「KISS来日大全」発刊記念として、2月8日広瀬和生BURRN!編集長と音楽評論家 増田勇一氏のトークイベントが開催された。

大全=決定版だから、インパクトのあるカッコいい表紙にしたかった!

広瀬和生(以下広瀬):BURRN!の広瀬和生です、よろしくお願いします。(場内大拍手) 今日は「KISS来日大全」発刊記念ということで増田さんをお呼びしているわけですが、そもそもこのムックを作ろうとなったのは、<最後の来日>だからというよりも、これまでのKISS来日の全てを網羅した本があった方がいい──という意見が編集部の熱烈なKISSファンから起き、さらに以前KISS特集でがっちり組ませていただいた<キッス・ファンクラブ・ジャパン>の今井さんからも、“BURRN!では「徹底的なKISS特集」をやりますよね“って熱いメールをいただき、そうなると、これは増田さんに今回の来日公演を全て観てもらってこのチームでムックを作ろう!──ということで企画が走り出したんです。後はギリギリまで作業が続き、発売日にちゃんと本は出るんだろうか?(笑) という中で、ようやくできた本です。それでは増田勇一さんに来ていただきます。増田さんお願いします。(場内大拍手)

増田勇一(以下増田):原稿が遅い!とかって悪口言ってませんでした?(笑)この本の前に「炎」の復刊というのがありまして、そこでのクイーンの原稿が終わり次第この「KISS〜」に取り掛かるということだったのですが、重なってKISS来日タイミングとなってしまい。さらに、今回のKISS来日公演の全てのレポートの文字数はなりゆきで──ということで。

広瀬:そうなんです、とにかくたくさん書いて欲しかったから。

増田:上限は設けないからたくさん書いてくれと言われて、そうなると着地点が見えずに延々と書き続けてしまいました。

広瀬:本を作るときは、○○ページから△△ページまではこの内容で、□□ページからは…という「台割り」をあらかじめ作ってから作業を始めるんですけど、この本は印刷会社に文字・写真データを入稿する最終段階で初めて「台割り」が完成したようなものでした。

増田:僕の原稿の長さによって必要な写真の点数も変わってくるし、だからラストは一気に。

 

『END OF THE ROAD』について

広瀬:話は遡りますが、そもそも最初に今回の「KISS最後のツアー」という発表があったときに増田さんはどう感じました?

増田: KISSの場合は一度「フェアウェル・ツアー」をやっていただけに、いろんな言われようをされてきたじゃないですか。今回も終焉を匂わせておいてあとで撤回するんじゃないか、とか。でも、そういうような疑念は僕にはなかったんです。ただ、公式発表前に、KISSが『END OF THE ROAD』という言葉を商標登録した──というような話がこぼれてきて、そうやって登録したということは、要するにそれは<誰にも使われたくない言葉>ということなのだろうから、本当に“END”なツアーをやるんだろうなな、という覚悟はあらかじめできてました。

広瀬:ま、ROADはENDでも…。

増田:そう、そこなんですよ。

広瀬:そういうことは考えられますよね。JUDAS PRIESTにしてもSCORPIONSにしても、一度は“もうツアーはしない”と言ったもののライヴはしてますしね。だから例えば“今までのようなワールド・ツアーはやらないけど、フェスには出る”とか。

増田:週末だけのライヴ、単発だけのライヴはアリとか。だからROADは終わるけど、ライヴが終わるわけじゃない──という解釈ができないわけじゃない。実際、これはKISSそのものの終わりじゃない、とは僕も思ってます。インタビューでジーン・シモンズに “ROADじゃない(KISSの)続き方はあるのか?”というストレートな聞き方はしなかったですけど、3年前の「KISS EXPO」くらいからジーン・シモンズは“70歳で引退する”ということを言い始めていたし、“ポール・スタンレーとジーン・シモンズがいなくてもKISSの存続はありうる”とか自分たちのいないKISSも可能性はあるというようなことを公言し始めていて、それくらい可能性の幅は持たせてるんだろうな──と。だから12月の来日のときのインタビューの中では、“これが本当の終わりなのか、と言われていますが?”という聞き方をしたところ、逆にそこでラスヴェガスとかブロードウェイといった言葉が出てきて。だから「KISSの存続=この四人がいる」ということではないと僕は解釈したんですけど。

広瀬:ジーンがいつも言ってますけど、KISSは普通のバンドじゃない、あんな重装備してるわけですからね、着てるものからして。よく言われることですけど、戦国時代の武将があんな重い甲冑や鎧を身に付けてよく戦えたな──というのと同じじゃないですか。70歳にもなってそんな重い衣装を付けて、あんな高い所に上がって。

増田:かなり前のインタビューでも、あのブーツだけでも危険で、よろけてステージから落ちたら命取りになりかねない──って言ってますし。あの年齢でしかもあの重い衣装を着てやっていると思うと。

広瀬:ジーンはそういう年齢のこととか言いますけど、ポールは?

増田:言わないですね。少し年下というのもありますけど。

広瀬:ポールの声の部分でみなさん感じているところもあるんじゃないですか?

