」という流れがありますよね。

長田:ひとつお話してもいいですか?

AYA:どうぞ!

長田:私の小学6年生の娘が先日卒業式のことでカンカンに怒って帰ってきたんです。というのも、席の座り方について、「女の子は足を閉じて左手で右手を膝の上で押さえ、男の子は足を開いて手は膝の上にグーで乗せる」ことをみんなに徹底させる指導があったみたいで…。聞いた私も「エッ、何それ?」となったんですが、「そこで怒って帰ってくる娘や、ヨシ!」と思いました(笑)。いい感じに育ってます。

AYA:視聴者の皆さんからも、同じモヤモヤが来てますよ。〈中学の面接の練習で、女子と男子が足や手のポーズを指定された〉。でも正しい姿勢で普通に座れば、いいですよね。人に迷惑かけない座り方であればいいと思います。

長田:座り方について、何にも考えてないゼロ・ベースの子どもたちに、”らしさ”を刷り込まないでほしい!

AYA:先生や親御さん、大人が、そういう”らしさ”を正しいと思ってしまいますよね。「学級委員長は男子、副委員長は女子」と先生が決めちゃったり…。私が大学のときもサークル長、副長が男女って決まっていました。だから娘さんはスゴいと思います!女性らしさの話に戻りますけど、ケイカの学生生活はどうだった?


ケイカ:私は、女子校出身かつ美大に進んでしまったので、ヘアースタイルとかも強要されず、周囲も自分と似たような価値観の子たちだったので、学生時代は割とのびのびしていたのですが、卒業・就職活動のときいきなり水面に顔を出したように、「えっ! これ何?全然違う!」となりましたね(笑)。みんなお化粧も綺麗にして、髪の毛も整えて、スカートにヒールで…。「あれ? 私もそういう風にならねばならぬのか?」と思ったんですけど、どうしてもスカートは履きたくないからグレーのスーツにしました(笑)。学生の間はまだ自我を形成している途中段階で、アンテナも今ほど張ってなかったから気づかなかったのかもしれないですが、社会に出てから色んなものを読み出して、SNS上で初めて〈女性らしさの押し付けで苦しんでいる人が世の中にいっぱいいる〉ことに気づき、そこで教えてもらいましたね。

AYA:全然気づかずに生活できる場所もあるけど、それに比べてまりはめちゃくちゃ小さいときから気づいていたって言ってたよね。

まり:最初に意識をしたのは、ランドセルを選ぶときでした。本当は私は黒がよかったんですけど、お父さんから「そんなことをしたらイジメられるから女の子は赤にしなさい」と言われて…。でも「いやだ!!」と反抗したので結局、妥協案として色の混ざったワイン色のランドセルになりました。大人になってからも、お父さんから「女の子なんだから、真っ黒な服を着ないで明るい色を着たほうがいいんじゃない」と言われたり、たまたま明るい色を着たときは「今日のはいいね」と言われたり…。「苦労しないように、一般的に幸せな人生を歩むように」と、父なりに子どもを守りたい気持ちが強かったのはわかるんですけどね。あと私が高校3年くらいで進路について考えているときも、同時期の兄の就職相談には1〜2時間しっかり話したのに、私が高校生なりに今考えていることを話そうとしたら、「お前はそこそこの大学に行って就職して結婚すればいいからな」で終わったんです…。

AYA:最初に出た「母として」「妻として」と一緒ですね。

まり:私が何を成し遂げたいかとかではなく、「ザ・女性としての生き方、役割をこなしていけばいいから」という感じでした。

長田:お父さんが、「こういうのが幸せ」という刷り込みの中で生きてきたというのもあるし、西洋でも日本でも女性が勉強したり頭がよくなると生殖能力がどうとか、女の人が勉強することに対しての圧が古今東西めちゃくちゃ強いんですよ。

AYA:“ジェンダーの決めつけ”についてはたくさんコメントをいただいていて、家事と結びつけられたものが多かったですね。〈女の子なんだから家事をやりなさい、と言われることが嫌です。一日中家にいたはずの兄は何も言われない、私は感謝されないし、家事をするのが当たり前視されるのも嫌〉とか…。

まり:これもすごくわかります。親戚で集まったとき、食事を準備するのは母や叔母たちで、片付けは私と従姉妹の子の2人。兄は大人たちと楽しそうな話をしてるのに、私は積み上げられたお皿を洗ってる…。

