LINEで送る

KANA-BOON

熟成させてきた作曲スタイルから生み出されたニュー・シングル「バトンロード」

お互いに向かい合って行われるセッションによって、これまで多くの名曲を生み出してきた4人。しかし、最新作「バトンロード」の表題曲は、デビュー以来構築してきたという谷口1人の宅録スタイルですべてのパートが創り上げられたという。結果、彼らのアンサンブルはどのように変化したのだろうか? ここでは本作に収録されているカップリング曲、さらにはライブ活動についても掘り下げていくことにしよう。ぜひ「バトンロード」のプレイを古賀が1曲丸ごと解説している本誌のインタビューと併せてチェックしてみて欲しい。

Text/YUKINOBU HASEGAWA

——7月12日発売のシングル「バトンロード」は、TVアニメ『BORUTO-ボルト-NARUTO NEXT GENERATIONS』のオープニング・テーマということもあり、すでに番組で聴いた人の中には、ギターをコピーして動画サイトにアップしている方もいますね。
谷口:すでにそこまでやってくれているのは、ミュージシャンとして嬉しいですよね。あとアラ探しをするのも楽しい(笑)。
古賀:「Fighter」のとき、メッチャ思った(笑)。“全然、弾けてないやん!”って。
谷口:ちょっと違ったりするから。たぶん、本人は原曲通りにコピーしているつもりやけど、いつの間にか、その人のアレンジみたいなのも入っててね。
古賀:“そのパートをそう表現すんねや”みたいなのもあって(笑)。
谷口:そうそう。“どう聴いたら、そうなんのや”ってのもあるし(笑)。
飯田:その人それぞれの解釈も混ざっていて、聴いていると面白い。
——すでにライブでも人気曲の1つになっているけど、今のところ「バトンロード」だけ半音下げチューニング(古賀のみレギュラー)だから、セットリストも場所を選んじゃいますよね。
谷口:確かに。でもどの道、極端なポジションになりますけどね、大事な曲なんで。今のところは最初の方か最後ら辺か。なので、今のところチューニング違いによるサオの持ち替えで、面倒くさい問題は発生しにくい(笑)。
——機材関係のテクニシャンがいるんだから、そういう話でもないだろうし。7月や8月などはフェスも多いですけど、ライブそのものに向けた今の意気込みも聞きたいんですよ。
谷口:ライブ自体はすごくいいモードでやれてますね。今までのような“頑張るぞ!”って気持ちだけじゃなくて、冷静に自分たちのプレイを見ているところもあるし。だからいつもライブ後にはそれぞれに話し合ったりとかしてて。ライブは楽しんでいるけど、それで終始するわけでもなく、すごくいい状態ですね。今年の春フェスとか、そういう風にしっかり気持ちを組み立ててやれたところもあるし、逆にちょっと失敗したなってときもあったし。でも次に繋げようという意識を持てているんですよね。
——ライブのたびに次への課題も見つけつつ?
谷口:そうですね。
——もっぱらコイちゃん(小泉)が上手くなった、と大評判ですよ。
小泉:エッ!!
谷口:いや、絶対にどっかからのガセ情報を掴まされてる(笑)。自分で情報をバラまいてるんじゃない?(笑)
小泉:周りに伝えておいてください、という感じで?(笑)
谷口:でも音の出し方が良くなったのは、レコーディングしてて感じる。意識もそこに向いてるのかなって感じるし。
小泉:確かにライブを久しぶりに観た人からは「音が変わった」と言われましたね。春フェスで話した人とかから。「音が力強くなった」って。叩き方とかはテクニシャンの人たちから結構言われてきたんで、ちょっとは良くなってきているのかなって実感できたりします。
——「バトンロード」に収録されている3曲は、わりと近い時期にレコーディングをしていたんですか?
谷口:表題曲「バトンロード」は今年1月、2曲目「アナートマン」と3曲目「ワンダーソング」は去年から断片的にあった曲ですね。
——それは自分だけのデモとして?
谷口:「ワンダーソング」は僕のデモで1コーラスあって、「アナートマン」は去年5月ぐらいにあって。「Fighter」とかを作ったタイミングに近いところでできてた曲ですね。そのときにスタジオでプリプロをしてたんで。
——「アナートマン」は、それぞれにプレイヤーとして結構エグいことをやりまくってますよ。
谷口:楽器陣は確かに面白い曲やと思いますね。去年5月にプリプロやっていたときは、あんまりいろいろ考えてたわけでもなかったけど。
