「語り継ぐロックの伝説 sing NIAGARA~ナイアガラに愛をこめて~」が大滝詠一氏ゆかりの地、福生にて伊藤銀次さんプロデュースのもと8月27日に開催された。
参加ミュージシャンは「ナイアガラ・トライアングルvol.1」参加の伊藤銀次さん、「ナイアガラ・トライアングルvol.2」の杉真理さん、ナイアガラゆかりのドラマー上原ユカリ裕さん、銀次・杉のサウンドに欠かせないキーボード奏者小泉信彦さん。ステージが始まる前にこのメンバーによる軽いトーク・セッションが行われ、銀次さんの軽妙な司会で、それぞれの<大滝詠一像>が語られた。
「ナイアガラ・トーク・セッション」
伊藤銀次(以下銀次):杉くんは大滝さんと一緒にやる──というのはどうでした?
杉真理(以下杉):いやぁ今だに焦りますよ、僕なんかが大それたことをやらしていただいて。あの当時はビビっちゃいけないと精一杯背伸びしてました。
銀次:大滝さんは優しい感じだけど、ちょっと怖さを感じる人でね、結構テストされるんだよ、俺、何度も失格になった。でも、その割にちゃんと最後まで付き合ってくれて、ありがたいですね。ユカリくんはナイアガラのほとんどのレコードで叩いてるでしょ。
上原ユカリ裕(以下ユカリ):俺『vol.2』は叩いてたっけ?
銀次俺に聞かれても困るんだけど(笑)。
ユカリ:島ちゃん(島村英二)も叩いてた。大滝さんのレコーディングは、リズムボックス(ドンカマ)のボタンを無茶苦茶に押してフレーズを決めたのとか、レコードやテープを逆回転させたのを“これを叩いてくれ”って。グルーヴを出すのが大変でね。
銀次:人間が叩くパターンじゃないから。でも、できた?
ユカリ:できたのとできないのがあった。
銀次:一つそういう難しいパターンをユカリがやっちゃったから、僕もギターでアドリヴを弾いたのを逆回転にしてそれを同時に弾けって言われた。そういうパズルに合格した人が大滝さんの周りに残った、好きだったよね逆回転。さて小泉君は大滝さんとは?
小泉信彦(以下小泉):いや、僕は面識も何もないです。アマチュアの頃から聞いてはいましたけど、謎の人で。
銀次:『A LONG VACATION』以降のロマンチックなのも大滝さんだけど、そういう遊び心が。
杉:二枚目と三枚目を上手く使い分けますよね。
銀次:ピュアな音楽からとても人を楽しませるヴァラエティ溢れる音楽までの幅広さ。ナイアガラ・レーベルって大滝さんのエンタテイメントでできてるからね。大滝さんが亡くなってその音楽を生で聴くことができないっていうのはファンの人にとってはとても悲しいことだと思う。だから少しでも関係のある僕たちが生演奏で大滝さんの音楽をやっていこうと始めたんですよ。
杉:特に私たち、三枚目方面は受け持っていますよね。
銀次:確かに確かに(笑)、大滝さんの意思を継いでね。私も不肖の弟子ですから、今後も「sing NIAGARA」を続けていきたいと思っています。
ユカリ:(大滝さんは)記録をとるのが好きだったよね、野球のスコアを付けたり。麻雀の点数をすごく細かいとろまで付けて。
銀次:記録魔だよ。
杉:スタジオでちょっと間違えたりすると“それ、面白いから録っておこう”。
銀次:福生にまだスタジオがあった時に「日射病」って曲だったかな、 “間奏の合間にトイレの水を流せ”って。米軍ハウスだから外国仕様のトイレで、タンクは上に付いていてバルブを引っ張るとジャ~っと流れるんです。僕はそれ以降そのヴァージョンは聴いてないんだけど、大滝さんはきっと密かに一人で聴いて楽しんでたと思う。
杉:かって『EACH TIME』のレコーディングの時に120分のカセットをずっと回して何があったかを全部録音してたのを、井上鑑さんが“それ全部聞いてるんですか?”って大滝さんに尋ねたら、“鑑、お前は何も分かっちゃいないよ”って。(笑)だから、答えはどっちなんだよ??。
銀次:「風に吹かれて」みたい、♫答えは風の中~。
杉:大滝さんが亡くなった後、スタジオにお邪魔したじゃないですか。120分のカセットが入った箱がいくつかあったから、これだ!って中を見たら巻き取られてて聴いたかどうか分からなかった。
ユカリ:途中までだったら分かるけどね。
銀次:あらゆる瞬間をエンジョイする人だったなぁ~って思います、なかなか大滝さんには勝てないよ。
杉:大滝さんの前じゃマニアって言葉は言えない。
