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THE BACK HORN

17年目での試みで得た強靭なバンド・サウンド

前作より約2年8ヶ月ぶりとなるアルバム『運命開花』は、これまでのTHE BACK HORNのどの作品よりも熱く、
そして激しい。さらに、クリアに鳴り響いていることにも注目してもらいたい。
これらは、サウンド面を追求した4人がレコーディング方法を一発録りから個々での録りに移行したことの結果である。
そうすることで、より緻密なアンサンブルの構築とサウンドメイクが可能となり、過去最高に強靭な
バンド・サウンドを繰り出すことに成功したのだ。ここではそんな制作現場の裏側に迫ったインタビューをお届けしよう。
本誌にて展開しているインタビューと併せて読むことで、『運命開花』のより深い世界に辿り着くことができるはずだ。

Text/KOH IMAZU

これは何作か前から思い始めたことなんだけど、 ライブっぽくレコーディングしたから
生々しく聴こえるとは限らないんですよね
──『運命開花』。タイトルからしてTHE BACK HORNらしい言葉遣いだね。運命と言いつつ、そこには“定め”的なニュアンスが感じられなくて。
松田:そうですね。仲間の死とか別れとか無情にも訪れてしまうものが運命だとしたら、そういうことも含め全部を受け止めながら人生を花開かせていく。そんなニュアンスで付けたんです。“どうせ定めだから仕方ないや”とかじゃなくね。収録曲にはそういう人生が語られてる部分もあるし、このアルバムに力を得てそういう人生を送って欲しい、っていう思いもあったんです。
──ちなみにこのタイトルは誰が?
松田:みんなでアルバム・タイトルについて議論して「日本語で何かないかなぁ」ってなったとき、僕がポロッと言った。「こういうのもあるんだけど」って。そしたら「それって意外といいんじゃない」ってことになって、そこから候補としてのし上がっていったという(笑)。
──今回もタイトル選びは徹夜で議論?
山田:今回はそれはなかった。
岡峰:徹夜はレコーディングのみ(笑)。タイトルに関しては家で考えてきた上で語ろう、って決めてたんで。それでも3回ぐらいは話し合ったかな?
──タイトル選びだけでも全員でそこまで熱を入れる、っていうのはなかなかないことだよね。
松田:なんとなくのイメージを持ってアルバムを制作していっても、実際に出来上がってみると新たな発見があったりしますからね。そういう発見が集まって名前になる、っていうのが自分が思うところのタイトル。実際、途中段階でタイトルを決めたことって一度もないんですよね。
──先行シングルの「悪人/その先へ」についてインタビューさせてもらったとき、バンド史上初めて“せーの”の一発録りじゃなく、別録りでレコーディングしたって言っていたよね。その辺は、アルバムの他の収録曲ではどうだったの?
菅波:どの曲もまずドラムを録って、次にベースを入れて、っていうやり方でした。
──となるとそこは初めから決めていた?
菅波:そうですね。今まで以上にサウンドのクリアさを出すには別録りがいいんじゃないかと思って。例えアンプだけ別室に入れてレコーディングしたとしても、“せーの”でやるとどこか音が混ざってグシャッとする部分が出てくるから。
──それすらも避けたかった?
菅波:うん、それすらも。さらに目の前で演奏してるかのような近さが欲しかったんです。
──生々しさを求めるんならみんなでライブのように演奏して、っていうのが一般的な考え方ですが。
菅波:これは何作か前から思い始めたことなんだけど、ライブっぽくレコーディングしたから生々しく聴こえるとは限らないんですよね。そのことが分かったから、出音自体でよりパンチがあるサウンドを追求しようと考えたんです。ロックな音であることは変えずにね。
──それにしても、これまでアルバム10枚作ってきた後に、別録りを始めるっていうのはどんな感じだったのかな?
松田:最初はみんなで演奏して、そこから個別に録り直していったんですけどね。
山田:最初にみんなでやったのはガイド。それを聴きながらまずマツ(松田)が納得いくまで叩いて。
松田:“この曲にはどんなスネアやキックがいちばん合うんだろう?”とか考えつつ。(菅波)栄純にミキサーのところで聴いてもらいながらね。
──そうやって決め込まれたドラムを聴きながら弾くっていうのはどうだった?
岡峰:俺が弾く時点ではもうドラムは完成してるわけだから、基準になりましたね。こっちはそれに対して一番相性がいいベースを弾けばいい。だからやりやすかった。自分にだけ集中してればいいわけで。これが“せーの”でやってると「さっきのテイク、ドラムは良かったけど俺は良くなかった」みたいなのがいろいろありますからね。
松田:“せーの”でやったときのレコーディングの善し悪しって“今のはバンド全体として良かった”っていう判断ですからね。でも今回は各自がベストを求めていく方向で、そこが新鮮だった。でもエンジニアさんが言うにはね…。
菅波:巷ではこれが普通だよ」って(笑)。
松田:17年やってやっと普通(笑)。
──でも1stアルバムから別録りするのと、17年やってから別録りのとでは何かが違うんじゃない?
松田:みんなで一発で録るとどうなるかはよく分かった上での別録りですからね。実際、みんなで録ると同じメンバー、同じ機材なのにも関わらず全体の音が1回1回違ったりもするんですよね。
──(山田)将司くんは今回のみんなの音入れを見ていてどう感じた?
山田:例えば、マツはもともとその曲の中にどうドラムの置いたらいいかを意識していた。だったら、そこをとことん追求できる今回のような方法は当然の流れだったと思いますね。「もっとみんなとウネりてーんだ」って言うんならこれまでのやり方で良かったんだろうけど。(岡峰)光舟や栄純もやりやすそうでしたよ。やっぱドラムが完全に出来上がった上に気持ち良く自分を乗っけられるわけだから。そこは俺も同じ。みんなが乗っけ終わった後でやれたから。
──あれ、これまでは違ったんだっけ?
山田:アルバムによってはみんなで“せーの”でやったときに歌も録ってたんですよ。
──仮じゃなく?
山田:本チャンを。
──ホントのライブ・レコーディングだな、それは。
山田:『リヴスコール』や『暁のファンファーレ』はほとんどその状態。その点、今回はみんなの音入れを見ながら歌のイメージを固めていって最後にできましたからね。
松田:今までのやり方との違いがどういう風に音として表れているのかは、自分たちではまだ分からないんですけどね。ひょっとしたらこれは、聴き手の感覚的な部分に訴えかけてくる類いのものかもしれない。