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THE ORAL CIGARETTES

“新章”の幕開けを告げる傑作『FIXION』に込められた4人の想い

激動の2015年を駆け抜け、バンドとして“新章”とも呼ぶべき2016年の幕開けをニュー・アルバム『FIXION』で告げる
THE ORAL CIGARETTES。本インタビューでは、この1枚が生み出された経緯やさらなる快進撃を誓う今後への想いを語ってもらった。 なお、GiGS2月号では、鈴木による「気づけよBaby」1曲丸ごと奏法解説と、本作で聴くことのできるプレイや使用機材に特化したインタビューを掲載。さらに、GiGS公式YouTubeチャンネルでは、鈴木の奏法実演動画とメンバー全員からのスペシャル・コメントを公開するなど、あらゆる側面から『FIXION』を追った一大特集となっているのだ。
是非キミもギターを手に取りながら、この傑作を余すところなく堪能して欲しい!

Text/TAKAYUKI MURAKAMI

――『FIXION』の制作に入る前は、どんなことを考えていましたか?
山中:2015年に自分たちが出した3枚のシングルって、それぞれ特徴が強かったんですね。だから、シングルを出すたびにいろいろなことを思ったし、お客さんからもいろいろな声をもらったんです。その中で“THE ORAL CIGARETTESはどういうバンドなんだろう”と考えることも増えて、今回のアルバムはその総括をちゃんとできるものにしたいと思って取り組みました。
――総括する上でテーマやキーワードになるような言葉などはありましたか?
山中:自分が“THE ORAL CIGARETTESはどういうバンドだろう”と考えたときに、前までは“シゲ(鈴木)のギター・リフがスゴく効いていて、ボーカルは中音域から低音域を押し出しているというところで個性を出していきたい”と思っていたけど、今回はそこにプラスして“恐怖感とポップの混在”という言葉がキーワードになりました。尖った雰囲気とポピュラリティーを併せ持った楽曲を提示していくことがTHE ORAL CIGARETTESのアイデンティティーだなと感じるようになったんです。このまったく真逆の2つを融合できるのが自分たちだなと思って、『FIXION』の楽曲を作るにあたってスゴく意識しました。
――まさに、そういう楽曲が並んでいます。では、曲を作っていく中で、アルバムの指針になった曲を挙げるとしたら?
山中:やっぱり、シングルの「エイミー」や「カンタンナコト」が大きかったですね。自分たちに“何がTHE ORAL CIGARTTESの良さか”ということを気づかせてくれたから。「エイミー」では僕らのキャッチーな部分が出ているし、「カンタンナコト」はTHE ORAL CIGARETTES独自の“ヒネクレ感”みたいなものが活かされていて、そういうところでアルバムの軸になっているのは、シングルの「狂乱 Hey Kids!!」と「カンタンナコト」「エイミー」かなという気がしますね。
あきら:確かに、あの3曲を形にしたことでいろんなことが見えたというのはありますね。だから今回のアルバムは、バンドとして迷いがない状態で制作に入れました。曲を作っていく際、僕の中で特に印象に残ったのは「通り過ぎた季節の空で」です。この曲では、初めてボーカルのメロディーに絡むようなベースを付けてみたんですよ。それがなくなると、この曲が持っている良いうねりが消えてしまう気がして。ただ、シゲも似たようなフレーズで動いていたので、「ゴメン、変えてくれへん?」みたいな話をして。それで、シゲが泣く泣く変えてくれたんです(笑)。
――なるほど。だからこの曲のサビでは珍しくコードを弾かれているんですね。
鈴木:いや、実はコード弾きじゃなくて、めっちゃ長い1音を弾いているんですよ。スゴく遠いところで鳴っているから、ほとんど聴こえないけど(笑)。紆余曲折あって、そこに辿り着きました。フレーズを変えることになって、最初は“ちくしょう!”と思っていたけど、作り直している途中で“今までやりすぎていたな”と思い返して…(笑)。楽曲としての良さを出すには、こういう方法もあるんだと気づかせてもらえました。(あきらに向かって)ありがとうございます(笑)。
