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THE BAWDIES

突き詰められたTHE BAWDIES流の最新型ロックンロール

前作『Boys!』から約2年2ヶ月ぶりとなるニュー・アルバム『NEW』。ここには、近年彼らがシングルやライブで漂わせてきた、より高い熱量が溢れんばかりに注入されている。まさに、過去最高にアツくなったTHE BAWDIESサウンドが凝縮されているのだ。今回はそんな1枚が完成を見るまでに、4人が感じ取っていた現在のモード、そしてアルバム制作の舞台裏を聞いた。さらにGiGS本誌では、TAXMANとJIMによる「THE EDGE」のギター奏法解説 & 今作における4人のサウンドメイクについて聞いたインタビューを展開。併せてチェックして、『NEW』のサウンドの最深部に足を踏み入れて欲しい!

Text/HIROMASA MURANO

日本で今、俺たちにしか絶対出せないものだって思えるものができた
──前作『Boys!』から今作『NEW』に至る2年2ヶ月の間、常に楽曲は作り続けていたということですが、今回のアルバムにそれをまとめるにあたって、どんなことを意識しましたか?
ROY:『Boys!』を作り終わった時点で、自分たちが出せるものはすべて出せたと思ったんです。そういう意味であれはあれで良いアルバムだったし、カッコいいロックンロール・アルバムだったと思うんだけど、じゃあ次はどうしようというくらい1回空になったんですね。あと、あの時点で楽曲を作るというバンド自体の能力がどんどん上がっていて、良い曲をもっともっと書けるなという気持ちになっていて。そこから1年くらいはコンセプトなしにとりあえずできた曲を作っていこうという流れがあったんですけど、その中で今回のアルバムにも入っている「SHAKE, SHOUT & SOUL」という楽曲が書けたんです。そのときに、なんかTHE BAWDIESの新たなロックンロールが生まれるかもしれないなという予感があったんですよね。だからこそ、その後のツアー・タイトルにもしたんですけど、あれはすごくルーツ的な曲だったから、現代の人たちに伝えるというか、現代のバンドとしてロックンロールをどう発信するかという点でいうと、まだまだいけるなという気持ちがあったんです。そうこうしてるうちに後輩のgo!go!vanillasとスプリット・シングルを出そうという話になったり、ツアーを廻ったりしたときに、そのまま「SHAKE, SHOUT & SOUL」を使っても良かったんだけど、彼らの若いお客さんも聴くんだったら、その人たちにもっともっと伝わるものを考えなきゃいけないかもしれないなと思って。それで作ったのが「THE EDGE」だったんです。で、それがまた僕らの中ではすごい手応えがあって。これこそ現代のバンドにしかできない、’60年代の人にはできないロックンロールだ、もっと言えば日本で今、俺たちにしか絶対出せないものだって思えるものができたんです。だからこれでいこうかなとも思ったんだけど、すごい調子が良かったので、じゃあもう1曲作ろうといって作ったのが「45s」。スプリットにはそっちを使ったんだけど、この2曲ができたことによって、これが今のTHE BAWDIESが表現したいロックンロールの基盤になる、これによって自分たちは新たなステージにいったと思ったんです。それと同時に、今の若い世代の、その1つ先の世代であるTHE BAWDIESにとっては、きっと今まで以上に尖らせて鋭くさせていかないと現代の若い波を切り裂いていけないんじゃないかという風にも思ったんですね。だったら「THE EDGE」「45s」を軸に、今までよりも尖った鋭いロックンロール・アルバムを作ろうと。まず最初に、そう思ったんです。
──とはいえ『NEW』にはそういう楽曲だけではない、これまで以上に多彩な楽曲が揃えられていますよね。
ROY:そうなんです。なんて言うか、ロックンロールに対する集中の仕方が今まで以上に強かったから、この感じでもう1曲書けると思って書いたのが、2曲目に入ってる「HELLO」という曲なんですけど。そこまでの4曲ですべてを出し尽くしたので、そうすると逆に他のことをやりたくなったりとか、他の部分が急に出て来たりとかするんですよね。そういう意味では中途半端じゃなく、この4曲にガッと集中できたので。アルバムも「SHAKE, SHOUT & SOUL」はLPに例えるとB面の方に置いてあるけど、A面は1曲目から「THE EDGE」「HELLO」「45s」の3連発で、まずドンッと伝えたいことを伝えて。あとは今自分たちのできることを詰めていくみたいなことができたということだと思うんです。
