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『「ビートルズと日本」熱狂の記録』の出版記念トークイベントが4月2日、3日の2日間に渡り、それぞれゲストを迎え行われた。同書は大村 亨氏が「現役時代のビートルズは、日本ではどのようにマスコミに取り上げられていたのか?」という視点で作成した膨大なデータをベースに編集された500ページを超える大書。2日目のゲストはビートルズ初代担当ディレクター、元東芝音工の高嶋弘之氏。著者大村 亨氏が本書の出来るまでの経緯を説明した後、大きな拍手に迎えられての登壇となった。

ファッション、ヘアスタイル、熱狂する女の子…まず現象としてのビートルズを見せようと思った

高嶋:いい本ですね、この本。でも、書く前になんで僕の所に相談に来なかったのか、さっき控え室で怒ったんですよ。とはいっても非常に労作です。よく書けてるし調べてある。でも僕の所に来たら簡単に済んでる話もあるんです。
大村:(恐縮して)はい。
高嶋:「プリーズ・プリーズ・ミー」が日本での一弾目か、「抱きしめたい」が一弾目かといった問題ですが、アメリカ・キャピトルのリビングストン社長はずっとビートルズを出さなかった。最初はVee-Jayというレーベルが、次にSWANが出してました。僕は「プリーズ・プリーズ・ミー」を第一弾でと考えてた。シングル盤の歌詞カードの裏側には親会社の東芝のステレオの広告が入っています。それで第二弾で「抱きしめたい」。これも裏にはステレオの広告入り。ところがアメリカのキャピトルがイギリスのEMIに言われてしかたなく出そうと決めたのが「抱きしめたい」だったんです。これは日米歩調を合わせなければいけないので「抱きしめたい」を先に出しました。
大村:ビートルズの宣伝もいろいろとやられたと。report160403_01
高嶋:最初ビートルズのレコードを出してからの宣伝ではいろんなことをやりましたよ。ビートルズをなんとかしよう…と思っているとき、最初彼らはエリなしのジャケットを着てたので、東芝音工(今のマリオンの所にあった朝日新聞社の6階)の近くの西銀座デパートにあった京橋テーラーに僕は飛び込みで行ったんです。そこで、「大変ことになりますよ!イギリスからビートルズというすごいグループがやって来ます!私は彼らから権利を全部任されていて(もちろん何も任されてません)、このデザインで服を作ったら滅茶苦茶売れますよ」といってご主人に写真を見せたんです。この親父さんが実は立志伝中のすごい人物なんですが、僕のことはインチキだと思ったかもしれないですけど、騙されてくれた。そこでノーブル・キャッスルというブランドでエリなしの服を作ってくれたんです。僕は「権利は全部任されているのでこの服を作る権利はタダで上げます、その代わり僕に30着下さい」って服をもらって、それをセールスの連中に着せて銀座を歩かせた。びっくりしたんだけど、この本にその写真が載ってるんだよ(64年6月の週刊平凡パンチ誌)。
大村:載せました。
高嶋:あと、当時なかなか誰も乗ってくれない中でTBSの女性ディレクターが「売れるかどうかわからないけど、私は好きだ」って言ってくれて。これで、よっしゃ!って思いました。女性は肌で感じてくれる。
大村:直感で。
高嶋:音楽評論家の福田一郎さんは、最初大きな声で「ビートルズ、あんなもの当たるわけないぞ!」ってラジオ局で言ってらしたので、東芝に見えたとき「先生がダメと仰ってもビートルズの波は日本に上陸します。そのときにダメだって仰っていたら福田先生の名前は海の藻くずと消え去るかもしれません。先生が大好きですからこんなことで先生を失いたくありません」ってお話しをして、ビートルズのレコードを準備して自宅で聞いていただいたんです。1週間後にいらしたときは大きな声で「高嶋!売れるぞ、ビートルズは!」って。こういうのが大事なんです(笑)。この後、福田一郎さんはビートルズをすごく応援してくれました。
大村:プロモーションのお話では、床屋の話もございますよね。
高嶋:さっきのエリなしビートルズ・スーツの連中に銀座を歩かせたのもそうだけど、これはまず現象としてのビートルズを見せようと思ったことの一つです。いろいろと髪型を考えてくれる女主人の床屋が五反田にあったので、東芝の人間を連れていって、カットの練習に使うカツラを被せて切ってもらったんです。これを「早くも町の床屋に現れたビートルズ・カット希望の青年」という見出しで、日刊スポーツの担当者に騙されてもらってニュース映像にしました。
大村:この写真ですね。
高嶋:そうそう、彼は東芝の音楽出版の人間。他にも、もう時効だと思うから言いますけど、文化放送の「ハロー・ポップス」という電話リクエストの受付嬢10人の中に3人ばかり潜り込ませて、ローリング・ストーンズとエルヴィス・プレスリーのリクエストをビートルズのそれにすり替えたり、東芝のレコード・コンサートに女子高生のサクラを何人かいれて曲が盛り上がる所で合図をして「キャー!!」って悲鳴を上げさせたりしました。でも、それもこれも作品がいいからなんです。いいものはちょっと手を加えることで出てくるんです。