あきら:いやいや(笑)。でも、そうやってシゲにリクエストしたものの、「ベースが動くと低音が足りない」とみんなに言われてしまったんですよ。それで、サビだけベースをボトム・パートとメロディー・パートの2本入れました。ベースをダビングしたのは初めてでしたね。でも、そうやってちゃんと低音域を補うことができたから、フレーズを変えることに難色を示していたシゲに「変えてください」と改めて言うことができました(笑)。
一同:アハハ!!(笑)
中西:ベースを2本入れるような柔軟さを持っていることも、このバンドの強みやなと思いますね。僕の中で特に印象が強いのは「A-E-U-I」です。前から“A-E-U-I”という言葉はあったんだけど、曲として完成するまでにスゴく時間が掛かったんですよ。試行錯誤を重ねて、最終的にすごく攻めたところにいったというところで印象深いです。それにこの曲は、制作の段階で1度ドラムをデータで作るという試みをしていて。スタジオで演奏していると気付かない部分があったり、雰囲気で満足してしまったりすることがあるけど、データで作るとそういう細部までしっかり見えるので、“ここは違うな”とか“この隙間も埋めたいな”といったことが出てきたんです。それを細かく詰めていったら、基本的に16ビートでいくのが正解やなということになった。しかも、土台に4分がある中での16ビートなので、バタバタしないように気を付けないといけないという注意点も分かったんです。そういう風に、データで作ることの有効性を感じられたという点で僕の中では大きい1曲です。
あきら:「A-E-U-I」は、本当に時間が掛かった。なかなかクールな雰囲気に仕上がらなかったんですよ、ずっと。そういう中で決め手になったのが、それまでは普通のマイナー・コードでやっていたのを、3度下の音をベースにしてコードを7thに替えてみたこと。そうしたら、“A-E-U-I”という言葉がスゴく気持ち良く、クールにハマったんです。それで一気に出口が見えて、形になりました。もう、7thコードに変えたときの拓也(山中)の顔は忘れられないですね(笑)。イスから腰を浮かした姿勢のまま近寄って来て、「そ、そ、そのコード、どうなってるん!?」って(笑)。
一同:そうそう!(笑)
鈴木:あれは笑った(笑)。僕は「マナーモード」が印象深いですね。この曲を作るタイミングで、拓也が「ヒップホップの要素を採り入れたい」と言って来たんです。でも僕、ヒップホップはほぼ聴いたことがなくて、“エミネムは知ってるで。でも、歌えと言われたら…分からへん”という状態だった。だから、イチから勉強しないといけないなと思って、ヒップホップのアルバムを何枚か聴いたんです。で、拓也が“ヒップホップの要素”として言っていたのが、イントロからサビにかけてギターはずっと同じフレーズを繰り返していて、リズムで強弱を付けるという手法だってことに気付いたんですよ。ただ、そう気付いたものの、僕は“変わらないことを知らない”タイプじゃないですか(笑)。1Aメロと2Aメロでさえ同じことをしたくないと思う人間なので、最初はホンマに難しいなと。でも、曲の形が出来てきてから、同じフレーズでもAメロでは1音だけ抜いたりとか、サビのニュアンスはそのままでコードの音を1音だけ足したりすれば良い感じになることが分かったんです。それが自分の中で新しい勉強になりました。
――前向きに取り組んで良かったですね。『FIXION』は「STAY ONE」や「通り過ぎた季節の空で」など、THE ORAL CIGARETTESにしてはストレートなアレンジの曲が入っていることも印象的です。
山中:「STAY ONE」と「通り過ぎた季節の空で」は、実は結構昔にもとになるものが出来ていたんです。「STAY ONE」は2年前くらいに1回形にしたんですけど、自分たち的にあまりにもストレートすぎて恥ずかしかったんですよ。その当時付けていたメロディーもあんまり良くなかったし。それで1度は諦めたんだけど、シゲが弾いている頭のギター・リフにスゴく可能性を感じていたから、今回のアルバムを作るにあたって、もう1度取り組んでみることにしたんですね。それで、Aメロのメロディーをパッと付けてみたら、あきらが「そのメロディーめっちゃ良い。その感じでサビまで行こう」と言ってくれて。そうやって1コーラスできたときに、いつものヒネクレ感は入っていないけど、これはこのままやり切った方が絶対にカッコ良いと思ったんです。それで、THE ORAL CIGARETTESにしては珍しくストレートな曲になりました。
