『Queen I』のドラムサウンドを徹底研究 音の一つ一つの響き方が全然違います──ロジャー M.T.
11月4日、ロジャー・テイラーをお師匠と呼び、そのドラミング研究に人生をかけるロジャー M.T.によるドラム実演イベント「徹底的にロジャー・テイラー」秋のアンコール公演が、二子玉川GEMINI THEATERにて行われた。
第一部
ロジャー M.T.のドラム・ソロからスタート、司会のクイーン・コンシェルジュ吉田との掛け合いでトークは進行。
ロジャー M.T.(以下ロジャー):みなさん『Queen I』聴きました?(通常盤はもちろんBOX購入者も多数いることが判明)、BOXにはリハーサル音源も入っています。あの音を録音していた頃はみんな20代前半ですよ、それが夜な夜な(通称ドラキュラ・タイム:深夜2時〜早朝7時までしか使わせてもらえなかった)スタジオに集まって録音を繰り返していた──頑張りましたね〜。
吉田: “大難産アルバム”と名付けたいくらいの作品。一番最初のデモテープをディ・レーン・リー・スタジオで録ってから丸々2年くらいかかっていて、もやもやしていた時期がすごく長い。今回の2024mixではかなり音が変わりましたね。
ロジャー:むちゃくちゃ変わりました、最初聴いた時は、やり過ぎじゃない?って思ったんですけど、何度も聴いていくと、音はドカンと変わっていて個人的感想としては、QAL(クイーン+アダム・ランバート)の音なんです。ドラムの響き方がDW(著名なカスタムドラム・メーカー)の音に聴こえる。
このドラムの音の違いが今回の『Queen I』のポイント。録音でメインに使用されたのはトライデント・スタジオ。ここではデヴィッド・ボウイの名盤『ジギー・スターダスト』、ビートルズの「ヘイ・ジュード」やT.レックス「ゲット・イット・オン」など最先端のアーティストがそのサウンドを気に入りこぞって利用していた。当時としては珍しくドラム・セットを常設してあり、しかもそれは最新鋭のアクリル製のfibesのドラムだった。
ここから当時の音と今回のミックスがどう変わったかロジャー M.T.の検証が始まる。まずは「ライアー」のイントロで『Queen』と『Queen I』で聴き比べが行われた。
ロジャー:音の一つ一つの響き方が違います、ペラペラの音で<ドン/ドン/ドン>だったのが<ドォウ〜ン/ドォウ〜ン/ドォウ〜ン>と分厚く響きを増した。これは録り直せば簡単なんですけど、元の音を調整してここまでやるのはすごく大変だったと思います。これをやったのがロジャーお師匠の助手ジョシュア・J・マクレーで、プロデューサーのジャスティン・シャーリー・スミスと共にこのドラムサウンドを作り上げました。お師匠も『Queen』の音に関しては“ドラムサウンドは悲惨だ”と文句ではなく事実として言ってました。「ザ・ナイト・カムズ・ダウン」はディ・レーン・リー録音なので、それ以外の曲は多分このアクリルのfibes製のドラムです。
(ここで実際にアクリル製と木製のタムを叩き、音の聴き比べが行われた)
ロジャー:サスティーン、音の伸びが全然違います。元々お師匠が念頭に描いていたサウンドはラウドで迫力のある響きを持ったレッド・ツェッペリンのドラマー、ジョン・ボーナムの音です。ブライアン・メイとお師匠が今回の『Queen I』のミックスで目指したのはアンビエント〜空間の響き。
吉田:ただボーナムの音そのままではヘヴィに鳴り過ぎてしまいクイーンのアンサンブルには合わないという判断で『Queen』の音になったと。他にもサウンドメイクに関してはいくつか要素があるということですが。
ロジャー:ドラムスティックですね。お師匠が初期に使っていたのがジンジャー・ベイカー(クリームのドラマー)・モデル。
吉田:ブライアン・メイによる最初のメンバー募集告知にも<〜的なドラマー求む>として、ミッチ・ミッチェル(ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス)、キース・ムーン(ザ・フー)と並んでジンジャー・ベイカーの名前が挙がってますね。
ロジャー:その3人に共通しているのは手数が多いドラミング。ジンジャー・ベイカー・モデルは細くて軽いんです。最近お師匠が使っているのは太くて重いスティックで、バスン!という重い良い音が楽に出る。
吉田:デビュー当時のロジャーのスピード感には細くて軽いスティックが最適だったと推測されます。ではアルバム収録曲それぞれがどうなったかを聴いていきたいと思います。
ロジャー:お師匠はカウベルもよく使うのですが、「ライアー」の後半のお祭り的な部分が『Queen I』ではどうなったか聴いてみると、ボンゴの音が入ってるんです。『Queen』では無茶苦茶薄っすらと入っていた音が大きくなっている。ま、なぜボンゴを入れたのかは僕にはわかりません(笑)。反対に「マッド・ザ・スワイン」では入っていたボンゴの音を消してます。でも最後のサビのギター部分でまたボンゴが入っていて、軽快感は出るけど可愛くなる。でもラテン・パーカッションが大好きな人だからいっぱい色んな色をつけたかったんじゃないかな。
吉田:そういう風に『Queen I』は単にドラムの音を大きくしたり音を加えたりだけじゃなくて、音を抜いたりもしています。作ったアーティストの意見を最優先してミックスされているのが感動的ですね。
ロジャー:一曲一曲全部ミックスし直したんですから。
吉田:『Queen I』この一曲!と言えば「炎のロックンロール(KEEP YOURSELF ALIVE)ですが、ロジャーさんからみてこの曲のドラムはいかがですか?