日本語タイトルのつけかた、その秘密

report160403_02大村:発売中止となったアルバム『ザ・ベスト・オブ・ザ・ビートルズ』のお話もお願いできますか。 (ここで高嶋氏所有の“幻のアルバム”『ザ・ベスト・オブ・ザ・ビートルズ』が披露される)
高嶋:当時海外からアーティストが来るとベスト盤を作る…というのは常識だったんです。そこで、僕はビートルズの来日記念盤として『ザ・ベスト・オブ・ザ・ビートルズ』というのを作った。ところがEMIから出しちゃイカン!と言われて、結局中止。それまではいろいろと日本側で独自のものを作ってたんですよ。ビートルズの日本での1枚目、2枚目も全然オリジナルとはジャケットも曲も違うし、「ア・ハード・デイズ・ナイト」も僕は日本独自のジャケットにした。洋楽のディレクターのクリエイティヴな作業といえば曲順を変えるとか、タイトルだけなんです。僕は自慢じゃないけどタイトルを付けるのが上手い。「抱きしめたい」もすごいでしょ、他にもアダモの「雪が降る」「夢の中に君がいる」とか、「この胸のときめきを」とかいくつもあります。クリフ・リチャードは最初日本のコロムビアが持ってたんですけど売れてなかった。クリフの「THE YOUNG ONES」にはコロムビアが「俺は若いんだ」ととんでもないタイトルをつけてた。僕は、クリフは青山学院とか慶応、立教のプライベート・スクールの女子高生がターゲットだと考えて、「ヤング・ワン」にしたんです。他にも「ラッキー・リップス」「サマー・ホリディ」とかでクリフを売りました。
大村:ビートルズが来日したときに、会ったメンバーやブライアン・エプスタインのお話をぜひお聞かせください。