長田:親戚の集まりや法事のとき、長い机の上座の方に家父長と呼ばれる人が座って、台所に近い端っこに嫁と言われる人がすぐ立てる姿勢でいる、とかね。地方の神事でも女の人は台所、というのが多いです。

AYA:「その状況に対して鈍感でいられている」というのがどういうことなのか、家父長とされる人たちも一緒に気づいていく方がいいよな〜って思います。だって性別で役割分担されなくても、自分の得意なこととかやりたいことは絶対あるはずですし。

AYA:ジェンダーに関して言うと、Xジェンダーの方からもエピソードが来ています。〈自分の性自認が流動するんだけど、「今はどっち?」って聞かれるのがスゴく嫌だ〉と。「どういう感覚か知りたい」という感じなんでしょうか。

長田:その質問自体が性別二元論になっちゃってますよね。

AYA:必ずしもどっちというわけではなく、揺れ動くものなんですよね。その間とかグラデーションの中にあるはずなのに。性のあり方を好奇心でズケズケと聞いちゃうのは、止めたほうがいいですよね。

まり:でも、もしかしたら「どっち?」と聞いている方は、〈she/he/they〉など、相手をどう呼ぶかプロナウン(注:ジェンダー代名詞)を尊重したいからかも…?「今はsheって呼んだ方がいい?heがいい?今日はどう?」っていう可能性はなきにしもあらず、ですね。

長田:プロナウンについて最近「時代が変わってるな」と思ったのは、『宝石の国』というマンガです。登場人物の一人称が変わるんですよ。

ケイカ:そうそう。女の子かな?と思って読んでたら、“俺”っていう一人称になったり、性別がない描かれ方をしていて。

長田:ボカロのゲーム『プロセカ』(『プロジェクトセカイ カラフルステージfeat.初音ミク』)の登場人物の中に性別を設定してない子がいたりと、子どもが見るものの中にそういうキャラクターが当たり前に入っているのがすごいな、と。そこでは「今、どっち?」とかは聞かれないですし。

AYA:触れていくエンタメの内容って大事ですよね。何気なくいるキャラクターが、どんな性のあり方なのか関係なく出てきて、性のあり方よりその人の生き様にスポットが当たるのがいいんじゃないかな、と思います。

ケイカ:本当にそうあってほしいですね。

AYA:変わっていってほしいところですが、そんなジェンダーの話がお便りで来ていたので紹介します。〈(ジェンダーの問題が)「気にしすぎ」とか、「自分は気にならないよ」といった“個人の気持ち”の問題にさせられてる〉それは嫌ですよね。

まり:私、今までの人生をずっと“気にしすぎ”の人でやってきたので(笑)。少年という言葉と、少女という言葉が非対称なのが気に食わなかった、とか。ニュートラルな存在が男の子で、“女”は“女”って敢えてつけないと“女”にしてもらえないっていうのにイライラしてましたね。確かに自分でも私は面倒くさいと思います(笑)。

AYA:でもそうやって話していることで、周りの人間がそういう非対称差に気づける人になっていく、というのは絶対あるじゃない?

長田:1回ではなかなか難しいけど、「気にする人がいる」という圧を出すことはとても大事。

AYA:気づくきっかけが、自分のちょっとした声がけかもしれないですし。

長田:自分が当事者でなくても、「そういうの嫌だ」って言うことで、知らずに周りの当事者を守れているときもありますし。

AYA:だから個人の主観、気持ちの問題ではないんですよね。

長田:そう、本当は構造の問題なんです。

AYA:構造の問題で苦しんでいる人たちがいる中で、どうやってもっとよりよい社会にしていくか、我々が大人としてがんばりたいと思います。では、ジェンダーの話はこのくらいにして、家族の問題に行きたいと思います。

 

家族の問題

AYA:家族における“こうあるべき”もいろいろエピソードが来ています。いただいたコメントとしては、〈将来寂しくなるから、介護が必要なときが来るから、子どもを産んだ方がいいよ〉。

長田:ウルセ~~~~!!(笑)

AYA:子どもって物なの? 介護する物っていう扱いもよくないし、そもそも大きなお世話ですよね。

長田:今60代の私のおばは、3人兄弟の次女なんです。その叔母が小さい頃、祖母(おばの母)に「将来面倒を見てもらうためにもう1人女の子を産んだ」と言われたそうで、今でもたまにそれで泣いてるんですって。小さいときに言われたのに…。あと地方によっては、妹に対して「姉が結婚するまであなたは結婚しちゃダメ」というのも未だにあるみたいですよ。

