コロナ禍の最中、下北沢B&Bも観客を入れてのイベント開催ができない状態が続いていたが、恐る恐るながら、ようやく入場人数を限定したトークイベントを行なうことになった。ソーシャル・ディスタンスを保った座席セッティングのため、チケットはソールドアウトしたものの会場の入りは通常の1/3程度。そんな中、主役のカザマタカフミ、スペシャルゲストの姫乃たまが招き入れられた。司会進行はB&B運営の原カントくんだ。
“俺はバンドマンだ”って意思を持てばその人はバンドマンだ
原:このB&BはBOOK&BEERの店なんですけど、この状況下、今日はお客さまに飲食物を出すのはどうかな──ということで。
カザマタカフミ(以下カザマ):(ビール缶片手に入場)下の店で買ってきました。
姫乃たま(以下姫乃):えっ!持ち込みしていいんですか。
原:コロナ・ビールを買ってきてあるということなので、後でお出ししますね。
姫乃:すみません(本で対談していた)大森靖子さんじゃなくて。姫乃たまです、よろしくお願いいたします。
原:カザマさんは姫乃さんと面識がありますか?
カザマ:あったはずなんですけど、今日会ったら(面識は)ないってことで。
原:ちょっと待ってください、カザマさんが呼んでくれってことで、姫乃たまさんにお声がけをしたんですけど。
姫乃:少しお話していいですか、私、3markets[ ]さんは高校生の頃から知ってて、一時期ライヴハウスに無料CDを配布されていたのをSHIBUYA DESEOか下北沢のどっちかでもらって聞いていました。今回オファーいただいて“3markets[ ]だ!”ってここに来たら、“ご無沙汰してます!”と言われて(笑)。あれ?会ってた?
カザマ:会ったことなかった……。
原:(笑)、ま、仲良くしていきましょうよ。
カザマ:ネットが発展してるんで、ネットで見てるだけで会った気になってる。
姫乃:でも新宿のライヴハウスで、共通の知り合いがいて──会ってるんですよね。でもその日、私、すごい酔っぱらってて、酔っぱらってた記憶だけはあるんです。
原:カザマさんは2年前、最初の本「売れないバンドマン」出版のときにB&Bに出演していただいて。
カザマ:ここじゃないですけど、別のB&B。
原:ここは今年の4月にできた店。
姫乃:大変な時期に。
原:オープン5日目で自粛。で、最初の時はCLUB QUEの上にあったB&Bで、それから2年半。カザマさん自身は二冊目が出るとは思ってました?
カザマ:まったく思ってなかったし、B&Bにも二度と来ることはないと思ってました。
原:なのに二冊目が出て。いまどき二冊目が出せる人ってなかなかいませんよ。
カザマ:ありがとうございます。
原:このイベントは配信されているので、ご覧になってる方の中には、これはどんな本なのか知らない方もいらっしゃると思いますので、簡単にカザマさんご自身の口からご説明していただけますか。
カザマ:世の中元気のない人がどんどん増えてきてると思うんですよ。そういう方が読んでいただくと、もっとダメな奴がいるんだな──と思って頑張れる、という本になってます。
原:なんともいたたまれない──、でも2年半前に一冊目が出て、その後渋谷のO-WESTで3markets[ ]を見ましたけど、会場満杯でしたよね。
カザマ:それは多分VRか何かだと思います(笑)。
原:明らかに売れる流れに乗ってたじゃないですか。その後どうしたんですか?
カザマ:その後ですか? やっぱりVRの調子が悪くなって(笑)。機械の故障だったり。
原:その2年半の間、カザマさんは、どんなことを思い、悩みながら過ごしてらっしゃったのかな……と。
カザマ:それは本を読んでいただければ。
カザマ、<売れるとは?>を考える
原:不安とかはあったんですか? 前回本を出して知名度が上がったからこその不安。
カザマ:(姫乃さんに)どうですかね?
姫乃:あのー、O-WESTとかワンマンでいっぱいになるじゃないですか基本的に。
カザマ:え、なんないですよ。それはアイドル業界と音楽業界のレベルが全然違う。
姫乃:大事な回だけいっぱいになって、他はアレ?っていうのありません? 私ワンマンライヴ730人入りましたけど、その前のライヴは30人しか入りませんでした。あとの700人どこに行っちゃったんだろう……って。
カザマ:30人も入れば多い……。
姫乃:えっ、そんな? じゃVRだったってことですか。
カザマ:それもVR(笑)。
姫乃:そーか……。
原:動員と売れる売れないは一緒でしょ?
カザマ:常に30人来ていれば700人は集まると思います。
姫乃:でも渋谷のさくらホールで730人入った3日前、卒業の3日前のライヴで30人ですよ。動員と売れるは──いろんな軸がありますからね、売れるにも。誰か売れてる人を呼びますか?(笑)。
原:僕らも分かってないんですけど、何をもって<売れる>っていうんですかね。物販とかいろいろありますけど。姫乃さん的には何をもって売れたというんですか?