古賀:そこからガラッと曲調が変わったイメージあります。イントロにディレイがガンガンに掛かっていて、PAN振り(音の定位)も結構、右左、右左みたいな感じで、散らかっている印象だったんですよ。でも完成した「アナートマン」は、かなりカッチリとリフがきたり、リズム遊びともあったり。プリプロ音源とは結構変わりました。
——プリプロからの1年弱の期間に、この曲の見方もいろいろ変わったわけですか?
谷口:プリプロした後、この曲をどうするかって話はなくて。“アルバムに持って行ってもいい曲かな”と思ってたんですよ。だから、ついこの前までプリプロ状態のまま置いてた。聴いてはいましたけど、曲に向かうことはなく。でもその間に各々あったと思いますね。この曲に対してとかじゃなく、演奏面とかレコーディングに対してとか。
飯田:レコーディング中はかなり大変でした。やっぱり自分に足りないところもあったりして。プリプロをやってたときは勢いというか、やりたい放題のベース・フレーズを弾いてたんですよ。でも、もうちょっとカチッとした感じとグルーヴィーな面も出さないといけなくて…。サウンド自体もかなり変えましたからね。バンドに合う音というのを考えて、去年から比べたらローもちゃんとあって、ベースらしい音にしたんです。
——完成させるための極秘トレーニングはあったりする?
飯田:…。
谷口:オッ、ないな、こりゃ(笑)。
古賀:極秘トレーニング、あるやろ?
谷口:あんだけつまづいてたのに(笑)。
飯田:つまづきましたね。いや、普通にGarageBand(アプリ)で波形を見るぐらいですけど(笑)。でもそれをしてこなかったから、つまづいたと思うんですよ。全然怠ってた部分なんで。しかも1年前のプリプロで音を録ったときは、みんなでバーンと録っただけなんで。今は自分の音をもっと細かく聴くようにしてます。
——曲自体、キメも多いですよね。聴いていて楽しくなるリズム・アプローチだと思います。
小泉:そうですよね。作り込まれたデモがあると、リズムもそのイメージでやっていくんですよ。でもこの「アナートマン」はわりとセッションに近いイメージで、全部の展開をノリで楽しんで作れたと思います。カチッと決めたというよりも、勢いでカッコ良く録れたんです。
——以前はこういう曲も細かい設計図を自分の中で決めてやってたところがありましたが?
小泉:そうですね。でも取り組んでた時期、結構曲作りもスムーズにいったんですよ。曲を作るのも早かったし、みんなでセッションするのもプリプロも快調だったし。わりと調子いい時期やったかもしれないですね。曲を合わせていて、自分の中からもいろいろフレーズが出てきたし。
——この曲のドラムを聴いて、実は今までいろいろ隠していたんじゃないかと思ったぐらいです。
小泉:いや、そんなに賢くないんで(笑)。やれることを精一杯やってますよ、いつも。でも「アナートマン」のドラムは、結構僕っぽいと思います。基本はベースに付いていくってイメージですけどね。ベースが引っ張っていくんで、僕が味付けをしていくっていう。
——リズム・セクションでここまで彩られたら、ギター・チームは平成の暴れん坊将軍という攻め方になった?
谷口:なんで、そんなちょっとダサい言い方なんですか(笑)。
古賀:うん、世代の違いやと思う(笑)。あんま伝わってこなかった(笑)。
——はい、取材終わり(笑)。というか、ロック度が高めのプレイですよ。ワウ・ペダルを踏みつつ、ノイジーなところもあるし。
古賀:ギター・ソロはメチャクチャやりましたね。プリプロ段階ですごいカオスなフレーズを思いついてて、もしレコーディングするならっていう構想もあったんですよ、そのときから。それが今、入れてるフレーズの数々なんですよ。別にコード進行はカオスでもないんです。でも速弾きしながらワウ踏んで襲い掛かってくる感じとか、ディミニッシュ・スケールで押し寄せてくるようなフレージング入れたりとか。
——今どきは、もうちょい小奇麗にまとめがちだったりするのに、ここまでやり倒すのが“さすが、古賀!”っていう。
古賀:反面教師みたいなところもありますよ。スケールに沿ったフレーズを8分音符で弾くとか、ディレイが綺麗に重なってとか、そういうアプローチも好きなんです。でも自分の思ったフレーズを、ガツンと思った通りに鳴らさないと、魅力っていうものは出ないと思うんで。この曲はガンガンやっちゃっていいんじゃないかと思ったから、その思いのままやっちゃいました。印象がやっぱ強い方がいいと思うんで、僕は。ギタリストがやっている以上、ギター・ソロで胸を踊らせるものがないと意味がないって気持ちも入りつつですけどね。
