「売れないバンドマン」発売記念トーク&ライヴ・ショーが、1月27日著者のカザマタカフミを迎え、下北沢ヴィレッジヴァンガードにて開催された。
当日はまずカザマタカフミのソロ・ライヴが行なわれ、引き続きトーク・イベントが開催された。司会進行は同書編集の美馬さんが担当。

自分の出した『売れないバンドマン』を読んで、
「だから売れないんだよ、当たり前じゃん」って思いました

── 今のライヴ、みんな真剣に聴いてましたね。泣きそうな人もいましたよ。

カザマ:俺が泣きそうですよ。

── 一仕事を終えてホッとする間もなく『売れないバンドマン』発売記念トーク・ショーということで、本にまつわることをいろいろと聞いていこうと思います。この本はカザマ君のブログの「風間観察日記」をまとめたものなんですけど、自分で完成した本を読んでどう思いましたか?

カザマ:「だから売れないんだよ、当たり前じゃん」って思いました(場内笑)。

── 「風間観察日記」は2004年からやっていますけど、そもそもブログを始めようと思ったきっかけは?

カザマ:みんなやってたから(笑)。当時「魔法のiらんど」っていう携帯用のサイトがあって、それで僕も始めて、それでいつの間にか、やめるきっかけを失いましたね。

── それが一冊の本になるって話を聞いたとき、率直にどう思いましたか?

カザマ:ウソでしょ?って思いました。大人って僕らからお金を取るものだとしか思えなくて。今までいっぱい搾取されてきたので。だから最初は誰かが俺を騙そうとしてる──と思ってました。

── でも、カザマくんから取るものないよね(笑)。

カザマ:ない所から取るんスよ、ホントに。でも今回はありがたいなと。

── 漫画家の世紀末さんが本の表紙を描いてくださって。世紀末さんはカザマ君の大ファンなんですよね。

カザマ:大ではないかもしれないっす。小ファンくらいで。

── 大ファンって言ってたよ(笑)。これ、カザマ君の似顔絵なんですよね。私はこの本の編集者として、この本は売れないバンドマンだけじゃなくて、色んな“道半ば”の人に通じる、心を打つものがあるなと思うんですが、著者としては読む人にどういうメッセージを伝えたかったんですか?

カザマ:一番伝えたかったのは、続けてたらこういうことがあるんだな──ということで、何もしないよりは何かをした方がいいんだな、どんな意味がなさそうなことでも。動かないと結局何も起きない──と思ったので、みんなとりあえずTwitterは毎日更新した方がいい(笑)。

── そういう本人があまりやってないですけど(笑)。で、巻頭には昔よく対バンをやっていたクリープハイプの尾崎世界観さんが……。

カザマ:今日、クリープハイプの尾崎世界観さんが……!

── 来てるわけないじゃん(笑)。来てはいないんですけど、彼は盟友と言ってもいいのかな、お互いビッグになろうぜ!とか話したりしたんですか?

カザマ:全然。当時はAKBの話をしてた。

── (笑)かつて対バンをやってた人と久しぶりに会って、対談をしたわけですが、どうでしたか?

カザマ:そうですね、寝ぐせがスゴいなと思って。

── (笑)それ以外にも何かあるでしょ。

カザマ:ほんとに変わってないなと。生意気だし、フラットな感じなんですよ、上からとか下からとかじゃなくて。だから話しやすいなって。

── そうですね、会ってすぐにすんなり会話が始まりましたしね。

カザマ:遅刻しておいて(笑)。

── 昨日今日会ってたような雰囲気で話してたのが印象的でした。他にも芸人さんと対談したり、トップ・プロデューサーの浅田信一さんにスリマ(3markets[ ])の音を聴いてもらって御意見をうかがったりしましたけど、どうでした?

カザマ:浅田さんはスリマのこと嫌いなのかな……ってずっと思ってた。

── いやいや、そんなことない。とてもいいアドバイスをくれたじゃないですか。

カザマ:えらい人って優しいなって思いましたね。上の人って、常に俺らから何かを取ろうとしてるって思ってるんですけど、誰も何も取らずに──。上の人ほど優しいんだなって。ちゃんとした会社の人って優しいんですよ、怪しい事務所はヤバイんです。

── 何があったんでしょう、いったい(笑)。浅田さんはクリープハイプもプロデュースしたことがあって、そんな方から“いいバンドだね”って言ってもらったじゃないですか。覚えてないの?

カザマ:覚えてますよ(笑)。

売れる兆し?友だちが減った…

── 『売れないバンドマン』というタイトルではありますが、この本を出したことで、売れる兆しは感じましたか?

