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2015.06.04:Interview

NICO Touches the Walls

今だからこそ生み出されたド直球チューン「まっすぐなうた」

アコースティック・アルバム『Howdy!! We are ACO Touches the Walls』を発表後、
新たなステージに向かう次なるバンドの姿を模索していた4人。
結果、「まっすぐなうた」という、過去例を見ないほどストレートな楽曲が誕生することになる。
ここではその背景に迫ってみよう。本楽曲のギター奏法を1曲丸ごと直伝している
GiGS7月号の特集でギター・プレイにも挑戦しつつ、この音世界の奥底に潜んでいる想いを、
本インタビューで知って欲しい。


Text/KYOSUKE TSUCHIYA


L to R:古村大介 [Guitar] , 光村龍哉 [Vocal & Guitar] , 坂倉心悟 [Bass] , 対馬祥太郎 [Drums]
細かいことを考えるのをやめたいなと思ってた時期だったから、
ホントに本能の赴くままに作っていって
——「まっすぐなうた」は久々のシングル音源になりますが、やはりたくさん書いていた曲の中から選ばれたのでしょうね。
光村:そうですね。ただ、相当悩みましたよ。直近はアコースティック・アルバムだったし、久しぶりにまたエレキを持ってというところは、暗に意識はしてたと思うんですけど、さらにその前に出した「天地ガエシ」と「TOKYO Dreamer」が、僕たちのバンドの歴史の中で結構大きなポイントになった曲だったんですよね。じゃあ、どんなものならあの2曲を軽く上回れるのか。そんなことも考えたし、音楽のジャンル的なことも含めて、あれやこれや吟味した期間は長かったかなと思うんですけど、最終的には最もシンプルでビート感もある、衝動が一番あるものみたいなところで、わりと4人が揃って“これだろう”と思ったのが、「まっすぐなうた」だったんですよ。
——次に打ち出すものとしてはふさわしいと。
光村:そういう感じでしたね。できるだけあれやこれや詰め込まないようにしようと。アコースティック・アルバムのとき、アンプをどれぐらい歪ませるかとか、エフェクターは何を使うとか、そういうことを一切考えないでやると、こうも気持ち良くレコーディングできるものかと味をしめたところもあったから(笑)、そういうのも少なからず影響してたと思うんですけどね。そんな中で、その名の通りストレートな「まっすぐなうた」が選ばれたって感じですね。
——勢いを感じさせる楽曲ではありながら、ことさら自分たちが、ライブを大事にしてきたバンドであることを強調しようといったものでもなかったわけですね。
光村:そうなんですよ。もちろん、思いっ切りライブでお客さんを盛り上げてやろうといった思考も、次の新曲というところでは選択肢の中にはあったんですけど、この「まっすぐなうた」をそういう風に作ろうという考えには全然ならなかったですね。とにかく、今だから言える言葉、今だから出せるパワーみたいなものに集中して、アレンジなり、作詞作曲なりもしてたんです。確かに誰もやってないようなジャンル感で、“こうきたか!”みたいな曲にすることもできたのかもしれないけど、今、ものすごくリスナーとの絆みたいなものが生まれている中で、安易にそういうことをするのは何か卑怯だなとも思ったんですよ。とにかく、一番誠実なものをやりたかった。逆に言うと、この「まっすぐなうた」をやってからだったら(何らかの新機軸を)やってもいいけど、というところかな。それぐらい強い思いがあったんです。アコースティックの次に、言わなきゃいけないことがあるなって思ってたから。まぁ、それが歌詞にあるように、<なんか全部間違ってた>ってことなんですけど(笑)。でも、それはものすごくポジティブな意味なんですね。音楽との向き合い方とか、音楽を通しての人との関わり合い方というのは、この1年ぐらいで今までの感覚から180度変わっていったところがあったから、なおさらこういう曲じゃないと、もう1回スタートを切れない感じはあったんでしょうね。
——変化球を投げることもできるけれど、いろいろ考えを巡らせる中で、ここは直球だという結論に行き着くわけですね。曲そのものはいつ頃、書いたんですか?
光村:ホントに今年に入ってからですね。
坂倉:アコースティック・アルバムを録り終えて、ジャケットを決めてるときに僕らも(原曲を)聴いたんですよ。さっきも言ってたけど、「次はどうしよう」って、ずっと悩んでるタイミングでね。
光村:ホントに「エレキを持つべきか?」ってところからでしたから(笑)。
古村:言ってた、言ってた。エレキを持つことに躊躇してたんですよ(笑)。