——イントロのハーモニクスとアーミングから、ギターをやっているヤツだったら食いつくと思いますけどね。
古賀:あれはなかなか弾けなかったですね。リバース・ディレイやったっけ? なかなか自分でリズムが取れなくて。
——この「アナートマン」もライブ・メニューにレギュラー入りさせて欲しいですよ。
谷口:こういうトリッキーめな曲はあんまなかったですからね。レコーディングのとき、古賀がギター・ソロ弾いてるのを見て、思わず笑ってもうて(笑)。やりすぎやろって(笑)。
——自分の想像の範疇を超えると、不思議と笑いがこみ上げますからね。
谷口:そうそう(笑)。見方を変えると、すごく面白い曲ですよ。
——3曲目「ワンダーソング」は、新しいロックンロールだと思ったんです。メロディーとアコギでポップ感を出ているものの、やっていることはロックンロール。どんな料理の仕方をしていったんですか?
谷口:1番の1コーラスだけ僕のデモであって。シングルのカップリングになることが決まって、フルでもう一度デモを作って、みんなに送った感じですね。ギター・ソロだけ入れず、あとは全部入りのデモを。作った時期、アイリッシュ系というかケルト音楽とかにハマって聴いてて。こういう曲調は新鮮かなと思ったんですよ。あと多幸感を曲に詰め込みたかった。そういう自分のイメージ通りに作った感じですね。メンバー全員、こういうタイプの曲を演奏したことないと思ったんで、なんとなく参考になりそうな音源とか映像とかも伝えて、それでレコーディングに挑むやり方でした。
小泉:僕は楽しかった。ケルト風というイメージを言われて、全然、僕の中にはなかったんで、いろいろアーティストを調べて聴いたりもしたんです。ところがケルトって、ドラムがあまり入ってなかったりして(笑)。ケルト風のパンクとかもあったんですよ。それも「ワンダーソング」の楽しさとはまた違ったんで、僕が抱いたイメージをテックさんに伝えて「こういう感じのドラムにしたいんです」って要望も言ったんです。で、「こんなフレーズもあるよ」ってテックさんに教えてもらいつつ、このアプローチを仕上げていきました。サビとかはロー・タムで回しているんですけど、最初は軽快感が欲しかったんで、ハイとローを交互に回して、頭打ちはライドをチーンと打って、流れを出すという。そういう奏法も教えてもらいながら曲に入れていったんですよ。手数の多いフレーズなんでレコーディングは大変な面もあったんですけど、叩いていて楽しかったですね。
古賀:僕もケルトっていうのはあまり触れてこなかったところで。スケール自体はペンタトニックとかの王道系なんですけど、ケルトって結構開放弦を多用しているんですよ。それによって速弾きを実現させるみたいなところがあって、そんなエッセンスも採り入れてみました。やってみると楽しかったです。開放弦を入れるのは今後も使えるなって思いました。
谷口:でも、古賀が持ってきた最初のソロは全ボツにしましたけどね(笑)。
古賀:最初は開放弦に頼りすぎのソロだったんですよ。それが違うアーティストの曲に似ているって言われて(笑)。そりゃマズイってことで、急遽チャック・ベリーとかも聴いて、ソロを組み立てていきました。
谷口:全体的にはアイリッシュとかケルトにしようとしてましたけど、ギター・ソロであからさまにオーセンティックなものも入れようって、レコーディング現場で古賀に変えてもらって。
古賀:ソロはアイリッシュというよりロックンロールだもんね。
飯田:ベースも録ってて楽しかったですよ。指弾きかピック弾きかで悩んで、両方試してみたんです。指弾きのボンボンした感じも似合う曲だったけど、ピック弾きの生々しいガリッとしたニュアンスとかが曲に似合って、もっとワクワクする音にもなったんです。結構テンション上げながら録ってました。
——KANA-BOONの曲は、リスナーとして聴くだけではなく、実際にコピーしてみると面白さをさらに感じるはず。
谷口:うん、今回のシングルは収録されている3曲とも、いろんなのが詰まっているかな。「バトンロード」は王道やし、「アナートマン」はテクニカルでチャレンジしづらいような難しいところもあったり。「ワンダーソング」は音楽を演奏するのが楽しいって思えるような感じなんで。“プレイする”っていう方向からも曲を楽しんでもらえたらと思いますね。