カザマ:一番感じるのは、友だちが減ったなってこと。バンドって、俺の中のイメージで“中間層”ってあるんですけど、はじめは売れてないバンドマン同士って仲いいんですよ、そこから少しずつ“こいつら売れて行こうとしてる”って空気が出てくる。でも上の人たちからは相手にされないんですよ。それなのに下の人たちからは“こいつら対バン誘っても出ないな”って空気を出されて、誰からも相手にされない。その中間層に入った。ほんとにヤバいなって感じです、友だちはどんどん減っていくし。

── ……なんかいい話ないの? こういう所で披露できるような。

カザマ:いい話ですか? あるのかな。

── (場内に)みんな、多少気分よく帰りたいですもんね。

カザマ:反響もね……このあいだのワンマン・ライヴもそうだし、今日のこのイベントも、最初お客さん5人くらいかと思って、“5人くらいかもしれません、覚悟しておいてください”って話をしたんです。でも、こうやっていっぱい来てくれたのは、売れる売れないじゃなくて、うれしいなと。

── 今日のイベント、「整理券60枚出てますよ」って言ったのに、「いや、整理券持ってても来ない人がいるかもしれない」って言い張ってて(笑)。

カザマ:いやぁ、ありがたくて怖いです。

── じゃ、こうやって本を出してみて、周囲ではなく、カザマ君の中で変わったことはありますか?

カザマ:特に……あったかな……。最近、“頑張らなきゃな”って前より思うんですよ、適当に生きてる人間なので。みなさんライヴに行くためとか、日々真面目に頑張ってるんですけど、僕は、いいライヴをしたいっていうのはあるんですけど、普段真面目に生きてないから、申し訳ないことになるし、ライヴでも声が出なくなって、“死ね”みたいな感じになっていくんですよ。ホントに何か今日はすいませんでした。

── 「ありがとう」より「すいません」の方が多いね(苦笑)。

カザマ:みんな期待してないと思うんですけど。

── そんなことないですよね。

カザマ:じゃ、余計ダメだ。

── 編集担当として言わせてもらうと、カザマくん、本を作るためにやり取りする時の返信が早いんです、すごくちゃんとしてますよ、この人。真面目だし、すごく丁寧だし。「売れないバンドマン」のイメージとは違って、ちゃんとした社会人だなと。

カザマ:そうですか。見捨てられたくないので、基本、返信は早いです。

3markets[ ]の新譜『それでもバンドが続くなら』

── そして、この本と同じタイミングで3markets[ ]の新譜『それでもバンドが続くなら』がリリースされましたよね。アルバムの反応も結構あったんじゃないですか?

カザマ:オリコン・インディーズ・チャートには今回入ってないです。「バンドマンと彼女」は20位以内に入ったんですけど、今回入ってないからダメだな──と。ウソ。ウソじゃないですけど。

── (場内に)アルバムをお持ちの方ってどのくらいいらっしゃいますか?(大勢挙手)ほら、スゴいじゃん。

カザマ:今日はそんなにサクラの人が(場内爆笑)。

── そんな人を雇うお金はないので(笑)。みなさん、ありがとうございます。アルバム製作中のエピソード、何かありますか?

カザマ:サッとできたんで、特にないんですけど、この本の発売に合わせなければいけないっていうのが一番辛かったです。シングルが7月に出てアルバムも7月末にはレコーディングは終わってすぐ出せたんですけど、12月まで寝かせておかなきゃならないっていうのが。で、今は全国からCDが欲しいっていうバックオーダーは入ってきてるんですけど、僕らお金ないんでこれ以上プレスするかどうか悩んでて──そういうとこがちょっと嬉しい悩みです。

── さっき来場者アンケートで質問を募ったら、<スリマはもう売れてるバンドだと思うんですけど>って声がありましたよ。実感は全然ないですか?

カザマ:ないです。こないだ名古屋でライヴが終わった後にライヴハウスに行ったんですよ、そうしたらそこの重鎮みたいな人に“あなた誰ですか?”って言われたんです。で、店の人が“3markets[]の人ですよ”って言ってくれたら、“あ、カザマさんですか、Twitterだけ見てます”って(場内爆笑)。ま、ちょっと有名になったかな(笑)、それくらいしかないです。

── 1月12日に行なわれた吉祥寺でのアルバム・リリース記念ライヴはソールド・アウトになりましたね。ライヴの手応えはどうでしたか?