AYA:それに近いお便りがありました。お兄さんの妻が自分より年下で、「あなたは結婚する時期を、彼女に抜かされてるよ」って。女性は早く嫁いだ方がよい……みたいな価値観の押し付けです。

まり:“クリスマスケーキ”という呼ばれ方を聞いたときは衝撃を受けました。24日はクリスマス前日だから皆ケーキは買うけど、25日になると「今日中に売れなかったものは価値がなくなる」という──。

AYA:それは25歳の年齢を、クリスマスになぞらえているってことだよね。

まり:まず、我々はケーキじゃないですし!

長田:賞味期限みたいなものはありません!日本人女性の寿命は伸びに伸びて、将来120歳くらいまで行くんじゃないかって言われてる中で、なんでその最初の25年を最盛期みたいに捉えるのか…間違いというか未熟というか…。

AYA:「娘には25歳まで、息子には30歳までに結婚して欲しい」というお母さんの言葉に悩まされたというコメントも。

長田:妊娠がいい感じにできる年齢が若く設定されすぎているんですよね。でも、女性だからといってみんなが妊娠するわけではないし、すればいいわけでもない。高齢になって不妊治療をする人もいれば、自然に着床する人もいる。いろんなケースがあるのに、「なんとなく23歳くらいで産むのがいい」みたいなことを、少子高齢化を心配する権力のある方々が主張されており…。

まり:私は21歳になったとき、おばあちゃんから、「じゃあもう結婚ね」って言われました(笑)。

AYA:ジェネレーション・ギャップだよね。

長田:地域の差もありますよね。東京だと同年代でも、結婚している人の方が少なくて、働いていてみんな楽しそうにやってるけど、同窓会とかで里帰りしたときに同級生に会うと、家族構成とかが全然違う、みたいな。

ケイカ:私は実家が九州なので、東京とのギャップがめちゃめちゃあります。世代が違うしそもそも若い人が少ない。親戚が集まると発言権と権力を持ってらっしゃるのはお年を召した80代の方々になってしまうので、そこにいる我々家族も、男性陣は食卓で楽しそうにやっているのに女性陣は家事を、みたいなのも普通です。これは以前マンガにも描きましたけど、あんなに家で家事を率先してがんばってるお父さんが、実家に帰ると“踏ん反り返り魔”になっちゃうんですよ。

まり:おばあちゃんとの話に付け加えると「子どもも産まなきゃね」みたいなことも言われましたね。「う~ん子どもは無事産めるどうかわからないし、今、もしここで降ってきたら受け止めて育てるけど、ちょっとどうなるかわからないよ」と言ったら、「おばあちゃんの同世代で子どもを育てないで年取っていった友だちは、若いときは自分勝手に楽しそうだったけど、今は子どもがいなくて心細そう、寂しそう」って…。自分が、当時共働きをしながら子どもを3人育てて大変だった、今は子供がいて頼もしい──というのはわかるけど、そうじゃない人たちについて『アリとキリギリス』みたいな感じで、「昔は楽をしてたから、今、寂しい思いをしてる」というのはどうなんだろう、と思います。もちろん子育てではいろんなことを経験するだろうし、心の成熟度が高まっていくというのはあると思うけど、でも成熟する道はそれだけじゃないですよね。

長田:ルートはいろいろありますから。

AYA:起業したりとかね(笑)。

長田:凄い説得力がある。

AYA:いい体験になりました。成熟するにはいろんなアプローチがあるし、おばあちゃんも、大変だったけど自分はすごくよかったんだよ──ということを伝えてくれようとしてるんだろうけど。

長田:それでこんな孫ができたっていう。

まり:祖母的には自分ががんばって幸せを掴んだという実感があるのでしょうけど。

長田:そうそう、「私が幸せ」っていう話なんですよね。「おばあちゃん幸せでよかったね!」って話。

まり:そんなおばあちゃんも、今はパレットークの本を全部読んでくれています(笑)。

長田:素晴らしい、いいまとめ。

ケイカ:私も実家でご近所さんにパレットークの本を渡したら神棚に飾られました(笑)。いやいや、読んでください(笑)。

長田:今、メッセージが来ました。〈最近子どもを出産した友人が、「2人目はいつ作るの?」みたいなことを、「最近寒いね」っていう天気の話をするように訊かれて嫌だって言ってました〉

AYA:つまり、何をしてもいろいろと言われますよね。

長田:いい人はいないの? 彼氏いるの? 結婚はいつなの?