姫乃:私に聞くんですか、それを(笑)。地下アイドルの子たちにインタビューして聞くと、“武道館”とかよく言いますけど、現実的なところでは親族のイベントに帰ったときに胸を張って言える──、ちょっと知ってくれている人もいるという感じ。
原:法事とかで帰ったときに。
姫乃:そうそうそう、“アイドルやってるよ”って言って、“あ、知ってるよ”──となると、ちょっと売れてるみたいな感じがありますよね。
原:カザマさん的には、売れないバンドが売れるというのは?
カザマ:ちょっとズレるんですが、僕、今の知り合いに今の活動を知られたくないんです。今日のこの配信も知らない人に向かってなので。だからテレビとかに出たときに、近くの人から“テレビ見ましたよ”って言われると、“それは別人なので止めてください、誰にも言わないでください”って。本当にそれはイヤなので。
姫乃:私も通ってる病院の受付の人に “見ましたよ”って言われたことがあって、本当にそれは止めて欲しいなと。
原:でも、売れたいわけですよね。
カザマ:知らない人に売れたいんです。知ってる人はどんどん身内贔屓になるし、ニセモノってぽい感じがしちゃうんですよ。なんかその人のためにやっちゃうと、どんどん内に内に入っちゃう。だから、できるだけ知らない人に対してやって、内側の人にも満足してもらえるものを作りたい。すいません真面目な話をしてしまって。
姫乃:たしかに応援してくれる人が分かると、何が喜んでもらえるか分かるから、そこに向かってやると一方向に固まってしまうという問題はありますね。ちょっと横スベりすると<自己肯定感低い人あるある>で、よくダメな男に引っかかる女の子っているじゃないですか。親身になって考えてくれる男は程度が低く見えて、よりオラオラ感満載で雑に扱ってくれる男の子の方がなんとなく輝いて見える──みたいなそういうダメループ。そういうのがバンドマンやアイドルにもあって、<私のことなんか応援してくれるこの人は程度が低い>みたいになっちゃうと、ファンとか関係なく外の層にリーチしたいんだけど、前にいる人を大事にできないと外の層にいる人にリーチできないので詰む──っていうのはよく見ますね。
原:まったく理解できない。
カザマ:ま、分かるけど、<蛙化現象>ってやつだと思うんです。追っかけていた相手が逆に好きになってくれると、“なんでこの人自分のことが好きなんだろう、気持ち悪い”ってなっちゃう。
姫乃:あぁそれ、ほら、バンドマンに引っかかるタイプですよ。
カザマ:僕がですか?(場内爆笑)。
姫乃:あはは、気をつけて。
原:でも、カザマさんも大変でしたね、この本が出るときが緊急事態宣言の真っ只中で、そもそもワンマンライヴをやる予定でしたっけ?
カザマ:そうですね。
原:踏んだり蹴ったりにもほどがありますよ。
カザマ:でも、売れない理由としてはちょうどいいかもしれない(笑)。
原:ワンマンは延期になったんですよね。
カザマ:コロナのせいで人が集まらなくて──これは冗談ですけど。
原:なんでそんなに自信がないんですか?
カザマ:自信は──どうなんですか。
姫乃:だってQUATTROっていえば怖いですもん。
原:QUATTROでワンマンが決まった時点ですごいじゃないですか。
カザマ:ありがたいですね。
姫乃:怖い……。
原:どういう怖さがあります?
姫乃:QUATTROだって広いじゃないですか。場所はお金払えば借りられます、私、2年くらい前QUATTROに出たとき、オープン時間にお客さん6人でしたもん。(場内爆笑)どこに行っても最前列みたいな、ソーシャル・ディスタンス先取りし過ぎ(笑)。
カザマ:それでも(始まるときは)お客さんバァーって入ったんですか?
姫乃:最終的には30人くらいしかいなかったので。今日のここのこの人数がQUATTROにいるって感じです。
カザマ:姫乃さんが売れた秘訣を教えて欲しいです。
姫乃:売れてないです──売れてますか?
