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阿部真央

待望の新作音源で魅せる新たな一面

出産を機に一時表だった活動を控えていた彼女から届いた待望のニュー・シングル「Don't let me down」。
口笛とギター・ストロークという哀愁感漂う幕開けから骨太なロック・サウンドへと展開する阿部真央流“攻め”の楽曲は、
一体どのようにして生み出されたのだろうか。本誌2016年7月号では、この新曲で聴くことができるギター・フレーズの
本人直伝1曲丸ごと解説とボーカルにスポットを当てたインタビューをお届けしているが、本インタビューでは
今作の制作過程と彼女が抱く今後に向けた想いを掘り下げていく。

Text/TAKAYUKI MURAKAMI

曲調的にも、メッセージ的にも、みんなが予想しているものと反対だろうと思った
――「Don't let me down」は、どんなテーマのもとに作られたシングルでしょうか?
阿部:2016年の5月に産休からの復帰作を出そうということ自体は、去年の夏くらいから決まっていたんですね。それで、妊娠中にいろいろと曲を書き始めて、「Don't let me down」ができたとき、これを復帰シングルにしようと決めました。曲調的にも、メッセージ的にも、みんなが予想しているものと反対だろうと思ったので。そのときはまだ離婚もしていなかったですし、そういう予定もなかったので、結婚して出産して、幸せないっぱいの阿部真央がリリースする新作がこういう曲だっていうのは面白いんじゃないかなと思ったんです。
――シャッフル・ビートを活かした乾いた雰囲気の楽曲と、いら立ちを描いた歌詞のマッチングが印象的です。
阿部:歌詞に関しては、この曲はもともとDメロがなくて、後からセクションを付け足したんですよ。Dメロがなくても曲自体を成立させることはできてしまうんだけど、何となくこの曲にはDメロを付けたいなって思ったんです。それで、そこに合う良い言葉はないかなぁって考えていたら、“望む事を止めたら 楽になれるかしら”という言葉が出てきて。これは私が人間関係の中で感じているストレスから来た言葉だったので、その言葉をテーマにして歌詞全体を書いていきました。ただ、私は歌詞の意味を限定するのがあまり好きではないので、聴いた人によっていろんな解釈ができる歌詞になっています。
――曲を作って、すぐにレコーディングをされたんですか?
阿部:はい。産後の状況や体調がどうなるか分からなかったので、出産前にいろいろと終わらせておきたいなと思って。「Don't let me down」をシングルにすることが決まってすぐにスタッフがスタジオを押さえてくれたので、去年の7月中にオケを録って、歌入れは臨月になってから…という流れでしたね。
――ええっ! そんなタイミングに歌録りをされたんですか?
阿部:はい。でも、歌入れ自体は3時間くらいで終わったので全然大丈夫でした。
――やりますね。「Don't let me down」は、阿部真央の新たな魅力を味わえる注目の1曲になっています。そんな1曲と一緒に収録されるカップリング曲についても話していただけますか?
阿部:カップリングは、去年のホール・ツアー“阿部真央らいぶ No.6”のライブ・トラックです。2トラック入っていて、1つは「じゃあ、何故」という曲の弾き語りバージョン。もともと3枚目のフル・アルバム『素。』(2011年6月)に、バンド・アレンジで収録した曲なんですけど、その後のライブでは弾き語りで披露することもあったんですね。私、この「じゃあ、何故」の弾き語りバージョンがすごく気に入っていて、去年のツアーでも弾き語りで歌うことにしたんです。で、その後スタッフから“次のシングルのカップリングはライブ音源にしようと思う”という話をもらったとき、「それなら「じゃあ、何故」にしたいです」と伝えたんですよ。いつかは絶対にCDに入れたいと思っていたので嬉しかったです。
――この曲を聴いて、阿部さんの“歌で心情を伝える上手さ”を改めて感じました。
阿部:本当ですか?
――はい。歌の温度が絶妙ですし、男子のやるせない気持ちを巧みに表現していますので。
阿部:ありがとうございます。元ネタになったのは、私の親友の男の子なんです。彼の恋愛話を、可哀想だなって思いながら聞いて曲にしました。ただ、深い話を聞いていたわけではなくて、「こういう子がいるんだ」ということと、こうなったという結果しか聞いていなかったんですけど、ちょうどその少し後に私も逆バージョンの恋をちょっとだけしたんです。翻弄される恋を、本当にちょっとだけですけど(笑)。それで、親友の恋を題材にしつつ、自分の気持ちもリンクさせて書いた曲だから、歌う時に気持ちが入るんじゃないかなと思います。
――面白いです。もう1つのライブ・トラックは“スペシャル・メドレー”ですね。
阿部:去年のツアーで初めてメドレーを作って披露したら、お客さんがすごく盛り上がってくれたんです。そもそも今回のシングルのカップリングにライブ・トラックを入れたのは、ライブに来て欲しいという想いがあるからなんですけど、去年のツアーではメドレーがスペシャルな目玉のひとつだったからぜひ聴いて欲しいなと。このシングルで私のライブに興味を持ってくれる人がいたら嬉しいし、去年のツアーに参加してくれた方はこのメドレーを聴くとライブの情景が蘇るだろうし、ツアーに参加できなかった人には“こういうライブだったんだ”って楽しんでもらえるんじゃないかなというのもありました。
――メドレーの選曲がすごく良いですね。
阿部:そうなんですよ! 選曲はバンマスと一緒に考えたので、彼の力が大きいと思います。曲が変わるたびに歓声が上がっているじゃないですか。このライブ・トラックを聴いて、私も当時のことをいろいろ思い出して、早くライブがしたくなりました(笑)。
――華やかですよね。1曲ごとに表情が変わるボーカルも聴きどころです。
阿部:本当ですか? ちゃんと変わっていますか?
――変わっていますよ(笑)。
阿部:あぁ、それなら良かった(笑)。
――歌の表情が変わることで、曲が変わるだけではなく、場面が変わっていくようなメドレーになっています。今回のシングルを聴いて、今年の今後の活動が一層楽しみになりました。
阿部:今年は久しぶりに夏フェスに出演します。4年ぶり…とかになるのかな。ちょっと緊張しますね。その前に7月のファンクラブ・イベントがあるんですけど、何せファンクラブ・イベントなので、完全なホームじゃないですか。それに比べると少しアウェー感の強い夏フェスというステージで、しかも産後だから、ちょっと頑張らなきゃいけないなと思っています。
――無理はせずに、良いコンディションに持っていって欲しいです。ライブは、どんなものになりそうでしょうか?
阿部:フェスはバンド形態で出ようと思っているんですけど、ライブの方向性は出演する時間帯と場所によって変わってくると思います。屋内なのか、屋外なのか。昼なのか、夕方なのか。それに合わせて、一番良い形を選びたいですね。ただ、心配なのは歌の体力なんですよ。この間プリプロをしたんですけど、やっぱりちょっと落ちているなって感じたので。夏フェスのステージ上は特に暑いので、体力的にも戻していかないといけないし。喉の体力とフィジカルな体力は別だから、歌の練習と体力的なトレーニングを両方ちゃんとして、標準以下のライブにはならないようにしたいと思っています。というのも、夏フェスというのは120パーセントのものを出そうと思っても、80パーセントくらいしか出せないことが多いじゃないですか。暑くて思うようにできないとか、イヤモニが聴こえないとか…いろいろあるから。だから、自分が持っている力以上のものを見せようっていう意気込みではなくて、自分ができるものをしっかり見せることを目指せば、いざそういうトラブルが起こっても焦らずにいられると思うんです。そのためにもまず、夏までに自分をベストのところに持っていくことを目指します。