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書籍『俺たちの1000枚 10 Artists × 100Albums』の発売を記念して、編・著者 木村ユタカさんの司会により元シュガー・ベイブの村松邦夫さんをゲストに迎えたトークイベントが、10月23日BIBLIOPHILIC & bookunion 新宿にて開催された。

最初の譜面起こしには1曲に1週間くらいかかってました。

木村:元々2007年から2009年にかけて日本のロック専門雑誌「ロックス・オフ」で「俺の100枚」という連載を毎回1名登場で合計7回やっていました。この本が休刊となって連載が途絶えてしまっていたので、今回そこに小西康陽さん、曽我部恵一さん、片寄明人さんの新しいインタビューを入れまして、めでたく合計10名、各100枚計全1,000枚という形での書籍化が実現しました。よくある「ロック名盤100選」とかではわりと一般的に知られている名盤ばかりが選ばれたりしますが、この本ではミュージシャンの方それぞれの60年代/70年代の実際のロック体験が詰め込まれていて、ちょっと変則なディスク・ガイドになっています。体験した人ならではの言葉がたくさん入ってるのが肝になっていますので、そういった所を是非楽しんで頂きたいなと思います。

(司会の呼び込みでゲストの村松邦男さん登場)

img_2064 村松:こんにちは村松邦男でございます。よろしくお願いいたします。木村ユタカさんとは取材以来8年ぶりくらい、その前はシュガー・ベイブ30周年とかでわりと頻繁に会ってました。で、あの1000枚って重なってるの?
木村:重なってます。
村松:たくさん?どのくらい重なってるかってチェックする楽しみがあるね。
木村:さて、今日は村松さんに何か本をお持ちいただいたということで。
村松:「THE Billboard BOOK OF Top 40 Hits」って本です。この本は僕が30歳くらいの頃アレンジの仕事を始めたときに、もうちょっと昔の音楽をちゃんと知ろうと買いました。
木村:この本を参考にアレンジの勉強をされた?
村松:本を調べて、おおもとのアーティストのレコードにたどり着いて、そこから今出してる誰かに繋がって、それを聴いて研究して、いい言葉で言うとインスパイアされたっていうんですけど、俗に日本語で言うと盗むってことを。
木村:村松さんはシュガー・ベイブ解散後しばらく、アレンジの勉強をされてたとこの「俺たちの1000枚〜」でもおっしゃってますけど、その時代はソウルを中心にレコードを聴いては譜面に起こして勉強をされてたということですが、具体的にいうとどんなアーティスト、アレンジャーを勉強されてたんですか。
村松:それさぁ急に言われても思い出せないよ(笑)。でも一番最初にやったのは確かフォートップスだったと思う。「リーチ・アウト・アイル・ビー・ゼア」とかモータウン・レコードの頃の曲。でもアレンジャーってやろうと思ってすぐできるわけはなく、音楽学校に行ってないから基礎知識もないし、ドラムのパターンはどうなってるかな、タムはこうやってるのかって小節毎に起こして、次にコードを採って、ベースはどうやって弾いてるのかって、そのとき採れる範囲で起こしました。コピーって自分の音楽的能力が上がるともっと細かい所まで採れるんですけど。でも馴れてないからすごく時間がかかって、4小節でも全部の演奏パートを起こそうとすると平気で2〜3時間かかったりするんです。本には一曲1日って書いてあったけどあれは嘘で(笑)、最初の頃は一曲1週間くらいかかってた。
木村:70年代後半の流行のソウルって、フィリー・ソウルとかディスコとかいっぱいあったじゃないですか。そういうのはアレンジの勉強として取り上げたんですか?
村松:やりましたよ一生懸命。でも採れないのもあって、コードワークは採れてもトランペットやサックスやホルンがどこを吹いてるとかのアレンジはすごく面倒くさくてよくわからない、だからたまに採譜を失敗すると年上のベテラン・ミュージシャンから叱られました。
木村:同時期に山下達郎さんがニューヨークとかロサンゼルスに行ってレコーディングして、そのアレンジの譜面を持って帰ってきて自分で勉強したっていうのがありましたけど、村松さんは特に影響を受けたアレンジャーっていたんですか?
村松:それは特にいない。ブラスとかストリングスに対しそれほど理解力がなかったから、ソロ・アルバムを出すときは自分でリズム・セクションだけアレンジして、ブラスと弦を他のアレンジャーにお願いするというのが何回かあって。その譜面を見て“こうなってたのか……”っていうのが80年代の始め頃。
木村:そういうのを勉強されて、80年代辺りからもう自分でやるように。
村松:そうですね。勉強する前もやったんだけど、若気の至りって言うか間違えまくって現場で怒られるっていうのがよくあった。ブラスとかストリングスの人ってみんなコワいんですよ(笑)。でもクラシックの人ってリズム感悪いから(笑)。
img_2069木村:この本「Top 40 Hits」について後は何か?
村松:ここbookunionでしょ、店長、この本入れた方がいいよ、2000年代にも続いて出てると思うし、ミュージシャン必携の本ですから。これは2つのパートに分かれていて前半はアルファベット順で、アーティスト名と簡単なプロフィール、その人たちのTOP40に入った曲のヒット状況が載っていて、後半は楽曲の索引になってる。僕はあまり後半は引かなかったけど。
木村:TOP 40だと主要なヒットはだいたいカバーできるし。