カザマ:売れてますよ。だって本も三冊くらい出してるじゃないですか。
姫乃:出すのは出せますよ。(笑)
カザマ:売れてる売れてない……のとは違いますけど、Wikipediaに載ってるじゃないですか。
姫乃:Wikipedia載ってますね。
カザマ:ボクらないですもん。
姫乃:あれは、ディープなファンの方が書いてるんですかね。
原:カザマさんの一冊目の本(『売れないバンドマン』)はクリープハイプの尾崎世界観さんがゲストで出てくれて、その対談の中で、“オレは売れたとはまったく思ってない”っておっしゃってました。今回の本でも大森靖子さんは“売れたという実感はない”とおっしゃってて、僕らから見たら売れてる──と思える方でも、みんなそうは思わないんだなぁと本を読みながら思ったんです。
姫乃:今日家を出てくる前に、TBSラジオ「ACTION」に尾崎さん出てましたよ、毎週TBSラジオ出てれば売れてると言えるんじゃないかな。
カザマ:でもしんどそうですね。
原:カザマさん、これ発売記念イベントなんで、胸を張って。
カザマ:ごめんなさい。
原:でも、この本を読んでも、いい意味で成長してないですね。
カザマ:そうですか、ありがとうございます。
カザマ、新刊を語る&緊急事態宣言下の生活
原:この新刊の中で、これは自分的に出して欲しくなかったな……とか、これはぜひ読んで欲しいエピソードってありますでしょうか?
カザマ:ラジオでも話したんですけど、初めて東京に来てつきあった人のことをただ長々と書いていて、そんなダラダラしてる文を誰が読みたいんだよ?って思ったので、なんでこれを載せたんだろうって。
原:何のことだかさっぱり分からないと思うんですけど、これはカザマさんがストーカーになってる話ですよね。
カザマ:東京に初めて出てきて好きな人ができて一ヶ月でフラれたんですけど、ほぼストーカーみたいになったっていう3行で終わる話。それを長々と書いてる。
原:長く収録されてますね。
カザマ:一番長い。
原:自分はストーカーをしてるつもりもなく、でも気がつけばむちゃくちゃストーキングしてる──ってことじゃないですか。
カザマ:どうなんですかね。法に触れなければ、訴えられなければストーカーはストーカーじゃないっていう。
姫乃:うふふ。
カザマ:嘘です、すみません、全部嘘です、すみません。 (場内苦笑)
原:そういうことが本に載ると思ってなかったでしょ。
カザマ:特に本になると思って書いてなかったので、どうしよう……って感じ。
原:カザマさんが綴ったブログを編集の方が引き続きまとめてくださったのが二冊目の本になったと。
カザマ:そうですね。
姫乃:選んだのも編集さん。ま、ストーカーって通常意識がないものだから、ストーカーをやるほど熱狂してもまだ自覚があるというカザマさんの人物像がよく出ているなと。
カザマ:どうですか、ストーカー体験はありますか?
姫乃:あはは、ストーカー体験あるかな……。よく話すのは、風邪をひいた……とツイートしたら自宅までイチゴを持ってきてくれたファンの人がいて。
カザマ:おお、優しい。
姫乃:今、出てこれる?って。
原:なんで自宅を知ってんの、その人は。
姫乃:わかんないです。(場内爆笑)熱があるから出られないよって書いたら、イチゴを置かずに帰ってしまった。ま、自分がストーカーだという意識はないわけですから。
原:ほどよく売れたいお二人にはなんですけど、でも、めっちゃ売れたらそういう人、一人や二人は必ず出てきますよね。
姫乃:………まったく想像つかなくて、脳の中が無になってしまった。(笑)
カザマ:だって、来れるもんなら来てみろよって。
姫乃:なんでそんな強気なんですか。
カザマ:自宅の住所をそのまま曲にしたのもあって、長野県なんですけど。
原:個人情報の概念を覆す……。
カザマ:そうするとみんな来なくなるんです、知ってることはもう知らなくていいやって思うらしくて。
原:今カザマさんは埼玉県にお住まいで、バイトは辞めてないんですよね。
カザマ:コロナ禍なんで、バシバシやってます。
原:どういうバイトをやってらっしゃるんですか?
カザマ:今、病院の受付をしてます。
原:前作の頃のバイトの状況からは変わってるんでしたっけ?
カザマ:仕事は全然変わってないです。変化なく生きてます。
原:このバイトを辞めるかどうかっていうのは、バンドマンとしてどうですか?
カザマ:いや、でも辞めてなくてよかったなって、このコロナ禍の中。
姫乃:こんなことになるとは。
原:アイドルさんも大変だと思うんですけど、自粛期間中は何をやってるんですか?
姫乃:粛々と原稿を書いたり、精神病が悪化したので通院をしたりとか、頑張っておりました。
原:カザマさんは自粛期間中は大人しくしてました?
カザマ:ボク、自粛期間中はちゃんと目標を立てて生きようと思ってて、体重を落として痩せるとか。
原:意外ですね。
カザマ:自粛期間中5キロ太っちゃったんですよ、で、また5キロ痩せようとしても、誰も気づいてくれないんですよ。
姫乃:あはは、すごい。
原:カザマさんってちゃんと目標を立てる人なんですね。
カザマ:立てないと動かないんだなぁって。
原:この本の中でも彼女を『ロック・イン・ジャパン・フェス』には連れて行く──と。
カザマ:それはちょっと忘れました、いや、覚えてます。
原:ラジオで、“今年はロック・イン・ジャパン・フェスがなくなってホッとした”って言ってましたけど。(笑)
カザマ:いやぁ、6月中に最低でも曲を10曲作ろうと目標を立てて。で、今日6月最後じゃないですか、今7曲しかできてなくて。
姫乃:すごいじゃないですか。
カザマ:できなかったら勝手に彼女のブラジャーを買いにいく──という誰も喜ばないことを。(笑)
姫乃:自分で決めてたんですか?