まり:産んだら産んだで、母乳か? ミルクか? とか…。

長田:私はフリーランスですから、10月に娘を産んで4月に仕事復帰をしたんですけど、近辺の保育園が1歳からしか保育を受けられないので隣の区の認証保育園に行ったんです。その後、子どもが小学校とちょっと合わなかったとき、教頭先生から「お母さんが仕事を辞めたら?」って言われたんです。そのときパートナーが「それはもったいないので無理です」ってすぐに言ってくれて、「ヨシ!」と思ったんだけど、そのときの言葉はずっと恨んでます。あ、そして、チャットがまた来ました。〈「結婚して子どもを産まないと価値観変わらないのは」……本当に言われて死にそうです〉。

長田:なんなんでしょうね、その、「番(つが)え」ってやつは。

ケイカ:そういう人たちが多いから、そのルートしかないと思って言ってくるんだと思います。本当はスゴく枝分かれしてるはずなのに、別のルートを選んでいいはずなのに、それを選んでいる人が少数派だから…。

まり:子どものことだけじゃなく、「この食べ物嫌いなんて人生損してるよ」ってのはあるじゃないですか。「自己と他者の境界線、分かってる?」と思っちゃいます。

AYA:さっきのおばあちゃんの話もそうだし、自他の境界線の話だと思います。ここにいっぱい来てる“良かれと思うお節介”のほとんどに対しても、「気持ちはうれしいけど自分の幸せを願ってくれるのならそれは違うよ」と言えれば本当はいいんでしょうけど、なかなか言えないよね。

長田:ああ、そうか、辛いですよね。

AYA:しかもわかってほしい近くの家族に対して言うことほど辛いですからね。

長田:「明日からお前とは口をきかない!」とかできないものね。

AYA:でも、ちょっとずつ「それは私の幸せではないわ」とか、「幸せを願ってくれるならこういう風な言い方をしてくれたらいいな」とか言えるといいんですけど…。

長田:あ、またチャット来てます。〈「一人っ子ならたくさん愛されてきたんでしょ」って言われたのが凄く嫌だったのを思い出しました。私の幸せを考えてくれるならそれは違う、みたいな話は色んなことに言えますよね〉。

AYA:こういう風に色々自分で思い出して吐き出すのは凄く大事だと思います。『あの時も「こうあるべき」がしんどかった』と、自分の気持ちをまず受け止めて、周りに話してみると、意外と「私も~!」「俺も~!」っていうのが来るんですよね。それこそが次のアクションへのパワーになってくるんじゃないかと。では、『~ジェンダー・家族・恋愛~』の恋愛に行きたいと思います。

 

恋愛の問題

長田:どんなのが来てるかな?

AYA:〈恋人がいる=勝ち組という考え〉とか、〈大学生のうちに恋愛をしておいた方がいい〉とか、〈男女の友情成立しない説〉とか、〈バイセクシャルなら誰とも友情は成立しないということですか?〉とか。やはり「これってこうだよね──って言うときの主語が大きいのでは」と思ってしまいますよね。

まり:そうなの。もしかしたら人によっては、自分の性的指向が向いてる相手全員を恋愛の対象として見る──という人もいるとは思うんですよ。でも、全員がそうとは限らないじゃないですか。

長田:お前のデカイ主語に私を入れるな! (笑)

AYA:そうなんですよね。そして相手の職業のことも関係していて…。

まり:本の中にも似たテーマがありますけど、私のパートナーはバンドをやっていて、最初パートナーができたことを話すと、「何してる人なの?」って聞かれるじゃないですか。そこには「どれくらいの経済力があるの?」という意図があるんですけど…。「バンドマン、バンドをやってるんだよ」と言うと、“(笑)”みたいな反応がけっこうあって…。

長田:それはどちら様からも?