光村:そう。もう歪んだ音が聴こえることに、ものすごく抵抗があって(笑)。スタジオでアンプが鳴った瞬間“もう帰りたい”って思うぐらい(笑)。
対馬:ドラムに対しても、「リング・ミュートしていい?」って言ってたぐらいですからね(笑)。
——電気を使うことは悪じゃないかみたいな(笑)。
光村:そう、ものすごくエコじゃないことをしてる、みたいなね(笑)。だから、そのときやってたイベントとかも、アコースティックのものとエレキのものが混ぜこぜになったセットを組んだりしてたんですけど、アコースティックのセクションに入ったとき、ものすごい安心感があったんですよ。
——そのまま進んでいたら、ECO Touches the Wallsと呼ばれるようになったでしょうね(笑)。
光村:何を上手いことを言ってるんですか(笑)。
古村:地球に優しい感じだな(笑)。
坂倉:ははは(笑)。いつものスタジオに4人で入って悩んだりもしてて、あるときに聴いたのが、この「まっすぐなうた」になるものだったんです。もう<間違ってた>って歌い出しがある状態で、リズム・パターンも今と同じものでね。その瞬間に“これだよね、この続き、聴きたいよね”って感覚があったんです。
光村:1人でそのスタジオにこもって作ったシリーズの9作目だったんですよ(笑)。ちなみに8号は「ニワカ雨ニモ負ケズ」でした。
坂倉:このシリーズの曲は、ことごとくシングルになっていってるんだよね(笑)。
光村:そう。そういう意味では、期待度が高い(笑)。
坂倉:聴く時点ですでに期待して聴いてるというのもあるかもしれない(笑)。
——対馬くんもそんな期待感を持って聴いたんですか?
対馬:そうですね。最初の1行、<間違ってた なんか全部間違ってた>ってところだけ歌詞が入ってたんですよ。そこの言葉にビビッときたというか。その時点では、きっとみっちゃん(光村)もまだそこまで具体的な考えや思いを込めてというところまで、その言葉に関しても進めていなかったと思うんですよ。だからこそ、本質的なメッセージがそこにあるなと。自分らも、“まっすぐなもの”を求めてたと思いますし、それが一体何なのかをずっと探してたんですよね。そのときにこの1行が、俺にはすごくポジティブに聴こえて、強さを感じたんです。今感じるものを、シンプルに信じたい。そう素直に思えたんですよ。
古村:俺も同じで、歌詞の1行目のインパクトはすごくあって。そのシリーズの10作目も一緒に聴いたんですけど、この2曲は対になってるというか、統一感のあるものだったんですね。そのときに、みっちゃんから出てくるこの感じって、すごくいいなと単純に思ったんですよ。どちらもシンプルでストレートでね。そこはもともと俺らにもある部分ですけど、久しぶりに来たなぁという感じだったんです。ただ、サウンドだけでそれが出てきたとしても、たぶん4人揃ってこの曲をピックアップしようとはならなかったと思うんですよ。そこに1行目の歌詞があったことで、これはさらなる何かがあるぞという予感がしたんですよね。
——何しろ<間違ってた>で始まりますからね。それこそ、これはサビ始まりの曲なんじゃないかと思ったぐらい、惹き付ける力がそこにありましたよ。
光村:うん。でも、そこは何か考えて出てきたものではなかったんです。実はそのスタジオには、ものすごいボロボロのモーリスのアコギがあるんですけど、なぜかエレキの弦が張ってあって、ナットもブリッジもめちゃくちゃみたいな、雑な扱いをされているものなんですけど(笑)、意外とそのギターが結構いろんな名曲を連れてきてて。「Mr.ECHO」もそうだし、「ローハイド」もそうだし、「天地ガエシ」もそうだね。僕は困ったときにそれを握るようにしてるんですけど、今回もブツブツ考えてても全然答えが出ないとき、いつものようにそのギターを持ってパッと弾いたら、一緒に出てきたんですよ、<間違ってた なんか全部間違ってた>って言葉とコード進行が。そのとき“あっ、これだな”と思って、勢いでそのままワンコーラスぐらい作っちゃったんですね。そのときに、この感じだとエレキだなぁと思ったんで、エレキを持って弾いてみたら、ものすごく歪んだ音が間違って出ちゃったんです。今まであまり使ったことのない音だったんですけど、これだなと思ったんですよね。だから、そういうところも含めて、何も考えないで作っちゃったんですよ(笑)。
——そういうところも、衝動に従っていると言えるんでしょうね。