カザマ:決めてたんです。壁に貼り出しときました。いや、なんか辛いかなと思って(笑)
姫乃:あ〜〜、楽しそうですけどね。
カザマ:ボクはまったく分からないから、下着屋さんに行った時、下着屋さんも分からないじゃないですか。
姫乃:サイズどれくらいですか?って聞かれても分からない。
カザマ:このくらいかな〜って、もうちょっとやってみたいなって。
原:すいませんね、こんな会話に付き合わせてしまって。
姫乃:私は決まった原稿の数が書けなかったらTENGA一個でも買いにいこうかな(笑)。
カザマの<新しい目標>
原:カザマさんは、この本が出たことで何か新しい目標はできましたか?
カザマ:そうですね──これがないんです。
姫乃:だって書き下ろしじゃないからね。
原:でもブロクはちゃんと書いてるんでしょう?
カザマ:ブログはたまに「ハンター×ハンター」みたいな感じで書いてます。
姫乃:もっと書いて、もっと書いて、カザマさんだから書いて。
原:冨樫先生は大御所だから許されるんですよ(笑)。
カザマ:すみません。目標を立てると病気になりやすいんで、ボクは目標は立てないっていうスタイルで生きてます。
原:世の中の人は立てて生きてる。
カザマ:ホントですか? (場内に)みんな立ててます?
姫乃:三者三様で、今みんなざわざわざわって動いた(笑)。目標を立てないと動かないじゃないですか、でも立てたら立てたで(できないと)傷つくじゃないですか、しかも(カザマさんは)傷つきに行く。その感じすごい分かるんですよ。
カザマ:達成できそうなことをやっていく──みたいなことなんですかね。
姫乃:そうなると怠けたりして……。自分が自分に対して一番ハードルが高いんですよね、そんな感じ、分かります。この本の中に精神科医の高橋猛さん(ドクター猛)が出てくるんですが、これがどうみても面白いダンディな方で。
原:この本のコラムでは、“カザマさんは<売れたくない>ということで自己防衛を張っている”と一言で喝破されていました。
カザマ:“それ!”って思いました。
姫乃:“売れてもあなたは変わらないと思う”と。
カザマ:最近、紹介された占い師にも、“お前は、<売れない>ということで自分を護っている”って、まったく同じことを言っていて、これは占いでなく、ただ本を読んだだけなんじゃないか──と。(場内爆笑)
原:姫乃さんはこの気持ち理解できます?
姫乃:めちゃくちゃ理解できます。
原:でも、売れたくて長くやってるわけですよね。
姫乃:(カザマさんに)売れたくてやってますか?
カザマ:……でも、それを言われてからは考えるようになりました。
姫乃:長く続くのは、圧倒的に<不安症>だからっていうのがあって。私もカザマさんも<不安症>なので。心は大きくは折れないんですよ、常に折れてるから。
カザマ:そうなんです、先に折ってるから。
姫乃:そうそうそう、大きく折れない。
原:ダメだこりゃ(笑)。続けることはすごいと思うんですけど、姫乃さんはあるとき辞めることを決めたんですよね。
姫乃:私はそうですね。もともとアイドル業よりは並行していたライター業の方を本業にしなきゃなぁ──って意識はあったので。アイドルに関しては自分の理想像がまったくなくて、なんでもよかったので10年も続けたんです。でも文章に関してはものすごく譲れないところがあって。カザマさんの場合たぶんそれが音楽で。
カザマ:ボクは逆かもしれないですね、文章はどうでもいいと思っていて。
姫乃:その脱力感が魅力なんです。売れたいか、売れたくないか──っていう本心はさておき、音楽に関しては譲れないという核はカザマさんにはあるじゃないですか、そこが面白いところで、そして本人は辛い。
原:なんだかんだあってもカザマさんは音楽だけは止めないわけですから。
カザマ:そうですね、うん。
原:音楽を止めない理由は、止められないというか、他にやることがない。
姫乃:結局、それがカッコいい。
原:今日のイベントのタイトル「それでも、それでもライブが続くなら〜全ての夢追い人に捧ぐ夜」ですから。
カザマ:そうでしたっけ?