ここで、村松氏の「俺たちの100枚」の中から一掴みのCDが持ち込まれ、そこからランダムに選んだアルバムの曲を聴いて村松氏が解説するという企画が行われた。

『The Fifth Avenue Band』フィフス・アヴェニュー・バンド

村松:フィフス・アヴェニュー・バンドのこのアルバムがなければシュガー・ベイブはなかったというくらいの作品です。一番好きな曲にするか、「パレード」のパクリ元にするか(笑)。じゃあ7曲目の「ナイス・フォークス」を。(曲が演奏される)
木村:ちなみにこのアルバムはサエキけんぞうさんと片寄明人さんも選んでます。
村松:10人中3人ね。フィフス・アヴェニュー・バンドは日本語で言うと五番街バンド、このアルバムを聴いてた頃、山下君とシュガー・ベイブになる前に成増の某邸宅でよく集まっていて、そこが赤塚5丁目だったからどこかでライヴをやるときには、「赤塚5丁目バンド」とかって言ってました(笑)。

『Are You Experienced?』ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス

村松:ジミヘン解説しろっていわれてもなぁ(笑)。当時家にあった、音楽雑誌ミュージック・ライフのレコード・レヴューで、ジミヘンの所に「みんなたまには歌だけじゃなくてギターも聴け」って書いてあったのを見て。その頃はギタリストが云々かんぬんというのは問題外だったからね。じゃ珍しいところで「風の中のメアリー」を。ジミ・ヘンドリクスって日本では激しいギターのイメージしかないけど、アニマルズのベーシストのチャス・チャンドラーがプロデュースしてああいう形になって。その前アメリカでは普通のリズム&ブルースのギタリストだったから、たまにリズム&ブルース系のフレーズが出てきて。(曲が演奏される)
村松:ちょっとセッション・ミュージシャンっぽいギター・フレーズなんだよね。
木村:今回、意外とジミヘンって選ばれてないんです。
村松:隠してんだよみんな(笑)。ジミヘンとか出したらカッコ悪いなって。あ、でも今回そんなにギタリストがいないんだ?
木村:他には花田裕之さんですね。

『Pet Sounds』ザ・ビーチ・ボーイズ

村松:ベタというか王道ですね。ブライアン・ウィルソンの映画「ラヴ&マーシー」を観ちゃったから、「神のみぞ知る」を聴こうかな。
木村:このCDは達郎さんが解説を書いてらして。(曲が演奏される)
村松:小西くんのネタ元をばらすことになりそうだけど(笑)。「ラヴ&マーシー」って映画は後味がう〜んちょっとどうかな……って思ったんですけど、お父さんとの軋轢が凄かったっていうのは初めて知って。でも面倒くさいコードを考える人だよね〜(笑)、ダメです、ポップスにこんな面倒なコードを使っては(笑)。
木村:村松さんがこのアルバムを最初に聴いたのっていつくらいなんですか?
村松:僕は当然のことながらビートルズを聴いてたんでビーチ・ボーイズはあんまり興味なかった。だからアルバムとしては最初にこの『ペット・サウンズ』を聴いたかな、ウァ〜〜面倒くせ〜って(笑)。
木村:達郎さんはかなり聴き込んでました?
村松:山下たちはビーチ・ボーイズをトップとして、日本人があまり興味を持ってなかったソフト・ロックとかを聴いていて、山下はもっと昔の黒人のグループの方に行ったりし始めて。その頃池袋のヤマハがやってたWISっていうアマチュア・バンドのサークルがあって、そこで毎月1回集まって演奏するんだけど、これがランク付けされるの。ビギナー、ジュニア、ジュニア・ハイ、シニア、シニア・ハイ、エースって6段階で。うちのバンドはジュニア・ハイだったかな。で、山下は面識はなかったけど、並木って一つ年下のヤツのバンドにいて。そこはソフト・ロックとかビーチ・ボーイズとか軟弱なのをやってて、そしたらこいつらなんとシニアに選ばれて(笑)。バッカ野郎!だけど、それから仲良くなった。
木村:村松さんのバンドはブルース・ロックとか。
村松:クリームとかポール・バターフィールド・ブルース・バンドとかをやってて……、でも下のヤツに負けるのって悔しい(笑)。