――ストレートな分、メロディーの良さが一層際立っています。
山中:そう。この曲を作って“こういう方向性もアリだな”って思いました。「通り過ぎた季節の空で」も、大もとは1年前くらいにあって。この曲のアレンジはその当時からあまり変わっていないけど、シゲのギターがスゴくメロディーに寄り添ってくれたのが大きかったですね。シゲがオーケストラとかを聴いていろいろと研究してくれて、長い音符でどれだけ歌を引き立てるかということを考えてくれたんです。
鈴木:考えました(笑)。今回のレコーディングは楽器陣が先に録り終わって、最後にボーカルが残っているという状態になったんです。そのとき、「通り過ぎた季節の空で」には今とは違うギター・フレーズを入れていたんですね。でも、拓也がボーカル録りをしているときに、「実際に歌ってみたら歌いにくいから、サビのフレーズ変えてくれへん?}と、スゴく申し訳なさそうに言ってきたんですよ。“えっ? 俺もうレコーディング終わってるよな”と思ったんだけど(笑)、言われた日の夜に違うフレーズを考えました。しかも、そう言われた日の2日後くらいにしかギターを録り直すチャンスがないという状況で。何とか録り直したら、拓也に爽やかな笑顔で「大丈夫です」と言われました(笑)。
拓也:…ホンマに俺、勝手ですよね(笑)。申し訳ないことをしたなぁ…。
鈴木:でも、みんなが納得できるものを作らないとバンドでやっている意味がないから。間に合ったし、別に良いよ。
――中1日で考えたのは、あのフレーズを練り上げたとは…さすがですね。さて、年明けの1月5日に『FIXION』がリリースされて、2月からは対バン・ツアーが始まります。2015年後半のライブ活動休止期間を経て、2016年は一気に加速する1年になりそうですね。
あきら:そうですね。自分たち主催の対バン・ツアーで全国を廻るのは初めてなんですよ。ワンマンではない長尺のライブで、一筋縄ではいかないバンド同士で噛み付き合ってる姿を観せられるのは嬉しいし、それに拓也の喉のことで心配してくれた多くの人たちに、他のバンドと元気に渡り合っているTHE ORAL CIGARETTESを見せることが一番のお礼になると思うので。各地でそういうライブをしていこうと、本当にワクワクしていますね。ライブ活動を休止していたこともあって、今は音楽に対するモチベーションがめっちゃ高くなっているんですよ。2月のツアーを経て、1つ2つともっと大きいステージに上がりたいなと思っています。
中西:2マン・ツアーは、全ヶ所対バン相手が違うんですよ。ジャンルも幅広くて、お客さんは“あのバンドとTHE ORAL CIGARETTESが一緒にやるんだ”と意外に思っているみたいですね。でも、こういう組み合わせで2マンをやれるのは、THE ORAL CIGARETTESならではだと思うので、組み合わせの面白さだったり、THE ORAL CIGARETTESの揺るぎなさだったりが、お客さんにしっかり伝わるツアーにしたいと思っています。
鈴木:2マン・ツアーであると同時に、『FIXION』をリリースした後のツアーでもあるじゃないですか。前のワンマンで僕らの振り幅を見せたつもりだったけど、それを超えるステージにするつもりだし、さらに+αの要素として豪華な対バン相手が揃っているので、一層お客さんのいろんな感情を突くライブができると思うんですよ。ぜひ楽しみにしていて欲しいです。
山中:2016年の活動が始まると同時に、THE ORAL CIGARETTESの第2章が始まったなとお客さんに感じてもらえると良いですね。“ライブ活動休止前より、噛みつき具合ヤバくねぇ?”って思って欲しい。レベル・アップしたTHE ORAL CIGARETTESで感動を与えたいと思っているし、それを実現できるように全力で臨みます。2マン・ツアーは、当然相手に対して音楽的リスペクトを持っているけど、それ以前に人としての繋がりが強いバンドが多くて…「THE ORAL CIGARETTESが復活するツアーなら絶対に出る」と即答してくれた、大切なバンドばかりなんです。なので、THE ORAL CIGARETTESがずっと人を原動力としてやってきたというところも、このツアーで見せられると良いなと思っています。