まり:いろんな人から、ですね。「出た、バンドマン!」みたいな(笑)。そもそも私は別にバンドマンだから付き合ったわけじゃないですしね。

AYA:リハーサルのときにも話したんですけど、「バンドマンと付き合ってる」と言う方が、時と場合によっては「同性と付き合ってる」と言う時よりむしろ嫌な思いをしてるんじゃないか──と体験上思うことも…。なぜかというと、これも間違いなんですけど「同性と付き合うって“真実の愛”じゃん」みたいなのがあるんですよ。

ケイカ:「性にとらわれてない」的な…。

AYA:性を超えてる──。いや、逆に超えてない超えてない!って、それも間違いだけど、「同性と付き合う」みたいなことは絶対差別しちゃいけないんだ──という認識が広まりつつあるんです。

まり:「新しい愛の形」とかもありますよね。

AYA:同性同士のお付き合いは新しい価値観として尊重しなきゃいけないと思ってる人はいて──特に友だちとか知り合いの方に同性と付き合っていることを言って、めちゃくちゃな嫌な思いをしたっていうことは、実はそんなになかったり…。

長田:“(笑)”は付いてこないってこと。

AYA:そうそう、“(笑)”は付いてこない。

まり:(バンドマンとの付き合いは)伝統的なダメな恋愛とされてるんだと思うんですよ。

AYA:都心でこの年代で、だからかもしれないけど「同性(笑)──みたいにバカにするのは絶対ダメだよね」という文化があって、そんなにネガティブな反応は私は感じたことがないんです。だから、まりの話を聞いたら、「そんなに言われるの?」って。

まり:もちろん他の面で言えば、同性カップルのほうがつらいことが多いと思いますが。

AYA:他にももっと大変な構造はいろいろとありますけど、友だちに言ったときの“(笑)”っていう反応はないな。

まり:オーストラリアに行ったとき向こうのフェミニストの人たちに「パートナーはバンドをやってるよ」と言ったら、反応は「クール」だけだったんですよ。その「クール」も「カッコいい!」じゃなくて、「あ、そう、いいね」みたいな感じ。それくらい無関心でいてくれてありがとう!

長田:あ、チャットが来てます。〈「隙がない女性はモテないよ」と言われたとき、なんで隙を見せる=モテ度に繋がるのか疑問に思ったことがあります〉。

まり:そういう「隙ネタ」って、もしかして性犯罪誘発してる?って思っちゃいます。

長田:何なんだろう、〈友だちに、今まで一度も恋人ができたことがない……という話をすると、そのうち絶対できるよ!と必ず返されるのがなんだかモヤモヤしています。別に全員がほしいと思ってるわけではないのに。学生時代は恋愛レース、アラサーの今は結婚レース。抜かされた! 追いつかなきゃ! というのが友だち同士で話題になるのがウンザリします〉。

AYAまり:ヤダヤダヤダ~。

ケイカ:話題がそれしかない~。

長田:競走馬じゃないんだ私たちは!

AYA:学生時代の人とはそういう話になるときもあるけど、大人になって「こういう価値観を大切にしているよ」って話してからできた仲間の中で、そういう話が出ることはまずない。それで自分の安心できるテリトリーを作れたなと思ってるところなんですよ。だからそのテリトリーの外で嫌な思いをしても、ここに帰ってきて、みんなと愚痴ってマンガにする──という(笑)。本当にこういう話をできる相手を見つけられるとすごく楽です。

ケイカ:なんだったら「パレットーク読んでる?」って聞いてみるのも。

AYA:パレットークをフォローしてる人と友だちになる──っていうのもいいかも。

長田:〈同性が好きっていう気持ちを言えない時代とか、気持ち悪がられる時代よりはいいけど、かといって「私はそういうのいいと思うよ」って理解ある感じに言われるとモヤってしまいます〉。

AYA:それ、来てました。〈「私はいいと思うけど」とか「否定はしないけど」とか、軽蔑されないのはうれしいんですけど、人の恋愛事情に何目線?みたいな〉。まだまだ来てますね。〈会社の会食で、男ばかりじゃ花がなくてつまらないから女の子も来てね〉。

長田:出た出た、花要員。

ケイカ:まだそんなのあるんですね。

AYA:花はモノだ、人じゃない。

まり:私の友だちは、「(飲み会に)女の子来てよ~」と言われてムカついたから、そのお店に行って、その人に水かけて帰ったらしいです。

全員:(爆笑)

長田:チャットが来ました。〈女性陣がたまたま全員離席していて、3つ隣の部署の私にオジサン上司が「お茶入れてくれる?」と言いに来たときの衝撃! 30年経っても忘れられません。大切なお客様にお茶をいれるのは全社員ができないとダメ!〉。その通り!