原:えっ!?知らなかった? 今日のイベントの趣旨は、下北沢において今だにがんばっているアイドル、バンドマン、夢を追っている人たちに希望を与えるイベントにして欲しいんですよ。
カザマ:ああ、なるほど。
姫乃:えっ、そうなんですか、まだ何にも出てきてないですよ。
原:ビタ一文夢を与える話はない。
姫乃:そして夢を与えて欲しい人はたぶん見てないと思う(笑)。
カザマ:でも、これだけ姫乃さんも含めて、ヤル気はあるんですけど、ヤル気がないって言ってる人が本を出したり、700人も人を集めたりってメチャクチャ夢があるじゃないですか。
原:それはたしかにそうかもしれない。お二人は売れてないわけじゃないですけど、今まで下北沢を飛び出して売れていったアイドルやバンドについては共通する何かってあるんでしょうか?
カザマ:やっぱり売れてる人たちって音楽が悪い人はいないですね。楽曲とかのレベルが高い。売れてる人でダメな人はいない気がします、そこはまずしっかりとしないと売れない。
姫乃:身近な例っていうわけではないんですけど、REALSOUNDっていう音楽サイトの提供でPodcast番組をやってるんですけど、ゲストが毎回すごい豪華で、最初がtofubeatsさん、次が作曲家のTAKU INOUEさん、今はキリンジの堀込さん。
原:みんな売れてる。
姫乃:で、話して思ったのは、みんな喋り出しに、“いや”とか“でも”とか絶対に言わないんです。(場内爆笑)私がメチャクチャなことを言っても、“そうなんですよ、それで──”って、話をどんどん広げていく。
原:(カザマさんに)それですよ。
姫乃:毎回収録が終わると死にたくなるんです。
カザマ:じゃ今日は姫乃さん元気で。
姫乃:今日は、こう(カザマさんに)同じ感じなので。
原:ちょっと、その負のグルーヴを楽しむのは止めてください。今、聞きました? “いや”とか“でも”とか言わないって。
カザマ:ボク言ってます?
姫乃:どうだろう?
原:目が語ってるもん(笑)
姫乃:あははは。
原:なんかそこから根拠のない自信とかあるんじゃないですか。
姫乃:みんな柔軟なんです。
原:それは<学び>ですよね、
姫乃:毎回すごいなぁって。
カザマ:そういうときってどういう精神で臨むんですか?
姫乃:もう櫓ですよ、ガタガタガタって
カザマ:倒してやるって感じですか?
姫乃:いや、ぜんぜん。でもずうずうしくやっていこうと思ってます。
原:カザマさんは、対バンしてたバンドがメチャメチャ売れていったり、どんどん広い場所でやっている場合、悔しいって思うときってあります?
カザマ:あまりないんですよ。売れるべき人たちが売れていったということで。
原:いや、カザマさんも同じ土俵で戦ってるんだから(笑)。
カザマが<バンドにこだわる理由>
原:カザマさんがバンドにこだわる理由ってなんですか? ソロじゃないチームの魅力が何かあるのかなって。
カザマ:どうなんですかね……あるかな。
原:バシっと言ってやってください!
カザマ:ひとりじゃできないことがあるんで──、協調性のない奴らばっかりなんですけど、そういう音を作れるというのはすごく奇跡的なことだって思います。これってお金で雇ったサポートでは絶対できないことだと、日々スタジオに入っても嬉しいし、頑張んなきゃなって。
原:それは今、聞いててグッときました。
カザマ:真面目な話がたまにしかできなくてごめんなさい。
姫乃:曲を作るときは、作詞と作曲をやってからスタジオに入ってみんなに弾いてもらうって感じですか?
カザマ:そうですね。
姫乃:みんながそれぞれのパートを考えて作っていくんだ。
カザマ:無茶苦茶モメますよ。好きなジャンルもバラバラだし。
姫乃:でもそれをいいとこまで落とし込む。たしかにそれはバンドじゃないと難しいですよね。
原:ソロだと、それを評価してくれる人がいなくて、むき出しのままファンに出さないといけないし。
カザマ:そうですね。
原:今日、この後、カザマさんにはソロ・ライヴをやっていただける──ということなんですが、姫乃さんはカザマさんとこうやって話すのは初めてですよね。
姫乃:そうですね。本を読んでアッと思ったのが、<自分自身がすごく完璧主義で、親が放任>っていうのが、なんか分かるな……って感じで。あまり周りから強制されてないですよね。
カザマ:そうですね。
姫乃:カザマさんに対して、“もっとこうして売れてよ”っていう人いないじゃないですか。
カザマ:そうですね。こういうときにばっかり言われます。
原:完璧主義なんですか?
カザマ:全然。完璧主義ではないけど、自分を許せない──自分の理想に対していつまでたっても届かないのが許せないっていうのはあるなと。
姫乃:うんうん、それはすごくあるな──と思って。
原:姫乃さん的に、読んでグッときたポイントとかは?