光村:そうですね。あまり細かいことを考えるのをやめたいなと思ってた時期だったから、ホントに本能の赴くままに作っていって。コード進行も、これは前に使ったことがあるやつだとか気にせずにどんどん使っちゃえと思ってね。だから、いいのか悪いのかはさておき、ある意味、手癖みたいなもので作ったんですけど、みんなに聴かせたら「いいじゃん、いいじゃん」みたいになって。そのときに思ったんですよ。今、真っ先にやらなきゃいけないのは、こういうことなのかなって。アコースティックのときに、いろんなものを取っ払っていったというか、余計なことを考えないで、ホントに自分の歌とか曲のこと、歌詞に集中できた感覚は、きっとこういう曲で活かすべきなんだなって…そこからどんどんイメージを膨らませていった感じですね。まったく別路線で、それこそ衝動的なものが必要だなとは思ってたんですよ。だから自分がいろいろ悩んでたことも、この曲でピタッと整理がついたんですね。
——エレキの弦が張ってあるモーリスを弾いたことも、結果的には音に反映されているように思えますね。
光村:あるかもしれないですね。でもね、そのモーリスのギターはホントに状態が酷くて(笑)、低音弦がビビっちゃって、Gとか弾けないんですよ。だから、握ったときに一番マシな音が出るDをまず弾く…つまり、弾いた瞬間に決まるんですよ。
古村:選択肢をギターが握ってるんだ?(笑)
光村:そう。最近は比較的AのKeyで作ることが多いんですね、その辺りの音域が一番自分に合ってるなと思って。だけど、今回はそのときの勢いでDで作っちゃった。そうそう、1回実験したことがあるんですよ。インスピレーションというか、自分のイメージがアコギだから広がるのか、このモーリスのギターだから広がるのかって。で、そのスタジオに自分のマーティンを持ち込んだんですけど、握っても何も出てこなかったんです。そこでモーリスに持ち替えた瞬間、2〜3曲できてしまって。何かすごく不思議なパワーがあるんですよね。それを同じスタジオを使っているPOLYSICSのハヤシさんに話したら、「俺もだよ」って(笑)。
対馬:マジか!?(笑)
光村:そう。あのギターは何かあるよねって、ものすごい2人でドッカンドッカン。僕ね、そのアコギの弦も替えたことがないんですよね。でも、錆びないんですよ。弦が替わってる様子もないし、コーティング弦でもないんです。だから、誰がどう使ってるのか分からないですけど、変なギターなんですよね。
——スタジオって、いろんなものが居るってよく言いますからね。
光村:そう。何か宿ってるんじゃないかなぁって。1行目の歌詞がバッと出てきたときも、考えてひねり出した言葉ではなくて、言わされててる感じ? そうそう、そのモーリスを持って曲を書くと、歌詞も一緒に出てくるんです。インスピレーションがすごく広がる。でもね、<間違ってた なんか全部間違ってた>って言葉が、どうして出てきたんだろうと考えてみたんですよ。今まで自分はものすごくストレートで王道な曲、何年経っても色褪せない普遍的な曲だと思って作ってきたけど、とはいえ、アコースティック・アルバムを作ってた頃に、俺はひねくれた曲が多いなぁとも思って、反省してたんですね。だから、何かそういうことを暗に感じてたんだなぁって。ここで1回、我が振り直しなさいよというか、そういう潜在的なものが、自然に出てきたんだと思うんですよね。
——歌詞を眺めれば、そんな思いは見えてきますよね。
光村:そうそう。そしたら、なおさらこの曲を書かなきゃって気持ちになったんですよね。でも、言いたいことがわりとド頭でバンと言えちゃったから、そこからは結構大変でしたけど。いろいろあったことが、この1年ぐらいで急速に変わっていった。それがモーリスのアコギを持った瞬間に自然と出てきて、音楽になっちゃったという。
——ジャケットやアーティスト写真は何やら面白おかしいイメージがありますが、その印象とはまた違う正統的な楽曲なんですよね。
光村:そうですね。ジャケットもデザイナーさんがいろいろアイディアをくれて、まっすぐ何かを射抜いているイメージでいかないかってことで、銃で何かを射抜いているラフのデザインがあったんですよ。でも、僕が<間違ってた>っていう、反省の歌なんですと。だから、何かちょっと間違ってて欲しいんですと伝えたんです。そのときに、「例えばこの銃がネギだったとか、そういう歌なんですよ」って話をしたら、それがそのまま採用されました(笑)。いろいろ挙げてくれたんですけど、ネギは案外カッコいいぞと。
坂倉:カッコいいと思うまでに時間はかかったけどね(笑)。
光村:最初は冗談のつもりだったからね(笑)。
——つまり、このネギやら何やらが、“間違ってた”ことの象徴になるわけですね(笑)。僕はまだ射抜いていないのです、と。
光村:うん、まだ射抜いてない。「まっすぐなうた」がとにかく歌えなかった、ここから頑張るよって歌だから(笑)。でも、これだけまっすぐに自虐的なことを歌ったら、もう間違えられないなぁと思いますけどね(笑)。
——次は<やっぱり間違ってた>って歌にしなきゃいけないですね(笑)。
古村:<まだ間違ってた>とかね(笑)。
坂倉:<それでも間違ってた>とかね(笑)。
光村:でもね、それはもう、バンド名に壁を掲げているだけあって、定めだなとも思いますよ(笑)。