まり:3つ先の部署に行く労力があったらお茶いれればいいじゃん!(笑)

長田:企業は本当にヤバくって…。私は女性起業業界とか美容業界だから、女性のボスが多かったので、まあまあ風通しがいいし変なセクハラは排除するんだけど、もう少し堅い男性中心の業界だと、結婚したり子どもができたりしたら、窓際みたいな部署に追いやられる、とか、絶対通勤不可能な所に転勤させられる、とかがあるみたい…。直接的に「辞めろ」は言わないけど、企業文化として女性社員を男性社員の結婚相手として見るという感じが強くて、「子どもを産む予定の女性は仕事をしない、できないはずだ、家に居るべきだ」みたいな価値観を上の人が持ってるからかもしれないです。

ケイカ:女性の意思とは関係なく。

長田:不条理すぎて、意味がわからないですよね。

まり:自分の会社がダイバーシティ推進や女性活躍の〜とやっていても、例えばその人が異性愛者で夫がいて、夫の会社が旧態依然とした会社だったら、結局その人は会社を辞めざるを得なくなるじゃないですか。それはどうしたらいいのAYAさん?って聞こうと思ってました。

AYA:まずは夫の会社にまずセミナーに行く!(笑)。でもそういうところの価値観を合わせてから結婚に至るというのはなかなか難しいと思うな。

長田:ず~っと男女平等だと思ってきたけど、自分が働いていて、結婚して子供を産んで育児が始まったときに「男女平等じゃなかった」と気づく人がすごく多い、という話をいろんな人から聞きます。

AYA:男女で付き合っているときに、「そういう問題を相手にわかってもらえない、そういうときはどういうコミュニケーションをしたらいいの?」という声もすごく聞きます。

長田:う~ん、難しいですね。でも、その「好き」みたいなところから入ったんだったら、やっぱりコミュニケーションありきで。一番よくないのが「察してくれるはずだ」ということかも。

まり:わかるわかる!

長田:「察してくれるはずだ」の中の「私のこの大変さとか気持ちを分かってくれるはずだよね」という期待が大きいと、わかってくれないときに辛いから、一応、察しを待つより言っておいた方がいい。それは泣きながら言ってもいいし、怒りながら言ってもいいし、へらへらしながらカジュアルに言ってもいいけど、「察してもらえるのが無理ということもあるよ」ってことだけ気をつけたらいいですよね。

まり:そう思います。「察してほしい」はダメなんだなって。

AYA:一人ひとり状況が違うからね。

まり:逆に、察してもらうのを待つだけではダメだから言わなきゃいけないと思うけど、一方でそういうのを色々言ったら、面倒くさいと思われて嫌われるんじゃないか──と不安になる瞬間がある人も多いような気がしていて。つまり、「言える」ってことは、そもそも「聞いてもらえる」っていう安心感がないとダメだなというのはありますよね。

AYA:話を聞いて1回否定せずに受け止めて、その人の気持ちになるのは難しいかもしれないけど努力するっていう姿勢のある人。あと、新しいことが来たときに自分の価値観で突っぱねないで受容したり、新しい価値観に加えようという努力ができる人は、この手の話は強いはずじゃないですか。だからそういう人だなって思える人と生きていけるといいのかもしれない。さて、残り時間が少なくなってきたので、Q&A質疑応答に進みましょう。

 

Q&A質疑応答

長田:〈“こうあるべき”の事例として挙げられた物事の中には、完全に不合理なステレオタイプと、社会を円滑に進めるための規範じみたものが含まれている気がしました。例えば就活の時の服装はこうあるべき──はどう考えるべきなんでしょうか。女性はこういう格好、男性はこういう格好、こういう振る舞いをすべきと強引であっても、社会構造的に規範づけられていることで就活生にとっては楽な部分もあると思うのです。どんな格好をしてきてもいいとなると、自分らしさを表現することを強要されてかえって苦しんだり悩む人が増えてしまうと思います。実際のところ、多くの人は自分に都合のいい“こうあるべき”にはタダで乗っかり、自分に都合の悪い“こうあるべき”は偏見・ステレオタイプとみなして反抗するという風にして、かなり自分勝手に生きているんではないでしょうか。だとすると様々な“こうあるべき”を論じることは、肯定的であれ批判的であれ凄く難しいと思います。どう考えればよいと思われますか?〉。

AYA:自分に関係ない“こうあるべき”はスルーするというのは、一人ひとり人間ですから、あるかなと思います。

まり:規範というのは絶対にルールとしてどんな社会にもあるとは思うんですけど、そこに「遊び」があるかどうかなんじゃないかなと。例えば制服だって、もとはそれぞれの家の経済状況が違うから皆で同じものを着るという側面もあったと思うんです。今は制服がある上で、どちらの制服を選ぶか、とか、男女を区別しない制服にするのかとか、変更可能性みたいなものが常にあることが、社会の生きやすさ的には大事だなと思うんです。