銀次:僕はエラい目に遭いましたから。“ビートルズが大好きです、マージービートも詳しいです”って言ったら、“じゃあビートルズが最初アメリカで契約したレーベル全部言えるか?”って。僕が分からないっていうと、“そんなことも知らないで、ビートルズのことを知ってるなんてよく言えたもんだ”って。でもそれはすごい勉強になったんですよ、大滝さんの哲学は<1を知りたければ10を知れ>。知ってるつもりだけじゃ知ってることにならない、周りのことも全部知って初めて知ってることになる。大滝さんは別に教えてくれるわけじゃないんだけど、一緒にいると自然に色んなことが身についた。ただ、僕は一緒にいて褒められたことは一回もない──もうダメなんじゃないかと思ったけれど、のちに『STARDUST SYMPHONY ’65-’83』の「トワイライト・シンフォニー」を“あれはいいね”と生まれて初めて大滝さんに褒められた。プロデュースしたウルフルズの「びんぼう’94」も、“聴いたよ、俺のよりカッコいい”って。優しいけれど厳しい人なんだなぁ…。僕たちどこまでやれるか分かりませんけど、大滝さんが作ったナイアガラ・レーベルの名曲は、生で演奏して歌うと一層曲の良さ良さが光ってくるので、「Sing NIAGARA」として全国、それこそアジアを回っていきたいですね、今日も頑張っていきましょう。
『sing NIAGARA~ナイアガラに愛をこめて~』
本編『sing NIAGARA~ナイアガラに愛をこめて~』のステージは、銀次さんのエレクトリック・ギター、杉さんのアコースティック・ギター、ユカリさんのカホン、小泉さんのキーボードを基本編成として、銀次さん、杉さんが交互にヴォーカルをとる構成で進行した。
オープニングは大滝詠一セカンド・アルバム『NIAGARA MOON』収録のナイアガラ・ムーンがまた輝けば」、続く「青空のように」(『NIAGARA CALENDER』収録)を銀次さんの歌唱で。一気にナイアガラの世界が開けていく。杉さんは『ナイアガラ・トライアングル Vol.2』(大滝詠一,佐野元春,杉真理)から「ハートじかけのオレンジ」、シュガー・ベイブの「今日はなんだか」を歌唱。
一息ついたところで銀次さんが、“では伊藤銀子の歌を”と大貫妙子がリード・ヴォーカルをとったシュガー・ベイブの「いつも通り」と『ナイアガラ・トライアングル Vol.1』(大滝詠一、伊藤銀次、山下達郎)からの「幸せにさよなら」を披露。杉さんはビートリーな「NOBODY」(『ナイアガラ・トライアングル Vol.2』)を軽快に歌った。
後半は永遠の名盤『A LONG VACATION』からのナンバーが続く。銀次さん杉さんが歌い分ける「カナリア諸島にて」、同作には収録されてはいないがナイアガラ・スタンダードとして吉田美奈子、シリア・ポールなど多くのシンガーに歌われた「夢で逢えたら」を挟み、ロンバケから「恋するカレン」「君は天然色」と黄金のメニューのオンパレード。会場全体に口ずさむ歌声が満ちたところで、銀次さんの“最後の曲です、みんなで歌おう!”とシュガー・ベイブ「DOWN TOWN」でフィナーレとなった。
鳴り止まない拍手に応えて、ステージに登場したメンバーはアンコール曲として1981年のシングル「A面で恋をして」(ナイアガラ・トライアングル)を披露。
ナイアガラのサウンド・シャワーを全身に浴びた夏の終わりの一夜だった。
「Sing NIAGARA ナイアガラに愛をこめて Vol.1」
2024年8月27日 福生市民会館 小ホール
1.ナイアガラ・ムーンがまた輝けば
2.青空のように
3.ハートじかけのオレンジ
4.今日はなんだか
5.いつも通り
6.幸せにさよなら
7.NOBODY
8.カナリア諸島にて
9.夢で逢えたら
10.恋するカレン
11.君は天然色
12.DOWN TOWN
13.A面で恋をして
主 催:語り継ぐロックの伝説 実行委員会
企画制作:DreamQuest Sound Inc.
後 援:MUSIC LIFE CLUB
関連書籍
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伊藤銀次 自伝 MY LIFE, POP LIFE
A5判 / 248ページ / ¥ 2,200
日本のロック/ポップス史と寄り添ってきた45年に及ぶキャリアを総括する初の自伝!!