増田:日本に来る前のオーストラリア、ニュージーランド公演がポールの喉の具合でキャンセルになって、話すことも止められてた──という状態だったと。それで来日初日仙台公演の第一声、“センダイ‼︎”は枯れてましたね、歌い始めると結構声は伸びるのに。だからMCは少し聞き取りにくかったですけど、歌自体は前回の来日時よりも良かったような気がしました、持ち直してる感じで、ここまで復調できたのは凄いなって。

広瀬:ともかく元気いっぱいでやって来てくれて、その初日の前が取材でしたね。

増田:いわゆる“即出し”が可能な媒体限定で、トミー(・セイヤー)とジーンが取材対応しましたね。ジーンはインタビュー中ずっとブラック・ペッパーのポテトチップスを食べ続けていて、一袋開けてました(笑)。

広瀬:今回はジーンが対応しているのが多かったんですか?

増田:ポールは喉のことがあるので、負担をかけさせたくなかったんでしょうね。そういう時に頼りになるのがジーン、という部分はありますよね

 

セットリストについて

広瀬:「KISS来日大全」にはこれまでの公演のセットリストを総て掲載しているんですが、今回のツアーはセットリストの決め方も含めて増田さんはどんな風に捉えてますか?

増田:セットリスト会議って一度覗いてみたいですよね。正直、今回の来日公演も全公演セットリストを載せる価値はあるのかな?って思っちゃうくらいのところがあったじゃないですか。でも途中「Do You Love Me」と「Crazy Crazy Nights」が入れ替わったり、想定外のゲストの登場で構成が変わったりしたので掲載して良かった、毎公演のセットリストを載せる価値があるなと思いました。これは毎回言われることなんですけど、例えば80年代当時、『ASYLUM TOUR』の取材でアメリカに行ったときでも、“『ASYLUM』のツアーなのに、肝心の新作からは3〜4曲しかやっていませんね?”って質問をすると、“我々には演らなければならない曲が多すぎるからだ、君たちがそういう曲を聴きたがってるんだろう”となるわけです。こうなると、“ええ、そうですね”としかいいようがない。これはもう80年代からずっと続いてることで。個人的には5本くらい続くコンサートがあるなら、その中でタイプA、B、Cの3パターンくらいあって欲しいなと思うんですけどね。近年のコンサートではジーンとポールの歌う曲が交互にというパターンがいっそう確定的になっていて、どうしてもオープニング曲、アンコール曲、見せ場が伴う曲という配置が決まってきて、その間に何を置くかという組み方になってしまう。その何曲かだけでも臨機応変な選曲が仕掛けられてるともう少し面白くなるのになぁとは思うんですけど。

広瀬:KISSの場合、セットリストは演出と不可分だから変えにくいというのはあると思うんですけど、例えばIRON MAIDENだと<何年から何年までのアルバムのツアー>をやったりするじゃないですか。

増田:ある意味、それは賢いですよね。

広瀬:でも、あれはKISSには似合わない……?

増田:どうなんだろう? たとえばそれをやって、70年代の曲はすべて除外とかいうことになると、コンサートの作り方が難しくなってくるかもしれないですね。

広瀬:KISSは本当にプロフェッショナルなので……プロフェッショナルとはどういうことかというと、<一生の内でこのライヴしか見られない人は必ずいるだろう、だからレアなものを喜ぶ人のためにやるのではなく、常にベストなものを提供する>という意識が強いんだという。

増田:そこですよね。結果、<同じセットリストだからといって不満の声は出てこない>ものをやるという自信があるからこそできることだと思うんです。

広瀬:そうですね、で、今回全公演を観た、増田勇一的な総括はいかがですか?

増田:本を読んでください(笑)。でも、毎回ほぼ同じ内容のものだから今日も具体的な変更はないんだろうな、と思って観に行っても、最初から最後まで楽しめるのがKISSのショウなので。そんななか、これが最後なんだなって実感したのは、ポールの口から“サヨナラ”という言葉が出たときですね。あれが出るまでは、僕自身もこれが「END OF THE ROAD」というツアーだってことをほとんど忘れて観てました。

広瀬:“サヨナラ”って言われちゃうとね。で、この「END OF THE ROAD」というツアーの終着点が見えたんですよね。

増田:来年の7月。

広瀬:会場はやっぱりあそこですかね?

増田:あそこなんですかね? いや、知らないですよ

広瀬:行くでしょ?

増田:行けるんでしょうかね。2021年7月17日でしたっけ? 場所はニューヨークだって言われてますけど。この人たちのことだから、縁も所縁もない会場でやるはずはない。ただ、逆に過去最大級のところでやりたいのかもしれない。どっちなのかって話ですよね。マジソン・スクエア・ガーデンで何日間かやろうとしてるのかな──とは想像してるんですけど。

広瀬:海外で観るKISSと国内で観るKISSとは違いますか? もちろんセットリストとか違いはありますけど。その空気感とか違いを感じるところはあります?