姫乃:やっぱり対談で大森さんに怒られてる風になってる場面がよかったですね。あと、どうしても精神科医のドクター猛さんが気になる(笑)。自己紹介文で<自分は漁師だと確信>って書いてある。
原:無茶苦茶意味が分からない。
姫乃:いいですよね、漁師だと確信──って。確信したいですよね、“俺はバンドマンだ!” “私はアイドルだ” って。
カザマ:もう決めちゃえばいいんじゃないですか。だってそういうのは肩書きだけなので。“俺はバンドマンだ”って意思を持てば、その人はバンドマンだ──と思っているので。
姫乃:それ、いいですね。
カザマ:すいません、急にすごい真面目な話で。
原:それをずっと続けているわけですから、カザマさんも。
カザマ:そうっすね。
原:じゃ、カザマさん、そろそろテンション上げてくださいました?
カザマ:はい、大丈夫ですよ。
原:ではセッティングを変えてライヴの準備を。
──アコースティック・ギターでのミニ・ソロ・ライヴが行なわれる──
姫乃:配信っていいんですよね、現場で見るのとまた違って。今日もきっと届いてると思います。
原:改めて聴くとメチャクチャいい曲ですけど、カザマさん的には、いいって言われるのはどうなんですか?
カザマ:いや、ライヴの反省会止めましょう。ボク毎回そうなんですけど、ライヴが終わった後ってメンタルはダメなんです。この後みんなが死にたくなるような話しかできないし、買ってきたクスリを飲むしかない。
原:姫乃さんどうでした?
姫乃:本にボイトレ(ボイス・トレーニング)のことが書いてあるじゃないですか。歌っていうのは……。
カザマ:いや、一番解散する理由は、ボクが歌が下手ってことで、ホントに毎日……。
姫乃:そんなことないですよ。
原:曲がいいから。
カザマ:そしたら歌がよかったら、もっと売れるかもしれないじゃないですか。
原:なんで売れないのかって話したいんですよ。そもそも、曲がいいじゃないですか。歌を……じゃボイス・トレーニングをすればいいのかな…。
姫乃:いや、絶対違うでしょ。今から行っても良さを潰されて終わるだけ。オペラ歌手みたいになって帰ってきたらどうするんですか! 今歌った歌詞をテノールで聞かされたら重たいですよ。カザマさんの歌だからいいんじゃないですか。
原:カザマさんは、売れたいって気持ちはない、ないと言いながら、あるんでしょ?
姫乃:あります?
カザマ:う〜ん、どうなんですかねぇ。
原:早く第三弾でやって欲しいんですよ、「やっぱり売れたバンドマン」って本を出して、ここで……。
カザマ:なんでも初めてってみなさんは応援してくれるじゃないですか、初めてのワンマンとか。でも、この本って二冊目でしょ、それがすごく恐ろしくて。一冊目は彼女のおばあちゃんが勝手に買って読んでたんです、それで本に付箋とかしてあって。
姫乃:怖い怖い怖い
カザマ:それで、“あなたの友だちはドラッグをやってるの?って。でも二冊目は最初からプレゼントしようっておばあちゃん家に送ったらしいんですよ、そうしたら何も読まれてなかったって。
原:それはなんとリアクションしていいのか──。
カザマ、ライヴで“タカフミー!!”って呼ばれたい
原:姫乃さん、3markets[ ]が売れるにはこうしたらいい──っていうのがあればアドバイスお願いします。
姫乃:(笑)この質問をなんで30分に1回くらい挟んでくるんですか。でも、もう、明らかにカザマさんは一生音楽をやっていく人じゃないですか────(ポーっと聞いているカザマに)あれっ?
原:──本人が半信半疑みたいな感じで。
姫乃:えっ、あれ?
カザマ:隙あらば止めようかなと。
原:いや、絶対やっていくでしょう。
姫乃:やっぱりギターを持って歌うときのしっくりさ、しっくりしてたもん。 だから、<元気があって、波に乗っていて、売れ売れアッパー>な人には、寄り添えない人たちが確実にいて、(そういう)カザマさんの歌で元気になる人にずっと寄り添って行く人なんだろうな──と私は思ったので。だから<コール&レスポンス>とかすればいいんじゃないですか?
原:やってましたよね一回。本にも書いてませんでしたっけ?
姫乃:あれは(ファンとの)ジャンケンですよね。
カザマ:ジャンケンしました。あのとき、すごい感動しました、人は反応するんだと思って。やっぱり、めっちゃ申し訳なかったですけどね。バンドやってる人はみんなこういう気分を味わっているんだ──と。
原:で、そういうのを「ロック・イン・ジャパン」とかで。
カザマ:やろうと思ってて。コロナなので、“盛り上がってんじゃねーよ!!”とか。
姫乃:あはは。
原:もっと胸を張っていきましょうよ。
姫乃:どんな感じですか?