──激しいロックンロールはもちろん、ポップなビートのものやロマンチックな楽曲など、そのすべてが今のTHE BAWDIESのものになっていると思いました。言い換えると、それだけこの2年間、曲作りに関して調子が良かったんですね。
TAXMAN:手応えはすごくありましたね。『Boys!』のときに「NO WAY」という曲があって、あのときから曲が作れるというひとつの自信みたいなものが生まれていたんですけど、自分的にはもっとシンプルでカッコいい曲を作りたいという欲があったんです。だから良いフレーズやリフを思いついたら、自分が歌うとかは関係なしに、とりあえずそこからどんどんいろんな曲を作っていたんですね。例えば「SHAKE, SHOUT & SOUL」も、俺が「こういうリフできたんだけど、どう?」ってROYに聴かせたことをきっかけに、彼が作ってた曲にうまくハマったことからできていったんです。そういうこともすごく手応えや自信になっていたし、おかげで今もいいモチベーションで良いフレーズがどんどん湧いてくるんですよ。
──TAXMANさんが歌う「RAINY DAY」という曲は、TAXMANさんが書いた曲ですよね。
TAXMAN:はい。今までもアルバムで1曲歌わせてもらってますけど、わりとシンプルなロックンロール・ナンバーが多くて。メロを聴かせるのが得意じゃないわけじゃないんですけど、自分はシンプルなロックンロールでいいかなと思っていたんです。だけど今回は結構時間もあるし、せっかくだからたまには歌い上げるような曲もいいかなと(笑)。シンプルながらも、ちゃんとメロを歌い上げてみようと思ったんです。
──軸になった4曲以外に、これだけ多彩な楽曲を表現できた要因は何だったんでしょう?
JIM:なんでしょうね(笑)。何せ2年間もルーティーンとしてみんなで作曲活動やレコーディングをしてたので、自分としては変な意味ではなく、特別感がないんですよね。というか、ごくごく自然体というか、リラックスしてたんじゃないかなという気はします。
──その間に自然と音楽的な視野も広がっていた?
JIM:どうなんですかね。ただ、いろんな若いバンドと対バンすることも多かったので、刺激はいろいろ受けたんじゃないかなという気はしますね。若い子たちとやったからそれで何か影響受けたとか、ケツを叩かれたとかということではなく、若いシーンを見られたことが刺激的だったというか。なんていうか、例えればどアウェイに放り込まれる感覚? そんなことめったにないんだけど、だからこそそういう意味ではすごい燃えたというか(笑)。そういうことはあったかもしれないですね。
──MARCYさんは何が自分たちにこれだけ幅広い楽曲を作らせたんだと思いますか?
MARCY:なんだろうなぁ。まぁ1ヶ月に1〜2曲とかデモ録って、それを1回持ち帰って「ここはもっとこうしたいね」とか、またみんなで話し合って、それから本チャンという風にして、時間があったぶん、今回はとにかく1曲1曲に集中してたんですよ。まとまらないときはしばらく寝かせて、少し経ってからまた触ってみたいなことも多かったしね。あと、「DANCING SHOES」は2015年4月に配信限定でリリースした曲なんだけど、そのまま出すのは嫌だったというか、当時よりも音楽的にいろんな見方ができるようになってきてる今の自分たちの形で表現したいと思って、録り直してるんです。で、これがまた良い感じになってるんですよ(笑)。というか、そういう風に音楽的な欲求も曲に対する集中の仕方もこれまでにないくらい高かったというのが何より大きかったんじゃないのかな。だから、この2年の間に特に新しく何かを身に付けたという感じのものは、あんまり自分では分からない。言い換えれば、いろんな音楽を聴いてそれを採り入れたというよりは、今の自分たちの中から自然に出てきたものを忠実に入れていって、プラスαで、どっかからあれを持ってきたとか、これを持ってきたとか…。そういうことだと思います。
──あえて、こういう曲調のものを作ろうって狙ったものはありますか?