ビートルズの連中は皆を驚かせたり笑わせたりするのが身についてるんですね

高嶋:石坂敬一さんのお父さんの石坂範一郎専務と加山雄三さんと僕とで会いに行ったんです。昔のヒルトン・ホテルのフロントの左側に4基のエレベーターがあるんだけど、それでは上がらない。裏の方に廻ってちっちゃなエレベーターで10階まで上がりました。その時のガードをしてたのが日本警備保障、SECOMの走り。それをものすごく覚えてる。時代ですよね。で、10階に上がって、僕が先頭、次に加山雄三さん、そして石坂専務の順で部屋に入ったんです。向こうはポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター。で、こんにちは~How do you do~と挨拶するんですけど、仕事で行ってるから非常に硬いんです。あれ?ジョン・レノンはどうしたかな?と思ったら、ジョンが我々の後ろからおどけるように出てきたみたいで、加山雄三さんを後ろから羽交い締めにして振り回したんです(実際お客さんを上げて同じポーズをする)。そうしたらポール・マッカートニーがウワッハーって真っ先に笑った。あの連中は皆を驚かせたり笑わせたりするのが身についてるんですね、エンターテイナーですよ。そこで、これから飯を一緒に食えるなって思ったら、チェ!!ですよ。加山さんはビートルズと一緒に食事に行って。
大村:すき焼きを食べられた…。
高嶋:あ、ちょっと、その話早かったな(笑)。
大村:すいません…。
高嶋:ブライアン・エプスタインが「君たちに話がある」って言うんです。君たちって僕と石坂専務だね。別室で、ブライアン・エプスタインと同じ高さに向かい合って座るんだけど、気持ちは織田信長の前でハハッーって平伏してる羽柴秀吉、木下藤吉郎。石坂専務はきれいな英語を喋られる方なんだけど、緊張されてる。僕も緊張してる。それでいろんな話があったんだけど、家に帰ってきてからふつふつと怒りがこみ上げてきたんです。なんで俺がブライアン・エプスタインの前で平伏するんだと、誰のおかげで日本に来れたと思ってるんだと。呼んだのはキョードー企画の永島達司さん、でも呼べたのは人気があったから。その人気があるようにしたのは誰やねん!と。本来ならばブライアン・エプスタインが4人を連れて世田谷の私の家に来て(そこ、笑うとこじゃないから)、「高嶋さん、あなたのおかげでやっと日本に来れました」って言っても罰が当たらないくらいのことは僕やったんだから。  例えば東芝の自分のデスクの上にマスコミの連中の目につくように、マル秘と判を押したでっち上げのレコード週間売り上げ速報(1位はダントツでビートルズ)をなんとなく置いて席を離れたりするんですよ。そうしたらマスコミはそれをちょい見する。そこで席に戻った僕は部下に「今週のビートルズの売り上げはどうだ?」って聞く、そうすると打ち合わせしたおいた数字が返ってくる。マスコミも自分が書いてるビートルズが“売れてる”という実感がないと、その書いた文字は踊らないんです。だからマスコミの人は騙されてくれたと思いますね。それと「ビートルズからは発売の仕方を学んだ」とかカッコいいこと言ってますが、僕は2年間で30枚くらい出してる。
大村:シングル盤そうとう出してますよね。
高嶋:そう、「ロックンロール・ミュージック」「ミスター・ムーンライト」「プリーズ・ミスター・ポストマン」「ツイスト・アンド・シャウト」と、もう全部オールディーズのカバーを出してるんです。それでファンの耳を馴らしていったんですよ僕は。で、何の話やったか。
大村:ブライアン・エプスタインの話。
高嶋:家に戻って腹が立って洋楽のディレクターを辞めたんです。だからそこから全部邦題がなくなった。1967年、昭和42年2月に僕はディレクターとして邦楽の黛ジュンを出した。よっしゃ!日本人を売ってやろうと思った。悔しくて。だから見てください。ジャズやクラシック、シャンソンを含めた当時日本での洋楽のシェアどのくらいですか?85%ですよ。今はそれが逆転してるんです。だから僕がやったわけじゃないけど、東芝で宇多田ヒカルが出てきたときは非常にうれしかったね。俺が日本人を売ってやろうと思っていたのが、やっと後輩がそこまでやってくれたかと。

この後、高嶋氏は場内の質問に答えながら、『ザ・ベスト・オブ・ザ・ビートルズ』の幻のジャケットを描いたクロード・岡本氏の話題や、関係された数々のアーティストのエピソード、ご自身のディレクター哲学など非常に有意義な話を披露され、予定時間を大幅にオーバーした盛り上がりでイベントは終了した。

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写真左から高嶋弘之氏、大村 亨氏、

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ビートルズが主に活動していた期間である1963年1月1日から1970年12月31日に、日本でビートルズがどう扱われ、どんなふうに日本と関わり、どんな足跡を残していったかをまとめた永久保存版!! 著者の大村亨氏は新聞10紙(朝日、読売、毎日、東京、報知、日刊スポーツ、サンケイスポーツ、デイリースポーツ、スポーツニッポン、東京中日スポーツ)、テレビ番組、ラジオ番組、週刊誌15誌(文春、新潮、朝日、女性自身、プレイボーイ、アサヒ芸芸能など)をすべて把握しており、それらを元に詳細な「ビートルズと日本」の歩みを一冊の本にすることに成功。当時の記録資料を縦横無尽に使い倒して論じた究極の“ビートルズ・アーカイヴ”は、日本のビートルズ・ファンにとって、まさに見たことがない決定本です。

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