初めて詳しく語られる生い立ちからアマチュアバンド時代、ごまのはえ~ココナツ・バンクとシュガー・ベイブ在籍時を含む“ナイアガラ・イヤーズ”、その後のソロ活動まで全てを網羅。
アレンジャー/コンポーザー/プロデューサーとして携わった作品、自身のアルバムについて語り下ろした初の自伝が登場!!ロック・アーティストとして一線で活動を続けながら、日本のポップ・ミュージックのメインストリーム──歌謡曲~J-POPにも多大な影響を与えてきたミュージシャンの歩みが、貴重なエピソードをまじえながら詳細に語られます。
【CONTENTS】
フォト・ギャラリー
Part 1 誕生~幼少期の音楽体験
Part 2 ロックの洗礼を受けた中学~高校時代
Part 3 ドロップアウトと「伊藤銀次」の始まり
Part 4 ごまのはえデビュー~ココナツ・バンクの挫折
Part 5 福生から都心へ──セッションに明け暮れた時代
Part 6 松原みき、佐野元春──ギタリストからアレンジャーへ
Part 7 沢田研二とのレコーディング:1980-1982
Part 8 激務の合間を縫って始まる二度目のソロ・キャリア
Part 9 ポリスター末期~東芝EMIイヤーズと「イカ天」
Part 10 ウルフルズと90年代~2000年代初頭のプロデュース・ワーク
Part 11 2000年以降~現在までの活動
対談:伊藤銀次×上原“ユカリ”裕
ディスコグラフィ
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ナイアガラに愛をこめて 大瀧詠一ルーツ探訪の旅 増補改訂版
A5判 / 240ページ / ¥ 2,750
ナイアガラ・サウンドのルーツはここにある!
大滝詠一の「アメリカン・ポップス100枚」を加えた増補改訂版日本を代表するポップ・アーティスト、大瀧詠一。その素養となっていた幅広く様々な音楽的要素を、愛情たっぷりに、そして巧みに自らの作品に織り込んでいた彼のルーツをひもといた一冊が、大幅に加筆されて待望の復活を遂げた。
はっぴいえんど、ソロ作品、提供曲、プロデュース作品などの源流を探り、詳細に解説。音楽作品だけでなく、ラジオDJとしての魅力、スタジオ・ライヴ、監修企画等も紹介、ナイアガラの世界をより楽しめる最新研究が結実している。
大瀧詠一の名曲、名盤のルーツがここに!〈主な登場人物/グループ〉
大滝詠一、はっぴいえんど、山下達郎、吉田美奈子、シリア・ポール、ハナ肇とクレイジー・キャッツ、小林旭、弘田三枝子、ピンク・レディー、松田聖子、美空ひばり、薬師丸ひろ子、森進一、ラッツ&スター、渡辺満里奈、エルヴィス・プレスリー、バディ・ホリー、エヴァリー・ブラザーズ、ニール・セダカ、フィル・スペクター、ロネッツ、ビーチ・ボーイズ、アストロノウツ、フォー・シーズンズ、レイ・チャールズ、ジョー・ミーク、デイヴ・クラーク・ファイヴ、ビートルズ、バッファロー・スプリングフィールド、ナット・キング・コール ほか【CONTENTS】
Part 1
Rock'n'Roll, Elvis Presley
[column]大瀧詠一ルーツ探訪の旅・番外編① ラジオDJ=イーチ大滝の魅力 前篇Part 2
Aldon~Screen Gems, Teenage Idol Pops
[column]大瀧詠一ルーツ探訪の旅・番外編② ラジオDJ=イーチ大滝の魅力 後篇Part 3
Phil Spector's Wall Of Sound
[column]大瀧詠一ルーツ探訪の旅・番外編③ 山下達郎との貴重なスタジオ・ライヴPart 4
Surfin' & Hot Rod, The Beach Boys, Rock Instrumental
[column]大瀧詠一ルーツ探訪の旅・番外編④ 自ら監修したリイシュー企画・洋楽篇Part 5
Chorus Group, The 4 Seasons, Doo Wop
[column]大瀧詠一ルーツ探訪の旅・番外編⑤ 自ら監修したリイシュー企画・邦楽篇Part 6
Rhythm & Blues, New Orleans
[column]大瀧詠一ルーツ探訪の旅・番外編⑥ 日本のポップスはどこからきて、どこへと向かうのか?Part 7
Liverpool Sound, The Beatles, Joe Meek, UK Pops
[column]大瀧詠一ルーツ探訪の旅・番外編⑦ 日本音楽以外の多彩な趣味~映画カラオケPart 8
Buffalo Springfield, Swamp Rock, Soft Rock, Singer Songwriter, Soft Rock
[column]マイ・ナイアガラ・メモリーズ 前篇 YMOから『ロング・バケイション』へPart 9
Country & Western, Jazz, Popular Standard
[column]マイ・ナイアガラ・メモリーズ 中篇 松田聖子とヘッドフォン・コンサートPart 10
Japanese Pops, Crazy Cats
[column]マイ・ナイアガラ・メモリーズ 後篇 僕の人生を変えた『ゴー!ゴー!ナイアガラ』Part 11
Eiichi Ohtaki's American Pops 100 Selections
[column]マイ・ナイアガラ・メモリーズ OMAKE篇 最初で最後の〈大滝詠一ライヴ体験〉Part 12
Eiichi Ohtaki & Niagara Discography