ロジャー:上手い(笑)、二十歳そこそこからレコーディングを始めて2年も3年もかかったから、テイク毎にドラムソロが全然違うんです。色んな試行錯誤があって最終的な『Queen』の形になるんですけど、最初のドラムソロは<ドコドコドコドコ>だけで、そのうちボンゴを重ねたりカウベルを入れたりするんだけど、やっぱりまだ<ドコドコドコドコ>なんですよ。それがだんだん時を経るとその中で生み出された<パラディドル>という技を細かく入れるようになってくるんです。そうやって「炎のロックンロール」はドラムソロ付きで81年11月24日のモントリオール公演まで演奏してますから、毎回やっていることが全部違う。
吉田:記録としては、今回のBOX SETに入っている72年ディ・レーン・リーで録ったヴァージョンが残っている音源では一番古いんですか?
ロジャー:そうですね、本当にごく初期のヴァージョン。最初は平坦ですが、ここから回数を重ねると細かい手順が変わったり、前と後ろにアクセントをつけたり、そこに低い音を加えたりということを少しずつ練習してやってるんですね。最終形になる手前トライデントで録ったけれど使われなかったマスターでは、色んな音がごちゃごちゃ入っていてこれは使われないだろうな──という音(笑)。
吉田:そのドラムソロの後ろでフレディが何か叫んでいて、森の中で踊り狂ってる感じ(笑)。そして、最終的な『Queen』収録ヴァージョンができてくる。
ロジャー:タムは3個しかないのにカッコいいドラミングで、カウベルも入り小技も効いてだんだん美味しくなってきました。それが、叩いている音数やアクセントは変わらないのに、今回の『Queen I』ではどうなったか。僕は一つ発見をしました。以前はきちんと聴こえてなかったのでコピーしていなかった低音が一発入っていて、それが悔しかった(笑)。ドラムソロに関してお師匠は長いのはやらないんです、常々“ドラムソロの最中にビールとか買いに行かれるとヘコむ”って仰ってる(笑)。
吉田:コンパクトだけど中身の濃いドラムソロ。ではロジャーさんが一番オススメの「炎のロックンロール」のドラムソロのヴァージョンは?
ロジャー:アルバム『ライヴ・キラーズ』のソロはカウベルも入るしドコドコ叩くし、右手左手の手順に加えてロートタムを拍の頭と裏に出す──という痺れるプレイ。僕がソロをやる時はそのヴァージョンが好きなのでそればかりやるんですけど(笑)。
吉田:密度もすごいけど勢いとテクニックの完全な融合ですね。さて、「炎のロックンロール」一曲だけとってもこれだけ細かいネタが入っていて、かつオリジナルと比較した『Queen I』のサウンドの違いなども聴いていただきました。第一部の最後はロジャーM.T.のソロで締めたいと思います。
ロジャー:では「炎のロックンロール」のドラムソロを初期の年代のプレイを混ぜた形で。
🎶 ロジャー M.T. 「炎のロックンロール」ドラムソロ
(場内大拍手)
第二部
ロジャー M.T.と吉田が語る『Queen I』からスタート。まずは『Queen I』に関係する重要人物の解説から。
◎ジョン・アンソニー(プロデューサー):『Queen』二人プロデューサーの一人で、クイーンの前身バンド、SMILEのプロデューサーでもあった。彼のつながりでトライデント・スタジオでのレコーディングとなった。他にROXY MUSICのセカンド・アルバムやVan der Graaf Generatorをプロデュース。
◎ジョン・ハリス( ローディ):クイーンのローディとして、楽器、PA他メンバーのすべてをサポートをする仕事にものすごく誇りを持っている人。彼の愛車トライアンフに対しロジャー・テイラーは「I’m in Love with My Car」を捧げている。『Queen I』BOX SET6枚目のCD収録の<現存するクイーン最古の音源(1970年8月23日のライヴ)2曲>は彼が保管していたもの。
◎クイーンの4人のベーシスト
初代:マイク・グロース1970年6月〜7月の3回のショウで演奏。2019年没。
2代:バリー・ミッチェル 1970年8月〜11回のライヴで演奏。上記音源は彼がプレイした可能性が高い。
3代:ダグ・ボギー 1971年2月19日20日のライヴ(YESの前座)で演奏。
4代:ジョン・ディーコン 1971年3月1日正式加入 クイーン結成の日。同年7月に初ライヴ、その後ディ・レーン・リー・スタジオでの録音に参加。ミュージック・ライフ誌初のジョン・デイーコン取材は1974年5月ニューヨークでMOTT THE HOOPLEのフロントアクトとしてのツアー中。
ここから「リズムセクション・セミナー」が開始。
ドラムス:ロャー M.T. (QUEER)
ベース:ジョージ“イトー“ディーコン(QUEER)
キーボード:スパイク横田(QUEER)
による
クイーン・メドレー演奏が行われた
🎶 Bohemian Rhapsody 〜 Radio GaGa 〜 Back Chat 〜 Another one bites the dust 〜 Under Pressure 〜 Somebody to love
◎クイーン楽曲演奏におけるベースの役割とは?