原:行くぞ! 東京!とかって。
姫乃:テノールで、“オレについて来いっ!!” とか。
カザマ:この間、配信ライヴだったので、“楽しんでますか?”っていうのを。
原:やったんんですか。
カザマ:バンドのベースに向けて、“お前楽しんでんのか”って。
原:こら、アカンわ。それは不特定多数の客に向けてやるんですよ。
カザマ:ボク苦手なんですよね、そうやって煽られるのって。
原:煽るのも、煽られるのも嫌いなんだ。
カザマ:嫌い。見ていたいだけなんで、お前の全力をただぶつけてこいよ!ってスタイル。そもそもお客さんってお金を払って来てるわけだから、ボクがお客で行っていたときは、“なぜ何かしなければならないんだ? なぜオレに求めるんだ? だったらオレに金を払えよ!”って。
姫乃:どういうこと?
カザマ:お客さんも声を出したら声が入ってくるんですよ、歌ってるわけじゃないですか。だったら向こうにも歌唱印税って入らなければいけないわけだし。
姫乃:あ、その発想はなかった(笑)。
原:むしろ金を払ってるから、歌わせるなら金をくれよってことでしょ、客は。それをこの人(カザマさん)は、お金を払ってるから向こうは好きに歌ってる場を提供しよう──と思ってる
姫乃:なるほど、なるほど。自分が歌っているときみんなが大人しく聞いてると、なんで私だけ歌っているのかな──って気持ちになるときはあります。あと、アイドル時代、お客さんは楽しそうだなぁ〜って思うときはありましたね。
原:カザマさんはライヴ中になんて声をかけてもらったらうれしいんですか?
カザマ:ボク、カザマっていうんですけど、基本的に“カザマさん”って呼ばれるんですよ、でもRADWIMPSの野田洋次郎さんは、“ヨージロー”って呼ばれてて、“野田さん”じゃないんです。ここにお客さんとオレの壁を感じる。最終的には“カザピー”とか呼ばれる人間になりたいです。
原:クリープハイプの尾崎さんも“ユースケ”って呼ばれてますね。
カザマ:メチャクチャ羨ましい。
姫乃:下の名前で。
原:カザマさんは、いまだにライヴ中は“カザマさん”で。
カザマ:そうなんですよね。
原:それがいつのまにか“タカフミ”に。
カザマ:“タカフミー”でも。そう呼ばれるようになったら自分も壁を壊していったんだなと。でも、何にしても硬いんだと。
原:「社会のゴミ」とか歌ってるくらいですから。
カザマ:そう、それがよくない。
原:“タカフミー”って呼ばれたらうれしいですか?
カザマ:メチャクチャうれしいです。
原:じゃぁ9月19日に延期になった渋谷CLUB QUATTROのライヴ。9・1・9。
カザマ:苦しい(9)・いつも(1)・苦しい(9)。(場内爆笑)
原:もう被害妄想にもほどがある。
姫乃:アイドルは自分で強制しますよ。“3markets[ ]の作曲担当カザマタカフミ。タカフミーって呼んでください、せーの”ってやりますよ。
カザマ:じゃあ、僕もやってみますね。
原:そのワンマンに向けて、どうですか? QUATTRO広いですからね。
カザマ:もう、決めて、目標立てて埋めるっていうスタイルで行こうと思ってます。密するぞ!って。
原:しかし普通にやれるのかな。
姫乃:やるよ! だってQUATTROだよ。やるやる。
カザマ:これはQUATTROとの戦いなので。
姫乃:え、あ、QUATTROとの。
原:今、そんな話してましたっけ?
姫乃:会場側とのリレーションもあるし。
カザマ:会場側かどっちを先に言うか。
姫乃:6割にしてくださいっていうのもあるから。
カザマ:だから、絶対負けねぇぞって。
姫乃:入れるぞ!って。
原:いや、でも9月に満員は無理でしょ。
カザマ:でも、そこは目標を持っていかないと。頑張ります。
原:じゃ、これを見てるファンの方も、姫乃さんも。ボクも行きます。密しましょう。今、熱いカザマさんが見れてよかったです。
カザマ:熱かったですか?
原:戦うって言ってました。で、自粛期間中に曲がたくさんできたっておっしゃってましたが。
カザマ:でも、いい曲が一切できてない。
原:ポジティヴな言葉はないんですか? さっきミニライヴでやった「さよならスーサイド」もメッチャよかったし。この本が出てから反応もたくさんあったわけでしょ。インスタの人たちがよくわからないゲームを送ってきて、“買いました” “買いましたよ”って。
原:それはいいじゃないですか。喜ばしいことですよ。カザマさんは今後野望とかってありますか?