『Fresh』スライ&ザ・ファミリー・ストーン

村松:えーと『フィレッシュ』は「イン・タイム」が好きなんですけど……、「ケ・セラ・セラ」かな。
木村:今回の本で一番選ばれてたのがこのスライと、印象に残っているのがドクター・バザーズ・オリジナル・サヴァンナ・バンド、この2枚です。
(曲が演奏される)
村松:このアルバムを聴く前までは、ペギー葉山さんのヴァージョンでしか知らなくて。
木村:オリジナルはドリス・ディで、主演したヒッチコック映画「知りすぎていた男」の主題歌。
村松:日本ではペギー葉山で流行ったんだけど、小学生の頃は普通の歌謡曲だと思ってたの。で、二十歳過ぎてこのスライのヴァージョンを聴いてスゲェと思って歌詞を見たら、中学生レベルの英語の歌詞ですごく分かりやすいんです。最近自分のライヴでもこれよく歌うんですよ、このアレンジで。でも、普通スライの曲としてこれはかけないよね(笑)。
木村:ちなみにサエキけんぞうさんと、鈴木慶一さんがこの『フレッシュ』を100枚に選ばれてます。
村松:いわゆるP・ファンクの元祖とかと紹介されてることが多いですよね。薬物とかでスライは一時期ダメになったけど。
木村:最近は復活してますね。
村松:一番最初に知ったのはウッドストックの映画で「ハイヤー」を観たときかな。で、ここにいたベーシストが独立してチョッパーとかを広めたのが、グラハム・セントラル・ステーションのラリー・グラハム

(ここから来場者による質問コーナーへ)

Q:今までで、思い出深い嬉しかったことはなんですか?
村松:困ったな……、今、64歳と半年なんですけど、博物館とかが65歳を過ぎると半額になるんですよ(場内笑い声)、歳をとるといいことがあるんだな…って。でもまだ半年あるんで、今のところ一番嬉しいのは……昔のことは嬉しいことでも忘れちゃうのね。本当だったらビートルズの東京公演を観に行けたっていうのはすごくラッキーなことのはずなのに、嬉しさとか残ってないから。

Q:今一番よく使うギターは何ですか?
村松:アメリカのダンエレクトロ社製の56U2ってやつかな。「七面鳥」(ライヴハウス)でやったときはうす緑色のDANO63。最初は56U2で、59-DCから、DANO63になって。アメリカではスチューデント・ギターって言われてて、メーカー名は違うんですけど、だいたいダンエレクトロが作ってるのが多くて、エリック・クラプトンとかジミー・ペイジも59-DCを使ってる写真が出てますよ。何がいいかって言うと軽いんですよ。木材のチップを樹脂で固めてあるからめっちゃくちゃ軽い。レコーディングだったら重たいギターも座って弾けるからいいけど、歳とってくると重たいのはライヴのときは無理。一時期多いときはダンエレクトロは家に7台ありました、今減らして5台かな。

Q:毎朝何時に起きて何時に寝ますか?
村松:例えば前日ライヴがあって朝6時頃に帰って来るときもありますが、そうじゃないときはうだうだやって酒飲んで夜2時頃寝て朝8時頃起きるってパターンが多いかな。ちょっと寝坊して9時くらい。

Q:今選ぶシングル3枚を教えてください。
村松:アルバム100枚とは別にマイ・フェヴァリット3というのはずっと決まってて、誰からも聞かれないから言ってないんだけど(笑)。3位がゲス・フーの「シェアー・ザ・ランド」。これは“ネイティヴ・アメリカンが自分たちの土地を追われ居住区に移されて、土地をシェア(分ける)しなければいけない”という内容なんですけど、それを知らずにカッコいいなって好きだったんです。2位はバッキンガムスの「マーシー・マーシー・マーシー」。キャノンボール・アダレイがインストゥルメンタルで発表した曲(作曲:ジョー・ザヴィヌル)に歌詞(作詞:ラリー・ウィリアムス、ジョ二ー・ワトソン、エディ・ジェファーソン)がついたもの。
木村:いわゆるブラスロックの走りみたいなものですね。
村松:ハモる感じがホール&オーツっぽいですね。そして栄光の第1位はジ・アニマルズの「炎の恋(Don’t bring me down)」。キャロル・キングとジェリー・ゴフィンの作かな。

Q:ずばり達郎さんと大貫さんの性格のタイプを表現するとどうなりますか?
村松:もうちょっと人が減らないと言えない(笑)あんまりマイクを使って言うもんじゃない……ご想像にお任せします(笑)。
司会:というところでお時間となりました。今日はどうもありがとうございました。

(このあとサイン会などが行われた)


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    A5判 / 256ページ / ¥ 2,200

    成熟した邦楽アーティストをマニアックに徹底取材する専門誌「ロックス・オフ」(シンコーミュ ージック刊)創刊から合計7回にわたりに掲載された名物企画「オレの100 枚」が、新たに3名の選者を追加し総計1,000枚を紹介する、音楽マニア垂涎のおもしろくてためになる名盤ガイト&ブック。
    各1万字以上のロングインタビューに加え、アルバム詳細テータも完備。

    【CONTENTS】
    Track 1
    曽我部恵一[Born:26 August 1971]

    Track 2
    チバユウスケ[Born:10 July 1968]

    Track 3
    片寄明人[Born:23 May 1968]

    Track 4
    花田裕之[Born:20 June 1960]

    Track 5
    サエキけんぞう[Born:28 July 1958]

    Track 6
    村松邦男[Born:17 March 1952]

    Track 7
    鈴木慶一[Born:28 August 1951]

    Track 8
    久保田麻琴[Born:11 July 1949]

    Track 9
    遠藤賢司[Born:13 January 1947]

    Extra Track
    小西康陽[Born:3 February 1959]

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