ジョージ“イトー“ディーコン(以下ジョージ):ベースはドラムと共にリズムと、弦楽器でもあるのでメロディの低音部も担当しています。ところがクイーンはドラムもギターもヴォーカルもピアノも上から下までそれぞれが幅広く音を担っているので、ベースはその上から下まで絡まり合う音をあやとりのようにして、良い感じのところに入り込む──というロックバンドのベース・アレンジとしては特殊な役割があります。
吉田:何か楽曲をモデルとして解説してもらえますか?
ジョージ:「ボヘミアン・ラプソディ」はベースが低音を担いながらもピアノに、優しいタッチで絡んでいきます、ピアノではできない音の連続(スライド、グリス)で音に色気を出してフレディの表現をさらに豊かにします。ジョンが「ボヘミアン〜」が始まるとピアノの側に行くのは、プレイする指のタッチを横目で見てそれに合わせているから。
🎶「ボヘミアン・ラプソディ」(バラード部分を実奏)
ジョージ:そして優しい音を出すためにこのベース(フェンダー・プレシジョン)には、スライド/グリスが綺麗に出る表面が平らなフラットワウンドの弦を張っています(ロックバンドの主流はラウンドワウンドという巻き弦)。
🎶「バイシクル・レース」
ジョージ:ここでもフレット間を移動するグリスを多用してます。個人的に変わってるなと思うのは普通小節の頭にドラムのバスドラと一緒にリズムを合わせるんですけど、それをジョン・ディーコンは無視して休むんです、怖いですよこれは。彼も、流石にライヴでは休んでません(笑)。
吉田:『Queen I』はいかがでした?
ジョージ:いっぱい聴いてきました。音がクリアになってベースの音も良く聴こえるようになりました。今日はもう一本(リッケンバッカー・ベース 4003)を持ってきました。低音と高音が強調されて中音域が少し低くてバリバリなサウンドです。今回2024 mix版から「炎のロックンロール」のベース音を抜き出してきました。よく聴くと音を強調したい所(イントロ・パート、二番に入るパート、後半ギターとユニゾンで演奏するパート)にリッケンバッカーをかぶせて弾いているのが分かります。
🎶「炎のロックンロール」(ベース・パートのみ)
ジョージ:『Queen I』で音が変わっているところを発見したので、これも音を抜き出して持ってきました。「ライアー」のイントロ部分でカウベルに続いて流れるハンドクラップ。
🎶「ライアー」(ハンドクラップ)
ジョージ:音も違うし音程も違う。これはなぜ変えたのか? 多分元々両方とも録音してたんだろうな──と思ってます。
ロジャー:『Queen』はどちらかというとブライアン色が強いギターの強いアルバム。そこで今日はギタリストを連れてきました。我々QUEERの初代ギタリストであるブライアン・M・サトーさんをお呼びしたいと思います。
ジョージ:では、ハード・ロック色も強い『Queen』から、ジミー・ペイジに影響を受けて重いリフから展開していく「サン・アンド・ドーター」を。
🎶「サン・アンド・ドーター」
吉田:ありがとうございました! もっと聴きたいところですが時間が…。
ロジャー:じゃあ、やっぱり1曲目を!
🎶「炎のロックンロール」
(場内大拍手)
ロジャー:今日は私のお師匠ロジャー・テイラーのためにお集まりいただきありがとうございます。じゃあもうちょっとだけ、これがラストです。さっき1曲目をやったので、アルバムラストの曲やりましょう。
🎶「輝ける7つの海〜ウィ・ウィル・ロック・ユー」
(場内大拍手)
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