増田:今回も欧米と基本的には同じセットを持ってきてますけど、若干、モノの数が少なかったりとか、日本の会場の都合で吊り下げられないとか、使える火薬の量とか違いはありますけど、パッと見の感じの差はないですよね。むしろお客さんに違いがあるかも。欧米のオーディエンスのほうが、なんか浮かれてますね。僕は取材とかで行くと一人の場合が多いんですけど、だいたい周りはデカイおじさんたちだらけで、 “一人なのか?”とか聞いてくるんです。“ああ、そうですよ”とか言ってると、知らないうちに僕の分もビールを買って来てくれたりして(笑)。そういう楽しもうぜ!感はすごくありますね。

広瀬KISSだったらそうだろうなって思わせますよね、やる方も楽しませるプロフェッショナルだし。

増田:お客さんも楽しむ気満々で。KISSに限ったことじゃないんですけど、大きいライヴの日って一日がお祭りなんですね。

広瀬:ハレの日。

増田:そう、ハレの日ですね。昼間から会場の駐車場でバーベキューやりながら盛り上がったり。まあ、同じことを日本でやるのには無理があるけども、日本は日本ならではの盛り上がり方、というのがありますよね。

 

なぜ「KISS来日大全」の表紙はポール一人なのか?

広瀬:そろそろ時間もきましたので、せっかくですから質問を受けようと思うんですけど。何か質問のある方?

Q:今回の本(「KISS来日大全」)で、表紙はポール一人の写真なんですけど、どうしてですか?

増田:たしかに、ページを開いても最初はポールだし、ポールの印象が強いですよね。

広瀬:カッコ良かったから、それしかないです。カッコ良い表紙にしたかった、表紙を見て“買いたいな”と思って欲しかったから。この表紙がイヤだって人はいない──と僕は思ってるんです。

Q:他に候補はなかったんですか?

広瀬:なかったです。これを見たらこの写真だなと、表紙は。これ表紙でしょ!!

増田:スゲッ! 反論を挟む余地がない(笑)

広瀬:これが表紙で何がいけないの? くらいな感じ(笑)。

増田:僕も表紙がどうなるか知らなかったので、写真を見たときに、“あ、そうなんだ“と思ったんですよ。まず、これは今回の「END OF THE ROAD」というツアーだけの本じゃないわけで。もしそうなら今の四人が写ってる写真であるべきですけどね。でも「来日大全」となったときに、たとえばポールとジーンのツー・ショットの滅茶苦茶カッコいいライヴ写真とかがあれば、それがいちばん理想的だったかもしれない。

広瀬:でね、写真を選んでいくと、そういうのはないんです。有りそうで実はあんまりないのが、例えばジミー・ペイジとロバート・プラントの絡みだったり、スティーヴン・タイラーとジョー・ペリーのカッコいい絡み写真なんですよ。

増田:絡んでるやつって大概、顔が半分見えないし。

広瀬:だからもちろんポールとジーンのツー・ショットがあったら…という議論はあったんですよ、でもこの写真を見たら直感で表紙だと。

増田:ぶっちゃけちゃうと、通常の来日公演ってコンサートのアタマの3曲しか撮れないんですよ。アタマ3曲だと、メンバーが降りてきて、散らばっていて──というところまでしか撮れない状況で。その中でカメラマンは引いて撮ったり、寄って撮ったり工夫をするんですけど、撮影場所もステージから遠かったりするんです。でも、今回はツアーに同行していたオフィシャルのカメラマン、ロス・ハルフィンが全公演、全曲どの位置からでも撮影可能だったので。

広瀬:こちらが希望するカットを彼から買うことができたので、ポールの空中移動も、エリックがピアノを弾いてるのも、ジーンが火を吹いたり血を吐いたりしてるのも掲載することができたんです。

増田:彼のようなオフィシャル・カメラマンが同行していたのはラッキーだったし、僕自身もロスとは付き合いが古かったので話をしやすかったのは良かったですね。

広瀬:僕も今回、ロスと会えたし。(場内に向かって)いい質問ありがとうございました。さっき、キッパリ言いましたけれど、表紙は結構悩んだんです(笑)。でもこのデザインが上がった段階で、もうこれしかない!って思いました。

増田:KISSのロゴとか、「来日大全」という文字の大きさから考えるとやっぱり一人の方がいいですよね。

広瀬:やっぱり、大全=決定版なのでインパクトのない表紙にはしたくなかったし、いろんな別冊とか特集号だとか出てる中で見た感じを変えたいというのはありましたね。

増田:今回、こうして「KISS来日大全」が無事に出たので流れには一応区切りつきましたけど、今後もKISSに誌面割いてくださいね、編集長。

広瀬:もちろんです! 今までBURRN!で何度も書いてますけど、僕が増田さんに感謝をしてるのは、<メタル専門誌のBURRN!でKISSとAEROSMITHをやる>という路線を作ってくれたことですからね。

増田:今後のBURRN!の誌面、ご期待ください。

広瀬:今日はありがとうございました。(場内大拍手)

このあとサイン会が行われた。

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