ROY:そういうことで言えば、最初に言った4曲ですね。THE BAWDIESが1番カッコいいと思うロックンロールを突き詰めてみようと思ったから。「SHAKE, SHOUT & SOUL」に関してはまだそこまで考えてなかったけど、「THE EDGE」「45s」「HELLO」を作るときは明確にそう思ってました。で、他の曲はアルバム用とか何も考えず、曲ができたら書いていこうという感じだったんです。今回は時間もあったし、JIMが言ったみたいにホント、すごくリラックスしてたので。言い換えれば、新たなものをいろいろ吸収して出していこうというよりは、今までしっかり吸収していたものをちゃんとリラックスした形で出すことができるようになったということだと思うんです。期限が決まってる中でこういうものを書かなきゃならないとか制限があると、なかなか出て来なかったりするじゃないですか。でもリラックスして1回整理してみるというか、自分たちは何ができるのか、どんなものを持ってるのか、肩の力を抜いて考えると、自然と見えてくるんですよね。その結果、狙ったわけじゃないけど自然と幅の広がったアルバムになっていったんじゃないかなという気がします。
──自然と自分たちの引き出しの奥まで手が伸びていた。
ROY:そうそう。まさに、そんな感じです。だからサウンドメイクに関しても1曲1曲しっかり愛情込めて作れたので、この曲にはどういう音が今1番カッコ良く映るのか、キレイに乗るのかということをしっかり詰めることができたんですよね。
──これだけ幅広い楽曲を歌うということで、ROYさんはボーカルに関しては何か意識していたことはありますか?
ROY:自分のスタイルというものがどんどん出来上がっていってると思うし、その上で昔より幅広い曲を歌える表現方法も増えてきていると思うんです。で、さらに新たなことでいうと、やっぱりさっきから言ってる4曲になってしまうんだけど…。もともと自分の声って歪んでるんですよね。それはかつてレコードで聴いたブラック・ミュージックだったり、ガレージ・サウンドから聴こえる音がそういう風に聴こえたからで、それを真似して歌い始めたからなんだけど。だけど、自分のその歪んだ声をさらに歪ませたらどうなるのかということは、今まであんまりやってこなかった。わりとロックンロール・バンドやガレージ系のバンドで最初からボーカルを歪ませる人はたくさんいると思うんだけど、僕らはやってこなかった。だから今回、それをやってみたら歪みがさらに歪んで、すごいドライブがかかるんじゃないかなと思って。この4曲では、それを試してみたんです。
──歌い方に関しては?