カザマ:野望ですか? その対談した人たちと会ってお酒飲みたいなと、これは夢として。
原:尾崎世界観さんと大森靖子さん。
姫乃:ドクター猛。
原:精神科医。
姫乃:ドクター猛は音楽もやられてるので。
カザマ:“悩んでいて不安なんですよ”って言うと、“そんなの当たり前よ!”って終わる人ですから。そんなこと、教えて欲しくなかった──。
原:そんな精神科医いるんですね(笑)。その9月までにも3markets[ ]はライヴをやるということで。
カザマ:7月に「見放題」っていうオンライン・サーキットを。
原:では、そろそろ時間なので、カザマさん最後に言い残すことはありませんか?
カザマ:楽しかったです。
姫乃:よかったよ〜〜〜! よかった!
原:カザマさんは、それでも音楽を続けていくと。
カザマ:それはまだ分からないです。
姫乃:今、なんと(笑)。
原:なんなんだよこれは(笑)。ということで、イベント「それでも、それでもライブが続くなら」ここで御開きとしたいと思います。ご参加いただいた方、お足元の悪い中ありがとうございました。
姫乃:ありがとうございました。
カザマ:ありがとうございました。 (場内大拍手)
この後サイン会が行われた。
それでも売れないバンドマン 本当にもうダメかもしれない
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それでも売れないバンドマン 本当にもうダメかもしれない
四六判 / 264ページ / ¥ 1,500
著書を出版、ライブはソールドアウト、人気芸人と共演したし、地上波TVに出演もした──それでもまだ誰も俺のことを知らない!!
売れないバンドマン苦悶の記録第2弾、無謀にも前作より大幅増ページで発売!!
超歌手・大森靖子との対談が実現
人気漫画家、世紀末による書き下ろし4コマ漫画も掲載売れない、冴えない、情けない……インディーズで細々と活動するバンドマンが日々の苦悩を綴り話題を呼んだ『売れないバンドマン』(2017年刊)の第2弾、遂に発売!
4人組ロック・バンド、3markets[ ](スリーマーケッツ)のフロントマン、カザマタカフミ。バンドを始めて20年余り、熱心なファンベースに支えられてはいるものの未だ売れる気配はなし。そんな低空飛行の日常をまとめた前著『売れないバンドマン』は多くの反響を呼び、地上波TVやサーキット・イベントへの出演と活動の範囲をグッと広げるきっかけにもなった。
本書では、前著刊行以降に起こった出来事を中心に、「それでも売れない」バンドマンの心情を赤裸々に綴る。2020年5月にはバンド史上初の渋谷クアトロ単独公演も決定。今度こそ遂に本格的ブレイクなるか──??
「新しいステージ」への期待を込めた第2章。〈収録コンテンツ〉
◆カザマタカフミによる「その後の売れないバンドマン」
→2017年第1弾『売れないバンドマン』刊行以降の出来事を綴った70本以上のエッセイを収録。長年活動してきたからこそ書ける話は、悩み多き若者、社会生活に疲れた大人たちの心を捉えて離さないはず。
エッセイのタイトル一例→ワンマンするのも 、CDを出すのも不安/それでもバンドは続くのか?/バンドマンのツアー時の宿泊所、辛かったベスト3を発表/尾崎世界観の世界観/息子が売れないバンドマンだと知った母親の反応/対バンの女子高生バンドの先生が自分の同級生だった/メイプル超合金さんとお仕事させてもらった/「今後の人生について考える会」in青木ヶ原樹海/なんで音楽やってるの?売れないバンドマンたちの本音/バンドマンなんてだいたいクズ/最近、やけに恋愛の曲書くバンド多くない?/来年フェスに出れなかったらやめると彼女に話したら◆大森靖子との巻頭対談
→カザマ憧れのアーティストでもある「超歌手」大森靖子との対談が実現!◆人気漫画家、世紀末によるオリジナル4コマ漫画
→3markets[ ]の大ファンであることを公言し、『殺さない彼と死なない彼女』が映画化された人気漫画家、世紀末が表紙はもちろん、この単行本のためだけに書き下ろしたオリジナル漫画を掲載。◆精神科医・高橋猛氏による公開カウンセリング
→メンタルの弱いカザマが「不安の正体」「自意識について」など、自身の表現の根幹に関わることを精神分析のプロに訊く。【CONTENTS】
第1章 2017年10月〜2017年12月
今年こそ、今年こそはと思ってきた第2章 2018年1月〜2018年4月
とっくに限界なんて超えている第3章 2018年6月〜2018年12月
俺の夢って何だったっけ?第4章 2018年12月〜2019年9月
社会のゴミ、カザマタカフミ第5章 2019年9月〜2020年2月
ラスボスはいつだって自分の中にいる〈特別対談〉
大森靖子〈特別企画〉
精神科医が「売れないバンドマン」を公開カウンセリング
いきなりメンバー・アンケート