AYA:選択肢があるといいよねっていう話ですよね。

長田:多くの人にとって都合のいい“こうあるべき”が、そうじゃない人にとってすごく苦しいことがあるんだよっていうコンセンサスをみんなでとっていくことが大事なのかなと。

ケイカ:“こうあるべき”っていうのは、すごくマジョリティ寄りですよね。マイノリティがいて、それで苦しんでる人がいるっていうのが見えてない。

長田:あと、「私たちはこの“こうあるべき”で上手くやってて幸せなんだから、あなたたちは余計なこと言わないで」ということなくしていくことも!

AYA:私たちが気づいてないところで、今日も話にも挙げていないような“こうあるべき”がたくさんありますし、そこに関して鈍感になっているとき、そもそも「気づかなくても生活できているマジョリティな自分」に気づくというか、そういうのもやっぱり大事だと思いますね。

長田:言葉ではそれを“特権”と言ったりしますね。

ケイカ:でも、自分がマジョリティですごく楽なことをしてると気づいたときのショックって結構あると思います、自分がどれだけ傲慢だったかっていう。

AYA:場合によって、ルールとか規範ってすごく都合よく作られてるし…難しいですね。一概には言えないしケース・バイ・ケースのところもあると思いました。

長田:次。〈恋人がいないと、「あなた、仕事忙しいからね」と言われる。仕事は恋愛の代償行為ではない!〉。これは心の叫びですね。

まり:Aセクシャル(注:他者に性的感情を抱かない・エイ/アセクシャル)の人が恋愛しないことに対して「過去にトラウマがあるんじゃないか」とか、「良さを知らないだけなんじゃないの」とか邪推する人がいて。人の恋愛事情、そんなに気になるんだなあって思います。

長田:トレンドとしても恋愛至上主義コンテンツがスゴく多かった時期に青春を過ごした人は、その刷り込みがかなり強烈みたいで。

まり:愛情というのが描かれたときに、素晴らしいものになるってことはたくさんあると思うんですけど、それだけじゃない……。

AYA:「それだけじゃない」は、私はキーワードにしてます。「とは、限らない」とか。

まり:とは、限らない!

AYA:何が来ても1回、あ、そうか、そういうのあるな──って勉強をする。そういう大人でいたいし、そういう人たちと、残りの人生、多くの時間を過ごしたいな思っています。だけど、それに悩んでいる人たちもいるから、「まだそれに気づいてない」っていう人の所に行ってお話をさせていただく仕事をがんばりたいなとも思ってます。
あとちょっと角度の違うお話で、〈仲のいい友だちがTikTokの話をしてたとき、「こいつホモじゃん、キモい」って言ったのでモヤっとしたんだけど、思ったことを言うとこのまま仲よくいられなくなるのかなあと思って言えなかった自分にモヤっとした〉。

まり:言えなかったときって嫌ですよねえ。

AYA:本当にそうなんですよね、あの時こうできたのにっていう自分が情けないモヤモヤ。

まり:「もしかしたら不和が起きるかもしれないけど指摘をする」って、結構なエネルギーがいるじゃないですか。日常レベルでは、「その相手はエネルギーをかけたいほど大事な相手なのか?」というのも考えます。全員を変えることはできないから、自分の中で誰にエネルギーを注ぐのか、というか。

AYA:会社勤めとかだとある程度プライベートがあるけど、学校ってプライベートとか分けられないよね。学校が全世界となっていて。でも、自分らしい取捨選択、人や居場所、環境を選べる状況に来る可能性はあるので、年齢が上がるにつれて解決していく問題の一つなのかもしれない。でも、理想的な解決ではもちろんないですが。

長田:でも、そのモヤっとできる自分っていうことをまず褒めてあげてほしい!