ROY:感覚ではあるんだけど、歌うときにちょっと意識したのは力を抜くということ。リラックスに近いんだけど、バーッて音を前に出すときに、以前はすごく押してたんですよ。だけど、実は押さない方が全部の力が伝わるということは、ここ1〜2年感じてきていたことなんです。なので今回のレコーディングには、それがすごく反映されてると思う。だから今までよりも深みがあるというか、細部まで音が聴こえるというか…。そういう、自分で潰してしまわないという方法を採っているので、歌い方は変わったかなと思います。
──「RAINY DAY」でのTAXMANさんのボーカルはかなりオフ・マイクっぽい音質に処理されていますね。
TAXMAN:シンプルなロックンロールって、イコール、歌も簡単なんですよ。でもさっきも言ったみたいに、今回は結構しっかり歌い上げてるので、逆に自分の声があまり生々しく聴こえるのは嫌だなと思ったんです。「あっ、TAXMANが歌ってる!」と思われるのが…恥ずかしいんじゃないんだけど、そんなに主張したくないんですよね(笑)。それよりも曲に耳がいくようにしたいなという気持ちもあって、こういう音質のボーカルにしたんです。
──「RAINY DAY」はライブでも歌われていましたが、こういうエフェクトしたボーカルで聴くとまた味わいが違って面白いですね。
TAXMAN:そうですね。まぁ、ライブはライブで別に考えてるから。スタジオ音源では、こういうガツンとした世界観をちゃんと作っておきたかったんです。
──「MAKE IT SNOW」の“NEW”Versionで聴こえる女性ボーカルはどなたですか? もしかしたらTAXMANさんがファルセットでROYさんと掛け合っているのかなとも思ったんですが。
TAXMAN:ハハハ…(笑)。あれはオリビアという、よく一緒にやってもらってる黒人の女性シンガーです。
──「HOT NIGHT , MOON LIGHT」という曲はペトロールズのギタリスト、長岡亮介さんのプロデュース。いかにも長岡さんらしいソウル感が滲み出た楽曲ですね。
ROY:長岡さんとは今回のアルバムにも収録したシングル曲「SUNSHINE」を一緒に作ったんだけど、その頃からもう1曲、それとは違ったタイプの曲をやりたいという思いがずっとあったので。ぜひともということでお願いしたんです。
──アルバム・ラストの「NEW LIGHTS」という曲は、久々にLOVE PSYCHEDELICOのNAOKIさんがプロデュース。ゆったりとしたポップ感がとても気持ち良い仕上がりになっていますね。
ROY:NAOKIさんとは以前一緒に作った「LEMONADE」みたいな感じをもっとやりたいなと思ってお願いしたんだけど、NAOKIさんも同じことを繰り返す人ではないので。でも、「じゃあそれを汲んだ上でもっと新しいものを作ろう」と言ってくれて、NAOKIさん用に3曲くらい書いた中から、この曲を選んでくれたんです。で、それをさらに削ぎ落としていって、こういう形になったんだけど。僕らも今まで使ったことなかった引き出しを加えてもらった感じでした。
──ゆったり感の中に静かな情熱が息づいているみたいで、今までにない形だけど、すごく良いアルバムの締めだなと思いました。
ROY:今までのアルバムって最後はわりと激しい曲で終わってたから、こういう終わり方というのは確かになかったですよね。だから、リピートして聴いてもらっても面白いと思うんです。ここからまた「THE EDGE」に戻って、ガーッと始まる感じが、実は自分でもすごく気に入ってるんです。
──今回のアルバムは12曲入りですけど、これが仮にLPだったら、A面は6曲目の「SUNSHINE」まで。で、以降がB面だと思うんですけど、それぞれ別の顔を持っているようで、そんな構成もとても面白いなと思いました。
ROY:LPというのは、今回特に意識しました。A面はわりとガツッと見せて、B面はポップな面を見せていくみたいな感じで。だからA面とB面では違う表情を持ってるんだけど、そういうアルバムの方が個人的には好きだったりするんですよね、いち音楽ファンとして。いつもはもっと全体のバランスを考えて、これはここに繋げてとか考えるんだけど、今回はとにかく激しい曲はA面にドーンッと入れて、B面はリラックスしてみたいな感じにして。そのときの気分でどっちかを聴きたくなるようなものにした方がいいなと思ったんです。
──2月からは本作にリンクしたツアーも始まりますね。
ROY:はい。ロング・ツアーとしても2年ぶりなので、嬉しい気持ちでいっぱいです。しかもこれだけのアルバムができたので、それを生で伝えていけるということがバンドとしてもすごく嬉しい。今はとにかく早く、みんなに伝えたいなと思ってます。