カザマ:みんなと仲良くできたので(笑)。ライヴをやっていくとだんだん不機嫌になっていくことがいっぱいあるんですけど、今回はそういうことがなく仲良くできていいライヴだったな、と。みんなが優しいと嬉しくなっちゃうんですよ。それって自分が作っている曲と相反していくので、もうダメかもしれない──って思うときがあります。この後は「俺は幸せだぜ」って曲を作るしかなくなるのか…誰も聴かないだろうなってジレンマが。

── 幸せになっちゃいけないって強迫観念があるんだ(笑)。

カザマ:だって、俺、聴きたくないですもん、それ。

── そして4月17日には渋谷のO-WESTで自主企画ライヴが行なわれるんですが、意気込みは?

カザマ:これが失敗したらヤメるんでよろしくお願いします──っていうくらいの覚悟で臨もうとしてるんで、いいライヴするしかないと思ってます。懲りずに来てください。

── スリマは続いて行くんですよね?

カザマ:はい。(場内笑)。

このあとジャンケン大会で「売れないバンドマン」の表紙/裏表紙の刷り出し(印刷見本)にサインを入れたものがプレゼントされ、Q&Aコーナーに移った。

Q1小学生でスリマを好きな人がいたらどう思いますか?

カザマ:気持ち悪いですね。

── え、この質問、本当に小学生? (質問者を見つけ)わ、小学生か!!

カザマ:(慌てて)え、本当ですか!!! すいません、すいません。いや、単純に心配になります。なんで好きなんですか?

Q1:(質問者の女子)「歌詞がすごい……」

カザマ:俺、小学生の頃B’zしか聴いてなくて、歌詞とか何を言ってるのか全然分からなかったので。だから凄い感受性ですね。ありがとうございます。

Q1:(質問者の女子)「分かんない、分かんない。私の考えなんで、もしかしたら間違ってるのかもしれないし」

カザマ:いやぁ小学生でそんなことを言えること自体、素晴らしいです。

Q2:ミュージック・ステーションに出ることになったら何を歌いますか?

カザマ:WANIMAを。

── 人の曲歌ってどうするんですか、自分の曲でだよ。

カザマ:「金曜20時、音楽の駅」を歌えたらなぁって。

── ミュージック・ステーションを題材にした曲ですね。

Q3:就職が決まっておらず、今、自分がしたいことが分からずやりたいこともなく、どうすればいいか悩んでいます。希望を持てる一言をいただけますか?

カザマ:就職した方がいいと思います。

── (場内に)相談する人を間違ってませんか? 大丈夫ですか。

カザマ:とりあえずお金があった方が選択しようがあるので。就職してもいつでも辞めようと思えば辞められるので。

── カザマ君に思いのほか励まされてしまいましたね。

カザマ:やりたいことを見つける方がいいので、とりあえずプレステ買った方がいいです。オンラインで会いましょう(笑)。

Q4:カザマさんの文章は心打つものがあって、きれいごとじゃない所が好きです。バンドこれからも続けて欲しいです。

カザマ:ありがとうございます。

Q5:バンドが売れたら同じように本を出す気持ちはありますか?

カザマ:『売れたバンドマン』ってやつですか? ないです。さっきの「俺は幸せだぜ」って曲を聴きたくないのと同じで。

Q6:最近好きな芸人さんはいますか?

カザマ:僕、お笑いを見ないし、テレビ自体を見ないんで本当に分からないです。にゃんこスターっているんだ──くらいな気持ち。あ、本で対談したエルシャラカーニの清和さん、メチャメチャ面白かったです、頭が良すぎますよね。

Q7:次は質問ではなくご意見です。“バンドマンの彼女”さんから。<いいかげん売れて欲しい、早く「売れないバンドマン」を脱却して欲しい>。

カザマ:え、これ、俺の彼女からじゃないですよね?

── そう、カザマ君の彼女。

カザマ:なんで!? どういうことですか?

── もう一通あります、“彼女の母”さんから。<自分の実力でしっかり評価されるよう努力をして、たくさん知識を得てください>。

カザマ:ウソですよね?

── ウソじゃない、ホント。

カザマ:マジっすか? ホント、ホントなんだ。ホントに? <自分の力で評価されて>ってヤバいですよね。

── この質問が書かれたアンケートは後であげますので、持って帰って部屋に貼ってくださいね。

カザマ:なんでこんな興ざめするイベントなんですか(場内爆笑)。

── 今日、お二人はこの場にはいらっしゃらないんですが、スタッフが先に聞いておいてくれたんです。

カザマ:やっぱり大人は俺から色んなものを奪っていくんだ……。

Q8:東京の嫌いなところ、好きなところ、あれば教えてください?