AYA:確かに。

ケイカ:本当に。

まり:うんうん。

AYA:その発言は、自分と直接関係ない人や内容かもしれないけど、そこに対して「それはよくないな」と気づけた。これは気づいた者勝ちな価値観だと思うので、気づけた自分をきちんと肯定しつつ、同じ気持ちの人はたくさんいるし、そんなところを大事にしていただければと思っております。
こんなところで、今日はいろいろ質問やコメントなどありがとうございました。いろいろお答えさせていただきつつ、我々のエピソードも聞いていただいたと思うんですけど、長田さん、本当に今日はありがとうございました。

長田:ありがとうございました。

AYA:最後に一言ずつ感想をいただいて。

まり:最後のコメントでもりあましたけど、自分ができなかったモヤモヤとか、今日話に出たモヤモヤを話せる相手がいない、ということもあるじゃないですか。そんなときには、日記に書くのもモヤモヤの解消の方法の1つだな──と、私は最近思っています。あと、本を読むのもオススメです。このオレンジの表紙の本とか!(笑) ありがとうございました。

ケイカ:最初は、リハーサルでこういうテーマで話そうって言っていたのに沿ってたんですけど、いろんな話に飛び火したし、日々のモヤモヤはいっぱい出て来きますよね。こういう場所は大事だなと思うし、言語化って大事だと思います。でも言語化ってすごく難しいじゃないですか。脳に知識とかストックがないと難しい…。だからこそ、アンテナ張るのは大事だし、本を読むのも大事だし、情報を得るのも大事だし、そういうものをもっと手軽に、自分のために人の知識を手に入れられる場所は大事だなと思いました。

長田:「『あの時も“こうあるべき”がしんどかった』よね~」って話せるのがすごいいいし、あとはAYAさんが読んでくれたみたいな「私だけじゃないんだ」というのが実感できる場所が、本でもSNSでもこういう場でも友だち関係でも、なんか一つでも増えたらいいなと思いました。いっぱい喋ってとってもスッキリしました。

AYA:ありがとうございます。そういう場所があるのが大事なので、ワークショップとかもやりたいですね。もっと皆さんに参加していただいてできればいいなと思ってます。この話は本当に尽きないというか、根っこで言ってることは一緒なんだけど、いろいろな具体例がたくさんあるので、自分のストーリーを語れる場所をこれからもそうやって作っていきたいと思います。パレットークのトークができる場所にしていきたいという気持ちも込めて。

まり:あ、この本の表紙は憂いを含んだ表情なんですけど、読んだ後にカバーを取ると……。

AYA:あ! これは是非ご購入いただいて、憂いを含んだ表情がどう変わるかご確認いただければ、と。では、今日はお付き合いいただき、皆さんありがとうございました。

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    あの時「決めつけ」に生きづらさを覚えて苦しみ
    そして今も「こうあるべき」にしんどさを感じるあなたへ──

    男の子は青、女の子は赤が好きなのは当たり前。男性は女性、女性は男性と付き合いたいもの。美容師やバンドマンは不安定だから結婚相手として見られない。男だから一家の大黒柱でなければならない。──そんな「こうあるべき」という「決めつけ」、誰もがしてしまったことがあるのではないだろうか。ただ、それで傷ついたり、生きにくさを感じたりする人は、多くはないかも知れないけれども確かに存在する。そして、昨今言われるSDGsでも指摘されているように、これからは社会全体でそんな課題に向き合い、解決していくことが必須だ。本書では、マンガ+ミニ解説でそうしたことへの「気づき」や、考えるための素材を提供する。社会の「当たり前」に違和感を感じたことがある人はもちろん、これからそうしたことについて知っていきたい人にも、さりげなく、優しく、接してくれる一冊。著者パレットークはSNSをメインにLGBTQやジェンダーについて活発に発信しており、近刊「マンガでわかるLGBTQ+」は現在3版と好調。

    【CONTENTS】
    幼少期で
    01 男の子の色、女の子の色
    02 子は親を見て男女の役割を学ぶ
    03 「女の子のおもちゃ」は恥ずかしい?
    04 視界に入る家庭の単一化
    column 1 同性婚と自己肯定感と自殺率

    学校生活で
    05 「違い」はおかしい! 仲間はずれ遊び
    06 マイノリティが感じる性自認や性的指向のズレ
    07 性別による決めつけの違和感
    08 トップに立つのは男の子だけ?
    09 男子の文系、女子の理系
    10 奇抜な個性に関する偏見
    column 2 「こうあるべき」へのプレッシャーは人の可能性への足かせ

    大人になったら
    11 職種や肩書でのラベル
    12 男子のヒエラルキー
    13 恋愛観の押しつけが「呪い」になるかも
    14 女の幸せ≠ゴールイン
    15 子どもを持ってこそ一人前
    16 父、母の「こうあるべき」

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