カザマ:もう自分の街みたいになってるので嫌いなところとかってあまりないですね。好きなとこはいつでも物が買えるっていうところ。あと、雪があまり降らないところ。

Q9:服はどんなところで買いますか? 好きなブランドはありますか?

カザマ:ないです(笑)。ごめんなさい、あまり服にも興味がなくて。本の表紙の服もお客さんがくれた服で。これはcoenってブランドでよく着てます。でも、貰ったものはだいたい着ます。

Q10:今日までバンドを続けて来た理由を聞きたいです。

カザマ:ヤメられなかったからですかね。昨日『漫画アシスタントの日常』って本を読んでたら、<ただ続ける奴なんか辞めちまえ>って書いてあって。あ、俺だ!って思って。今朝、“頑張ろう”って思ったとこなので、週に一回くらいちゃんと曲を作っていこうかな、作れなかったら何かペナルティを課して。頑張ります。

── この質問を下さった方は本からスリマを知ったということで、そこからブログを読み、今日初めてカザマさんの歌を聴いたそうです。

カザマ:いや、ほんとにすいません、いや、ありがとうございます。最近人と話したとき、<本当に続けるためには売れないことだ>って言われました。売れちゃうと次も売れなくちゃいけなくて、でも売れないとヤメなくちゃいけない。だから本当に売れないでいけばヤメる理由がない。

── ずっと低空飛行で今まで来てるわけでしょ? 実践してるじゃん(笑)。

カザマ:だから、続けるためには売れないことだ──って。夢も希望もないような。

── 前向きなのか後ろ向きなのか(笑)。

Q11:バンドよりブログのファンについてどう思いますか?

カザマ:ブログもバンドも自分なので、そっちも嬉しいなぁと思います。ブログ・ファンっているんですか?

── (会場に)みなさん、「風間観察日記」読んでます? ええ、みんな頷いてますよ。

Q12:好きな食べ物はなんですか?

カザマ:唐揚げが好きです。

── 質問コーナーは以上です。そろそろお時間となりましたが、これ、全然しまらないんだけど、どうする?

カザマ:(場内に)大丈夫ですか? 楽しいですか? これで。

── みんなニコニコしてますよ。

カザマ:これがみんなの優しさです。

── 思った通りのカザマ君に会えたって感じですよね。

カザマ:最近前向きですよ、ホントに。

── 今まで言ってきたことは何だったんだってくらい、今ウソついてますよね(笑)。じゃ最後にみなさんにメッセージというかお礼を。

カザマ:本当に頑張りますので、頑張るっていうとアレなんですけど、僕、音楽そんなに好きじゃなくて、聴けばわかると思うんですけど。ただ人に自分の思っていることを伝えて、分かってもらえたり反応してもらえるのは<自分が居るな>っていうのが確認できるので、ホントにこうやって居てくれるのは嬉しいです。みんなもそう思ってくれたらいいし、メンバーも含め4月17日までは全力で頑張りますのでよろしくお願いします。カザマでした、ありがとうございます。(場内大拍手)

このあと、サイン会が行なわれた。

 All Photo by Naofumi Nemoto

売れないバンドマン のご案内

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    四六判 / 232ページ / ¥ 1,528

    すべてのダメ人間に捧ぐ!! 売れないバンドマンの苦悶の記録
    クリープハイプ・尾崎世界観との特別対談
    SNSで話題沸騰の漫画家、世紀末の新作を収録

    ──すべてのダメ人間に捧ぐ!! 苦節20年、いまだメジャー・デビューできず、売れないバンドマンの苦悶の記録。3markets[ ]のヴォーカル&ギター、カザマタカフミの赤裸々日記を書籍化。長くインディーズシーンで活動してきたからこそ書ける話は、悩み多き若者、社会生活に疲れた大人たちの心を捉えて離さないはず。
    対バン時代からの盟友・尾崎世界観(クリープハイプ)氏との対談や、新譜「それでもバンドが続くなら」でもコラボしているSNSで話題沸騰の漫画家、世紀末氏の新作漫画も掲載。

    【CONTENTS】
    第1章 2006年11月~2014年2月
    俺ら、なんでバンド始めたんだっけ?

    第2章 2014年5月~2016年11月
    売れないバンドマンの日常

    第3章 2017年3月~2017年9月
    それでもバンドが続くなら

    〈特別対談〉
    尾崎世界観(クリープハイプ)
    清和太一(エルシャラカーニ)
    浅田信一(フロデューサー)

    〈特別インタビュー〉
    元カノ・カナコさん
    今カノ・ケイコさん

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